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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1534話・再戦の刻

刹那の章IV・月の姫(23)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

漆黒の繋服を見に纏ったドロスースを前に、ディーイーの胸中は些か複雑な思いになる。

何故なら、その姿が喧嘩別れしたスキエンティアを彷彿させたからだった。


と言っても瓜二つな訳では無く、敢えて指摘されると気付く程度だろう。

『我ながら神経質な気もするが…』

それだけ後ろめたいと思っている証拠と言えた。



するとドロスースが手を握って心配気な表情を浮かべる。



「フッ…何でも無いよ」

そう自嘲気味に返し、直ぐに真顔でディーイーは続けた。

「隠蔽効果の結界が消えたし、そろそろ迷宮の主人(アドウェナ)が勘付く頃だろう。襲撃に備えてくれるか?」



ドロスースは頷いた。



「フフッ…良い子だ。頼りにしているぞ」

ドロスースの頭を撫でるディーイー。

そうして徐に収納魔導具から杖を取り出した。


これは"只の杖"である。

魔導具と言う訳でも無く、本当に只の杖だった。

しかし素材が純度の高いミスリル銀で、魔力や気の伝達が非常に優れている。


『魔法が使えない以上、武力か仙力に頼るしか無いしな…』

などと思いつつも、この有様では武力も当てに為らない。

と言う事で仙力を軸に立ち回る方針で、故に伝達率の高いミスリル製の杖なのである。


また此方が杖をついていると認識すれば、迷宮の主人(アドウェナ)も油断するかも知れない。

「まぁ、そこは余り期待せずに居よう」



「…!」

この呟きに、自分が"当てにされていない"と思ってしまうドロスース。

直ぐにディーイーの両手を握って悲壮な表情を浮かべた。



「え…?! あ…いや、お前の事じゃ無いぞ」

察したディーイーは慌てて否定する。

しかしながらドロスースの表情が妙にグッと来て、自虐心が湧き起こってしまう。

『ぐふ…困った顔が可愛い……』


正直、もっと困らせて色々な表情を楽しみたいが、今は遊んでいる場合では無い。

なので何とか欲望を抑え告げた。

「恐らく相手は警戒して、距離を取って魔法で攻撃する筈だ。対して私は仙力を使って迎え撃つ。だが相手の手勢までは相手し切れないだろう」



真剣にウンウンと頷いて聴くドロスース。

その姿は健気で実に好感が持てた。



『うむむ…人型になったのは良いが、こんなに素直だったか?!』

今までのヘソを曲げた態度は何だったのか?



「…?」

ドロスースは小首を傾げる…この仕草も可愛らしい。



「と、兎に角だ、ハクメイも操られているようだし、その引き付けを可能な限りして欲しい。少しキツイかも知れんが、要約するとアドウェナ以外全部になる…やれそうか?」



先程とは違い急に目が鋭くなり、ドロスースは静かに頷いた。



「そうか、本当に頼りにしてるぞ」

実際は雑魚とアドウェナの分断は難しいだろう。

そこにハクメイを傷付けずに引き付けるのは、更に至難の業となる。

『下手をすれば無傷で済まないかもな…』



「…!!」

ドロスースが何かに反応し、背後へ視線を向けた。



既に察知していたディーイーは、杖を付きながら出口へ向かう。

『それにしても…死神の奴、器用に掘ったものだな』


ディーイーとアポラウシウスが身を潜めた場所は、とある横穴だ。

ここは明らかに掘って確保した空間で、元々在った横穴とは考え難かった。

『たぶん暗黒魔法辺りで掘ったんだろうな』


しかも此処は迷宮の内部。

敵の庭と言える場所に身を潜めるとは、もはや正気の沙汰では無い。


されどアドウェナも"まだ居る"とは、流石に予想していなかったようだ。

その証拠に感じる気配と魔力の波動が、随分と揺らいでいた。



お構いなしに横穴から抜け出すディーイー。

虚を突くとまでは行かないが、精神的な優位は此方に有るからだ。

ならば堂々と姿を見せ、相手を困惑されせば良いのである。



「…! まさか警戒もせずに姿を見せるとはな…」

20mほど先程に立つ女が言った。

その後方には数10体の魔神の姿も見受けられ、それに紛れる形でハクメイの姿も見えた。



「フッ…随分と手勢を連れて来たな。そんなに私が怖いのか?」



ディーイーの煽りに、どうしてかアドウェナは目を細めてジッと見つめた。

「……」



『こやつ…まさか私がテュシアーでは無いと気付いたか?』

少し不安になるディーイー。


実際アドウェナと対峙するのは、こちらとしても初めてではある。

テュシアーの記憶を参照出来なければ、こうして堂々とはして居られ無かっただろう。



「……今度は初めに得た情報と一致する。貴女…一体何者なの?」

アドウェナは不可解そうに尋ねた。



今更ながらに失念して居たとディーイーは気付く。

『あ…そうか。テュシアーと私は髪の色が違うから』

あからさまな変化なのだから、相手が勘繰って当然だ。


それでも自分を"ディーイーと認識した"。

これは対象を根幹的に見抜く能力を、アドウェナが有している事を示している。


『この女…ここで完全に始末すべきかもな』

もし此処でアドウェナを逃せば、後々に自分が聖女王だと見抜かれる可能性が出てくる。

これこそが正に禍根と言えた。


「何者だろうが、もうどうでも良いだろう。貴様は此処で死ぬのだからな」

こんな強い言葉を発するのは、いつ振りだろうか。

そう思うと魔王だった頃の記憶が、断片的にだが脳裏に過った。

『フフッ…あの頃は流血の絶えない血みどろな人生だったな』



その"あの頃"の気迫が伝わったのか、アドウェナが後退った。

「……!」



「どうした…来ないのか? ならば私から行かせて貰うぞ」

ディーイーは杖を付きながら、覚束無い足取りで歩みを進めたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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