1536話・再戦の刻(3)
刹那の章IV・月の姫(24)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
突如現れ、ハクメイを確保した赤髪の美女。
これにアドウェナは驚愕し、また半ば呆気に取られる。
「な…?!」
万が一の事を考え、アポラウシウスの存在には警戒していた。
しかし全く別の存在までは考慮しておらず、この現状に至ったのは仕方無かったのかも知れない。
『いや…相手の底の知れぬ所を甘く見ていた』
既にアポラウシウスと言う計算外の事態を経験し、似た様な事が起きないと考えるのは余りに浅慮と言えた。
兎に角、これ以上に現状を悪化させては駄目だ。
アドウェナは平静さを装って告げた。
「あの仮面の男はどうした?」
「さぁ? 何処かに潜んでいるかも知れんぞ?」
惚けた様子で返すディーイー。
「……」
そう簡単に答える訳が無い…そんな事はアドウェナも分かっていた。
確かめたかったのは相手の反応だ。
更に仲間が隠れているのか、或いは頭打ちなのか?
それを確認する為の判断材料にしたかった。
しかしながら余りにも不明瞭で不明確過ぎた。
それでもアポラウシウスに限っては心配していない。
「フッ…赤髪の女には驚かされたけど、仮面の男は居ないのでしょう?」
「ほぅ? どうしてだ?」
「あの仮面の男…アポラウシウスは貴女の危機に現れたけど、本当にギリギリの所だったわよね。それに南方で著名な盗賊ギルドの長が、こんな所に長居出来る訳が無いわ」
『アポラウシウスの事を知って居たか…』
よくよく考えれば当然だった。
南方や西方で悪名を轟かせ、狂気の魔法医師に比肩する存在…それが死神なのだから。
だがディーイーからすれば、そんな事など何の問題も無い。
「問答は終わりだ」
「そう…なら雌雄を決するしか無いわね」
と諦めた様子で呟くアドウェナ。
ディーイーは歩みを進めず、右手に持った杖の切先をアドウェナへ向ける。
「…!」
直ぐさま反応したアドウェナは、残った100体の魔神を一斉に自身の前へ押し出した。
『魔神を盾にするつもりか。だが…』
諸共に吹き飛ばずまでだ。
突如、体を回転させるディーイー。
その動きには無駄が無く、また繊細で優雅。
故にアドウェナは目を奪われ見入ってしまう。
直後、その優雅に回転した体から杖が投擲された。
『なっ?! 強力な得物を自ら手放すだと?!』
余の意外な行動にアドウェナは目を見張る。
地面を突いただけで50体もの魔神を倒したのだ、投擲すれば相当に強力な一撃となるだろう。
それでも持ち主の手を離れる為、後が続かない。
回避されでもしたら得物が無い以上、目も当てられない事態となる。
『つまり、これが決め手の一撃か!』
予想するに、この大回廊が崩壊する程の威力の可能性がある。
そう確信したアドウェナは、可能な限り自身を後方へ転送させた。
その刹那、乾いた破砕音と共に瓦礫が舞い、同時に肉片となった魔神等も舞い上がった。
そう、投擲された杖は音速を超え、着弾地点で凄まじい爆発を発生させたのだ。
「ぐっ!!」
熱は感じず、圧縮された何かが膨張し崩壊する…正に何にも属さない無の力。
この状況からアドウェナは1つの可能性を導き出した。
『これは…まさか仙術なのか?!』
大回廊内は辛うじて崩壊を免れた。
しかし只それだけ…完全な崩壊まで至らなかったのは、恐らくディーイーが手加減をしたからだ。
この時、アドウェナは背筋が凍る。
本当に仙術ならば、杖が強力な魔導具と言う推測は的外れとなる。
仙術の根幹は極限まで練られた気であり、そもそも得物を選ばないのだ。
とは言え、得物は気を放出する伝導体で、仙術を使い易くする道具でもある。
それが手元から離れれば、先程の危険極まりない攻撃は撃てない筈だ。
「やれやれ…一応は殺す気で投げたんだが、妙な移動手段を使うな」
目の前の惨状を意に介さず、ディーイーは残念そうに言った。
直ぐに着弾点を確認するアドウェナ。
『杖は?!』
すると巨大な摺鉢状の窪地が出来上がり、その中央に杖が深く突き刺さっていた。
『よしっ! 今なら!』
手勢として連れて来た魔神は、その全てを失っている。
ならば自ら動けば良いのだ。
アドウェナは再び転送の体勢に入る。
が…予想外の展開に、それどころでは無くなる。
「帰装」
とディーイーが呟いた直後、突き刺さっていた杖が一瞬で手元に戻っていたのだ。
「なっ?!?」
硬直するアドウェナへ、ディーイーは杖を支えにして告げた。
「何だ…逃げるだけで終わりか? もう後が無いぞ?」
「……」
『これまでか…』
アドウェナの意は決していた。
魔獣を超える凶悪無比な存在…それが魔神だ。
その人類では太刀打ち出来ない存在を、恰も地虫を蹴散らすようにディーイーは殲滅した。
この時点で手に負えないと諦め、直ぐにでも撤収すべきだったのだ。
正に悔やんでも悔やみきれない失態と言える。
そんな状況でも収穫は有った。
せめて、それだけでも持ち帰るしか無いだろう。
「…?」
諦めた様に見える。
だが何かが変だとディーイーは感じた。
刹那、アドウェナが笑った気がし、嫌な予感が胸中を覆う。
『まだ何か有るのか? いや…』
ディーイーは視線を外し、ドロスースの方を見やった。
「…!」
そこには呆然と膝を付くドロスースが居て、倒れ伏して居た筈のハクメイの姿は消え失せていた。
何処からかアドウェナの声が聞こえる。
「完敗よ。だからハクメイ姫だけは連れ帰らせて貰うわね」
支えにしていた杖が、カラン…と音を立てて地面に転がった。
その直ぐ後に、ディーイーは半ば倒れ込むように屈み込む。
『迂闊だった…』
アドウェナは何らかの瞬間移動の能力を持つ…それを事前に知っていながら、こうして逃してしまった。
しかもハクメイと共に。
元より一気に押し込んで静圧するか、最後まで優勢を錯覚させ油断させるべきだった。
「こめん…ハクメイ……」
落胆し切った主人の傍に、ドロスースが心配そうに片膝を付く。
「……」
「ドロスース……」
こんな時に誰かが居てくれる。
そんな今にディーイーは恵まれていると思えた。
そして同時に思うのだ。
『ここで落ち込んでも、何も変わらない…』
「すまん、ドロスース…心配させたね。兎に角ここから出て、今後どうするか決めないとね」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




