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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1536話・再戦の刻(3)

刹那の章IV・月の姫(24)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

突如現れ、ハクメイを確保した赤髪の美女。

これにアドウェナは驚愕し、また半ば呆気に取られる。

「な…?!」


万が一の事を考え、アポラウシウスの存在には警戒していた。

しかし全く別の存在までは考慮しておらず、この現状に至ったのは仕方無かったのかも知れない。


『いや…相手の底の知れぬ所を甘く見ていた』

既にアポラウシウスと言う計算外の事態を経験し、似た様な事が起きないと考えるのは余りに浅慮と言えた。

兎に角、これ以上に現状を悪化させては駄目だ。


アドウェナは平静さを装って告げた。

「あの仮面の男はどうした?」



「さぁ? 何処かに潜んでいるかも知れんぞ?」

惚けた様子で返すディーイー。



「……」

そう簡単に答える訳が無い…そんな事はアドウェナも分かっていた。


確かめたかったのは相手の反応だ。

更に仲間が隠れているのか、或いは頭打ちなのか?

それを確認する為の判断材料にしたかった。

しかしながら余りにも不明瞭で不明確過ぎた。


それでもアポラウシウスに限っては心配していない。

「フッ…赤髪の女には驚かされたけど、仮面の男は居ないのでしょう?」



「ほぅ? どうしてだ?」



「あの仮面の男…アポラウシウスは貴女の危機に現れたけど、本当にギリギリの所だったわよね。それに南方で著名な盗賊ギルドの長が、こんな所に長居出来る訳が無いわ」



『アポラウシウスの事を知って居たか…』

よくよく考えれば当然だった。

南方や西方で悪名を轟かせ、狂気の魔法医師(ルナメディクス)に比肩する存在…それが死神アポラウシウスなのだから。


だがディーイーからすれば、そんな事など何の問題も無い。

「問答は終わりだ」



「そう…なら雌雄を決するしか無いわね」

と諦めた様子で呟くアドウェナ。



ディーイーは歩みを進めず、右手に持った杖の切先をアドウェナへ向ける。



「…!」

直ぐさま反応したアドウェナは、残った100体の魔神を一斉に自身の前へ押し出した。



『魔神を盾にするつもりか。だが…』

諸共に吹き飛ばずまでだ。

突如、体を回転させるディーイー。



その動きには無駄が無く、また繊細で優雅。

故にアドウェナは目を奪われ見入ってしまう。



直後、その優雅に回転した体から杖が投擲された。



『なっ?! 強力な得物を自ら手放すだと?!』

余の意外な行動にアドウェナは目を見張る。


地面を突いただけで50体もの魔神を倒したのだ、投擲すれば相当に強力な一撃となるだろう。

それでも持ち主の手を離れる為、後が続かない。

回避されでもしたら得物が無い以上、目も当てられない事態となる。


『つまり、これが決め手の一撃か!』

予想するに、この大回廊が崩壊する程の威力の可能性がある。

そう確信したアドウェナは、可能な限り自身を後方へ転送させた。



その刹那、乾いた破砕音と共に瓦礫が舞い、同時に肉片となった魔神等も舞い上がった。

そう、投擲された杖は音速を超え、着弾地点で凄まじい爆発を発生させたのだ。



「ぐっ!!」

熱は感じず、圧縮された何かが膨張し崩壊する…正に何にも属さない無の力。

この状況からアドウェナは1つの可能性を導き出した。

『これは…まさか仙術なのか?!』


大回廊内は辛うじて崩壊を免れた。

しかし只それだけ…完全な崩壊まで至らなかったのは、恐らくディーイーが手加減をしたからだ。


この時、アドウェナは背筋が凍る。

本当に仙術ならば、杖が強力な魔導具と言う推測は的外れとなる。

仙術の根幹は極限まで練られた気であり、そもそも得物を選ばないのだ。


とは言え、得物は気を放出する伝導体で、仙術を使い易くする道具でもある。

それが手元から離れれば、先程の危険極まりない攻撃は撃てない筈だ。



「やれやれ…一応は殺す気で投げたんだが、妙な移動手段を使うな」

目の前の惨状を意に介さず、ディーイーは残念そうに言った。



直ぐに着弾点を確認するアドウェナ。

『杖は?!』

すると巨大な摺鉢すりばち状の窪地が出来上がり、その中央に杖が深く突き刺さっていた。


『よしっ! 今なら!』

手勢として連れて来た魔神は、その全てを失っている。

ならば自ら動けば良いのだ。

アドウェナは再び転送の体勢に入る。

が…予想外の展開に、それどころでは無くなる。



帰装レウェルティ

とディーイーが呟いた直後、突き刺さっていた杖が一瞬で手元に戻っていたのだ。



「なっ?!?」



硬直するアドウェナへ、ディーイーは杖を支えにして告げた。

「何だ…逃げるだけで終わりか? もう後が無いぞ?」



「……」

『これまでか…』

アドウェナの意は決していた。


魔獣を超える凶悪無比な存在…それが魔神だ。

その人類では太刀打ち出来ない存在を、恰も地虫を蹴散らすようにディーイーは殲滅した。

この時点で手に負えないと諦め、直ぐにでも撤収すべきだったのだ。


正に悔やんでも悔やみきれない失態と言える。

そんな状況でも収穫は有った。

せめて、それだけでも持ち帰るしか無いだろう。



「…?」

諦めた様に見える。

だが何かが変だとディーイーは感じた。

刹那、アドウェナが笑った気がし、嫌な予感が胸中を覆う。


『まだ何か有るのか? いや…』

ディーイーは視線を外し、ドロスースの方を見やった。


「…!」

そこには呆然と膝を付くドロスースが居て、倒れ伏して居た筈のハクメイの姿は消え失せていた。



何処からかアドウェナの声が聞こえる。

「完敗よ。だからハクメイ姫だけは連れ帰らせて貰うわね」



支えにしていた杖が、カラン…と音を立てて地面に転がった。

その直ぐ後に、ディーイーは半ば倒れ込むように屈み込む。

『迂闊だった…』


アドウェナは何らかの瞬間移動の能力を持つ…それを事前に知っていながら、こうして逃してしまった。

しかもハクメイと共に。


元より一気に押し込んで静圧するか、最後まで優勢を錯覚させ油断させるべきだった。

「こめん…ハクメイ……」



落胆し切った主人の傍に、ドロスースが心配そうに片膝を付く。

「……」



「ドロスース……」

こんな時に誰かが居てくれる。

そんな今にディーイーは恵まれていると思えた。


そして同時に思うのだ。

『ここで落ち込んでも、何も変わらない…』

「すまん、ドロスース…心配させたね。兎に角ここから出て、今後どうするか決めないとね」



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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