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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
1663/1765

1539話・都督府制圧(2)

刹那の章IV・月の姫(25)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

都督執務室に案内されたティミド達。

案内役は都督の実娘であるヤオシュで、すっかり彼女は肩を落としてしまっていた。


その理由は都督府が18000もの黄金騎士に包囲されており、全くもって対応する術が無いからだ。

また包囲される事態に至った起因が、自分と父親にある事を良く認識していた為でもある。


正に予想外…傭兵団・眠りの森に、これ程の力が有るとは思いもしなかった。

推測するに突如出現した軍勢の様子から、恐らく召喚魔法か呪法の類だと考えられる。

しかし規模が明らかに常軌を逸しており、触れては為らない物に"障った"…そう後悔せざるを得ない。



「さて…全て話して頂きましょうか」

ティミドが執務席に座する都督へ告げた。



都督…イェシン・チャンシーは諦めた様子で返す。

「兎に角、掛けてくれないかね? 落ち着いてから話そうではないか」



キッパリと断るティミド。

「いえ、ご遠慮します。落ち着いて油断した所を襲われるかも知れませんし」



「そうか……」

苦笑いを浮かべたイェシンは軽く咳払いをした後、立ち上がり頭を下げた。

「君達を騙してしまった事、本当に申し訳無く思っている」



「言葉では何とでも言えます」



「……う、うむ。この償いは可能な限りさせて頂く。何でも言って欲しい」



「……」

往生際が悪い…そうティミドは思う。


本来なら命を奪われて当然の状況なのだ。

それなのに平然と謝罪し、"償う"などと言い出したからだ。

『まぁ良いわ。最終的な沙汰はプリームス様に仰ぎましょう』

「その償いとやらは後回しです。先ずは全て話して貰いますよ」



「分かった。先ずは迷宮へ潜る君達に、支援を申し出た理由だが…」



イェシンが説明を始めるが、その機先を制するようにティミドが被せた。

「私達の行動を監視し易くする為でしょう。それでハクメイ姫を迷宮の主人(アドウェナ)に引き渡す…これが元々の目的だった、違いますか?」



「……そうだ、君の言う通りだよ」



「つまりアドウェナと都督閣下は水面下で繋がっていたのですね。ではハクメイ姫を狙った理由は何なのですか?」



「それは…」

言い淀むイェシン。



すると透かさずヤオシュが割って入った。

「それは私が説明します」



「……良いでしょう。全ての事情が分かるなら、誰が説明しようが私は構いませんよ」



そんなティミドの態度を見て、リキがソッとシンへ囁いた。

「流石は永劫の騎士(アイオーン・エクェス)だな。都督程度では少しもビビらねぇ」


直後、リキは小さく悲鳴を上げる。

「ぐぇっ?!」



シンが肘鉄を入れたのだ。

「軽率ですよ」

そしてソッと忠告した。

ここに永劫の騎士(アイオーン・エクェス)が居るなど有り得ず、また"それ"が露見しては為らないからだ。



「…? 何ですか?」



ティミドから怪訝そうに問われるが、何も無かったようにシンは涼しい顔をする。

「いえ? 何でも有りませんよ?」



『やれやれ、何をやってるのやら』

「話の腰を折ってしまいましたね、どうぞ続けて下さい」



ティミドに促されたヤオシュは怖々(おすおず)と話し始めた。

「ハクメイ姫を狙ったのは、彼女の肉体がアドウェナに適合する可能性が高かったからです」



「適合? まさか…肉体を乗っ取るつもりだと?!」

ティミドは慌てそうになった。


ハクメイはプリームスと義姉妹の契りを交わした仲なのだ。

『もし彼女の身に何かあれば…』

悲しむだけで無く、逆鱗に触れた事で大惨事に発展し兼ねない。



「乗っ取るでは無く、依代にするが正しいでしょう」



「依代……」

『乗っ取られないなら、まだ"ハクメイ姫のまま"救い出せる可能性は高いか…』

ふと思うティミド。

ならば"今のアドウェナ"は誰を依代にしているのか?

どうして依代が必要な状況に陥ったのか?


迷宮の主人となると、その殆どが不死体の存在だ。

例を挙げるなら不死王ノーライフキングや吸血鬼である。

どちらも死とは無縁だが、そこに至るまでは只の人間だった者ばかりだ。

それを鑑みると、不死者に至る途上にアドウェナが居るのかも知れない。


何にしろ他者を犠牲に、自身を存続させる悪鬼と大差ない。

ならば早々に滅ぼして然るべきだろう。



ここでイェシンが俯きながら言った。

「今、アドウェナが依代にしているのは…私の妻なのだ。妻を取り戻す為には、アドウェナに協力する他無かった……すまない」



「……」

『訳を聞かなければ良かった……』

露骨に嫌そうな顔をしてしまうティミド。

最も面倒な展開の一つだからである。


仮に都督とヤオシュを見捨てアドウェナを殺せは、楽にハクメイを取り戻す事が出来る。

しかし主君プリームスは"そんな事"を良しとはせず、きっと両者を救おうとする筈だ。


『あぁ〜〜目的の為に手段を選ばない御方なら、どれだけ楽な事か…』

だがそれでは"今の自分"も此処には居なかった。


ティミドは溜息をついた。

「はぁ……ハクメイ姫は絶対に奪還します。そしてアドウェナの肉体は滅ぼさずに、その魂だけを消し去る方法を考えましょう」



この言葉が余りにも意外だった所為で、イェシンとヤオシュが唖然とした。

「「……」」



「何ですか?」



「い、いや…まさか事情を理解しただけで無く、妻の奪還に協力してくれるのだろう? 皆諸共に殺されると考えていたのに…何と寛容な」

と未だに信じられない様子のイェシン。



ティミドは善人だと思われるのが癪に感じた。

それは詰まる所、御し易い"お人好し"と同義であり、主君を第一に考える自分には耐え難いものなのだ。

「勘違いしないで下さい、最終的な沙汰はディーイー団長がされます。それまでの暫定処置でしか有りませんから」



「理解している。それでも私達にとっては過分な扱いなのだ…この恩に報わせて頂きたい」

「寛容な処置…痛み入ります」

などと返したイェシンとヤオシュは、親子揃って深く頭を下げた。



「既に迷宮の状態は知っているかも知れませんが、団長が自ら乗り込んだ以上、アドウェナが"只で済む"とは思えません。ですから私達は早急に迷宮へ向かわねば為りませんよ」

口よりも行動で示せ…そうティミドは暗に告げた。



これにイェシンは不思議そうな表情を浮かべる。

「…? 迷宮の状態とは?」



「え…?」

つい聞き返すティミド。



ヤオシュも状況が飲み込めていないようで、父親と同じ反応だ。

「迷宮に何か起こったのですか?」



「おいおい…あれだけの事が起きたのに、何にも知らねぇって、どう言う事だ?」

結果、堪え切れなくなったリキが、割って入る始末となるのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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