1538話・都督府制圧
刹那の章IV・月の姫(24)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
完全に武装解除してしまった中隊の中を、ティミド達は素通りする。
その後を黄金騎士等がゾロゾロと続き、ティミドは慌てて最上位個体へ言った。
「ちょ、ちょっと待って! 全員は入れないから中隊程度を連れて行くわ」
これにヘネラルは頷くと、振り返って長槍を持った黄金騎士へ目配せした。
すると目配せされた騎士は、直ぐに察した様子で踵を返し、その長槍を高く掲げる。
直後、ゾロゾロと進軍し始めていた二個師団は、ピタッ…と動きを止めた。
それを確認した後、ヘネラルはティミドに先へ進むよう身振りで促す。
首を傾げるティミド。
『んんん? 指揮させる騎士を指名したのかな?』
そう言えば妄執の軍団の名簿には、ヘネラルの直ぐ下に何人かの準上位個体が記されていた。
しかしながらヘネラル程は見た目が差別化されていないので、誰が誰なのかパッと見では分からない。
『まぁ良いか…ヘネラルが任せたんだし、大丈夫よね』
兎に角は都督に会って、全ての事情を聞き出すのが先である。
こうして200人程度の黄金騎士を連れ、ティミド達は都督府府舎へ足を踏み入れたのだった。
だが200人は流石に多かったかも知れない。
念の為の戦力ではあるが、屋内では展開可能な数が限られてしまう。
特に通路で戦闘になった場合、数の優位性が逆効果に成り兼ねない。
そんなティミドの危惧を察したのか、或いは屋内戦闘にも慣れているのか、黄金騎士達は密集せずに都督府に進入する。
また基本的に隊列は組まず、多くても横並びに二人で、前後の距離は2mほど空けていた。
その様子を見てティミドは感心した。
『流石はプリームス様の元禁軍だわ』
近衛や禁軍の任務は、主に居城などで警護や警備を行う。
故に屋内で如何に立ち回るか、一般的な兵科に比べて熟知しているのだろう。
片や都督府内の衛士は怖気付いたのか、黄金騎士を見るなり逃げ出す始末。
これにはティミド達も呆れて肩透かしを食った気分だ。
「これじゃあ折角の都督府舎が泣くな」
と皮肉を口にするリキ。
「そうですね。ですが流血を回避出来るに越した事は有りませんよ」
などとシンはリキを諭した。
確かにそうだが、これはこれでティミドとしては不安が有った。
何故なら都督側の行動が見せ掛けだったなら、罠なのは間違い無いからだ。
かと言って都督側の戦力で、この黄金騎士に対処出来るとも思え無い。
『なら中核である私達を討てば…』
召喚主を失った妄執の軍団は、目的を失い機能不全を起こす。
そこまで推測したティミドは自嘲した。
「フッ…そんな訳無いか」
都督が妄執の軍団を知る由も無いのだから。
そうこうしている内に最上層の8階へ到達する。
これと言った迎撃は無く、ここまで来ると逆に不気味だ。
因みに途中で職員を1人捕まえて、都督が居るであろう場所は聞き出してある。
そこは8階フロアの一番奥…都督執務室であり、籠城するには最適な部屋と言えた。
また都督執務室に繋がる経路は、7階から上がって来て直ぐの廊下になる。
これを只直進するだけで済むのだが…。
「誰が居るな」
とリキがボソリと呟いた。
長い廊下の先に、黒尽くめの格好をした女の姿が見える。
髪が左右に金と漆黒に分かれており実に特徴的…一度見れば忘れる事は無い。
そう彼女は都督の実娘であり、傭兵団・黒金の蝶の長ヤオシュだった。
「あら…団長自ら出迎えてくれるのですか?」
ティミドは揶揄気味に言った。
対してヤオシュは無言のままで、ティミド達をジッと見つめるだけだ。
『一体何なの?』
不可思議さを超えて、気持ちが悪いとまで感じるティミド。
こちらの戦力に対して一人で迎え撃つなど、ハッキリ言って正気の沙汰では無いからだ。
するとヤオシュは何も言わずに屈み込む。
否…これは土下座たった。
「ふぁ?!」
予想外の展開にティミドは妙な声を出してしまう。
「あなた方を欺いた事、誠に申し訳ありませんでした。どうか流血沙汰だけは御勘弁下さいませ」
余りに潔い謝罪と要求にティミドだけで無く、リキやガリーも呆気に取られた。
「「「……」」」
だがシンは違った。
主人を奪われた怒りは、そう簡単に収まるものでは無いのだ。
「謝罪すれば済むものでは有りませんよ。こちらは仲間が死にかけたのです、それ相応の落とし前はつけるべきでしょう」
どうすれば丸く収まるのか…ヤオシュは平伏したまま逡巡する。
いや、そもそも命の奪い合いをしたなら、同じものでしか収拾はつかないのは明白だ。
ならば答えは一つしかない。
「私の命を差し出しましょう。ですから…どうか都督閣下の命だけはご容赦を」
リキがソッとティミドに囁いた。
「のっぴきならない事情が有るのかもな。どうするよ?」
「それはこっちの台詞です。リキさんは死に掛けたんですよ!」
「んぁ? あ〜〜そうだな。う〜ん…取り敢えずは事情を聞くべきだろ。ケジメは後でも良いぞ」
『やれやれ…まぁリキさんの言う通りなんだけど、』
適当すぎるリキに半ば呆れるティミド。
またリキが良くても、シンが納得するか分からない。
「シンさん…先ずは都督親子を問いただそうと思います。宜しいですね?」
ティミドの申し出に、シンは素直に頷いた。
「はい。異存はありません」
『良かった…』
ティミドは安堵する。
ここで愚図られたら取り敢えずのケジメとして、ヤオシュの片腕程度は切り落とすしか無かったのたから。
「では、ヤオシュ団長…都督の元へ案内して貰いましょうか」
これにヤオシュは小さく頷くと、立ち上がってトボトボと先導を始めた。
その姿は弱々しく実に心許ない。
18000もの黄金騎士に包囲されては、誰だって絶望を覚える。
そんなヤオシュの心中を思うと、少しばかり気の毒に思ってしまうティミドであった。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。
続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。
また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。
なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。
〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




