1539話・都督府制圧(2)
刹那の章IV・月の姫(25)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
都督執務室に案内されたティミド達。
案内役は都督の実娘であるヤオシュで、すっかり彼女は肩を落としてしまっていた。
その理由は都督府が18000もの黄金騎士に包囲されており、全くもって対応する術が無いからだ。
また包囲される事態に至った起因が、自分と父親にある事を良く認識していた為でもある。
正に予想外…傭兵団・眠りの森に、これ程の力が有るとは思いもしなかった。
推測するに突如出現した軍勢の様子から、恐らく召喚魔法か呪法の類だと考えられる。
しかし規模が明らかに常軌を逸しており、触れては為らない物に"障った"…そう後悔せざるを得ない。
「さて…全て話して頂きましょうか」
ティミドが執務席に座する都督へ告げた。
都督…イェシン・チャンシーは諦めた様子で返す。
「兎に角、掛けてくれないかね? 落ち着いてから話そうではないか」
キッパリと断るティミド。
「いえ、ご遠慮します。落ち着いて油断した所を襲われるかも知れませんし」
「そうか……」
苦笑いを浮かべたイェシンは軽く咳払いをした後、立ち上がり頭を下げた。
「君達を騙してしまった事、本当に申し訳無く思っている」
「言葉では何とでも言えます」
「……う、うむ。この償いは可能な限りさせて頂く。何でも言って欲しい」
「……」
往生際が悪い…そうティミドは思う。
本来なら命を奪われて当然の状況なのだ。
それなのに平然と謝罪し、"償う"などと言い出したからだ。
『まぁ良いわ。最終的な沙汰はプリームス様に仰ぎましょう』
「その償いとやらは後回しです。先ずは全て話して貰いますよ」
「分かった。先ずは迷宮へ潜る君達に、支援を申し出た理由だが…」
イェシンが説明を始めるが、その機先を制するようにティミドが被せた。
「私達の行動を監視し易くする為でしょう。それでハクメイ姫を迷宮の主人に引き渡す…これが元々の目的だった、違いますか?」
「……そうだ、君の言う通りだよ」
「つまりアドウェナと都督閣下は水面下で繋がっていたのですね。ではハクメイ姫を狙った理由は何なのですか?」
「それは…」
言い淀むイェシン。
すると透かさずヤオシュが割って入った。
「それは私が説明します」
「……良いでしょう。全ての事情が分かるなら、誰が説明しようが私は構いませんよ」
そんなティミドの態度を見て、リキがソッとシンへ囁いた。
「流石は永劫の騎士だな。都督程度では少しもビビらねぇ」
直後、リキは小さく悲鳴を上げる。
「ぐぇっ?!」
シンが肘鉄を入れたのだ。
「軽率ですよ」
そしてソッと忠告した。
ここに永劫の騎士が居るなど有り得ず、また"それ"が露見しては為らないからだ。
「…? 何ですか?」
ティミドから怪訝そうに問われるが、何も無かったようにシンは涼しい顔をする。
「いえ? 何でも有りませんよ?」
『やれやれ、何をやってるのやら』
「話の腰を折ってしまいましたね、どうぞ続けて下さい」
ティミドに促されたヤオシュは怖々と話し始めた。
「ハクメイ姫を狙ったのは、彼女の肉体がアドウェナに適合する可能性が高かったからです」
「適合? まさか…肉体を乗っ取るつもりだと?!」
ティミドは慌てそうになった。
ハクメイは主と義姉妹の契りを交わした仲なのだ。
『もし彼女の身に何かあれば…』
悲しむだけで無く、逆鱗に触れた事で大惨事に発展し兼ねない。
「乗っ取るでは無く、依代にするが正しいでしょう」
「依代……」
『乗っ取られないなら、まだ"ハクメイ姫のまま"救い出せる可能性は高いか…』
ふと思うティミド。
ならば"今のアドウェナ"は誰を依代にしているのか?
どうして依代が必要な状況に陥ったのか?
迷宮の主人となると、その殆どが不死体の存在だ。
例を挙げるなら不死王や吸血鬼である。
どちらも死とは無縁だが、そこに至るまでは只の人間だった者ばかりだ。
それを鑑みると、不死者に至る途上にアドウェナが居るのかも知れない。
何にしろ他者を犠牲に、自身を存続させる悪鬼と大差ない。
ならば早々に滅ぼして然るべきだろう。
ここでイェシンが俯きながら言った。
「今、アドウェナが依代にしているのは…私の妻なのだ。妻を取り戻す為には、アドウェナに協力する他無かった……すまない」
「……」
『訳を聞かなければ良かった……』
露骨に嫌そうな顔をしてしまうティミド。
最も面倒な展開の一つだからである。
仮に都督とヤオシュを見捨てアドウェナを殺せは、楽にハクメイを取り戻す事が出来る。
しかし主君は"そんな事"を良しとはせず、きっと両者を救おうとする筈だ。
『あぁ〜〜目的の為に手段を選ばない御方なら、どれだけ楽な事か…』
だがそれでは"今の自分"も此処には居なかった。
ティミドは溜息をついた。
「はぁ……ハクメイ姫は絶対に奪還します。そしてアドウェナの肉体は滅ぼさずに、その魂だけを消し去る方法を考えましょう」
この言葉が余りにも意外だった所為で、イェシンとヤオシュが唖然とした。
「「……」」
「何ですか?」
「い、いや…まさか事情を理解しただけで無く、妻の奪還に協力してくれるのだろう? 皆諸共に殺されると考えていたのに…何と寛容な」
と未だに信じられない様子のイェシン。
ティミドは善人だと思われるのが癪に感じた。
それは詰まる所、御し易い"お人好し"と同義であり、主君を第一に考える自分には耐え難いものなのだ。
「勘違いしないで下さい、最終的な沙汰はディーイー団長がされます。それまでの暫定処置でしか有りませんから」
「理解している。それでも私達にとっては過分な扱いなのだ…この恩に報わせて頂きたい」
「寛容な処置…痛み入ります」
などと返したイェシンとヤオシュは、親子揃って深く頭を下げた。
「既に迷宮の状態は知っているかも知れませんが、団長が自ら乗り込んだ以上、アドウェナが"只で済む"とは思えません。ですから私達は早急に迷宮へ向かわねば為りませんよ」
口よりも行動で示せ…そうティミドは暗に告げた。
これにイェシンは不思議そうな表情を浮かべる。
「…? 迷宮の状態とは?」
「え…?」
つい聞き返すティミド。
ヤオシュも状況が飲み込めていないようで、父親と同じ反応だ。
「迷宮に何か起こったのですか?」
「おいおい…あれだけの事が起きたのに、何にも知らねぇって、どう言う事だ?」
結果、堪え切れなくなったリキが、割って入る始末となるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




