1537話・都督府前事件
刹那の章IV・月の姫(24)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
都督府前に無事到着したティミド達。
途中、関所の通過で色々と揉めそうだったが、異様な黄金騎士の集団を見た衛兵等は一斉に逃げてしまう。
都を守る使命が有りながら逃げるとは、何とも情けない話である。
また初めは野次馬が2~3人程度だったが、今では数十人と10倍以上の規模になっていた。
皆、暇なのは間違いないが、それ以上に事件に飢えていたのかも知れない。
それだけ四方京が平和な都市である証拠だった。
都督に裏切られたと言いふらしたのは自分だ…それでも複雑な気分になるティミド。
『人間の心理って矛盾ばかりよね…』
シンが少し心配そうに尋ねた。
「ティミドさん、大丈夫ですか?」
都督府を前にして”怖気づいた”のかと不安になったのだ。
「え? あ…全然大丈夫ですよ。ただ都民は平和ボケしているのかなぁ~と思いまして」
「……確かにそうですね。武力衝突が有るかも知れないのに、これだけ野次馬が集まるとは…」
黙ってはいたが、実はシンも内心では呆れていた。
「野次馬は良いとして…どうするんだ?」
「ちゃんと都督に報告が行ってたみたいだね」
とリキとガリーが言った。
広大な駐車場を挟んだ先に、要塞然とした都督府の府舎が在る。
そしてその前には200人程度の手勢が陣取っていたのだ。
これは明らかにティミド等に対しての迎撃態勢と思われた。
『あの数で私達を止めるつもりなんて…』
舐められているとティミドは感じるが、都合が良いのも確かだ。
相手が此方を侮っているなら、そのまま一気に押し込んで都督の元まで行き易いからである。
「取り敢えず都督に合わせるように要求しましょう」
そう答えたティミドは単身で少し歩み出た。
すると迎撃隊の隊長だろうか…有象無象の中から1人だけサーコート風の男が歩み出て来た。
「私は傭兵団・眠りの森の団長代理です。色々と問題が発生し、それを都督閣下へ確かめに参りました」
とティミドは丁寧且つ端的に告げた。
別に争いたい訳では無く、可能であれば穏便に済ませたい…その為の最低限な礼節である。
『まぁ向こうは潰す気満々みたいだけど…』
これに隊長風の男が直ぐに返した。
「都督閣下への謁見は認められない。正式な謁見手続きを踏んでから来るが良い」
「これは緊急なのです。そちらが切迫していなければ、こちらの要求は無下にすると?」
「手続きとは守らせる為に有る。破らせる為に有るのでは無い!」
全くもって正論だが、時間を稼ぐ意図があるのは目に見えていた。
『成程…一旦退けて、その間に四方京の世論を操作するつもりか』
ならばティミドとしても強引に進める他ない。
「何が手続きだ! 信義にもとる者を守っているだけではないか! ここは押し通らせてもらう!」
「無謀な事を……奴らを拘束せよ!」
隊長の男は躊躇わず号令をかけた。
中隊と小隊…こちらに十分過ぎる程の優位さがあり、制圧するのは容易と考えたのである。
ただ少しばかり懸念点が有るとすれば、厳かな黄金の甲冑を着込む騎士?達だ。
装備では明らかに相手が勝っており、1対1では分が悪い。
だが武力と言うのは結局のところ数が物を言い、多少の被害が出ても制圧出来れば問題は無かった。
最上位個体がティミドの傍に来た。
そうすると呼応したように残りの黄金騎士達も動き、ティミドを守る形で前面に展開する。
「ここは広いので妄執の軍団を全て召喚します。大まかな指示は私が貴方に出しますが、軍団の指揮は任せますね」
そうティミドがソッと告げると、ヘネラルは恭しく頷いた。
ティミドは亡者の指揮杖を握り、その能力を古代魔法語で発動させる。
「妄執の軍団」
そうして瞬時に目の前の虚空へ文字列が発現し、その全てを選択して"実行"に触れた。
直後、背後に表現し難い気配を感じる。
1つでは無い…もはや数え切れない程の気配であり、そこには凄まじい負の波動が含まれていた。
『こ、怖ぇぇ!!』
ゾッとするリキ。
小隊規模でも慣れるのに苦労したのだ…それが二個師団も出現すれば、普通の人間なら正気を保てないかも知れない。
そう思うと相手の迎撃隊が可哀想に思えた。
それはガリーとシンも同じだったのか、気配が背後に出現したのと同時に、その表情が真っ青になる。
対して都督側の中隊は?
ティミド達を半包囲しようと動き出した直後、皆一様に固まってしまった。
また隊長の男も例外では無かった。
突如出現した黄金の騎士が"隊"では無く、"軍"規模で出現したのである。
驚愕しない訳が無く、
「そ、その後ろのは…お、お前の?!?」
とシドロモドロで殆ど片言で問う始末。
頷くティミド。
「そうよ。死にたく無ければ道を開けなさい」
「……そんな馬鹿な」
恐怖と驚きの所為で、その場にヘタリ込む隊長。
直ぐさま掻き集めた迎撃隊が'この中隊規模"だった、なのに相手の女は瞬きの間で軍団を出現させたのである。
『これは夢なのか?!』
訓練を受けた兵士達や隊長でこの有様なのだ、一般人が耐えられる訳も無かった。
黄金騎士の気配に当てられ、野次馬達の大半が腰を抜かし、ある者は失神して倒れ込む者も居た。
そんな人々に一々構って居られないティミド。
「さあ皆さん、都督府に乗り込みますよ!」
そう彼女は仲間に声を掛けた後、颯爽と歩みを進めたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




