1534話・再戦の刻
刹那の章IV・月の姫(23)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
漆黒の繋服を見に纏ったドロスースを前に、ディーイーの胸中は些か複雑な思いになる。
何故なら、その姿が喧嘩別れしたスキエンティアを彷彿させたからだった。
と言っても瓜二つな訳では無く、敢えて指摘されると気付く程度だろう。
『我ながら神経質な気もするが…』
それだけ後ろめたいと思っている証拠と言えた。
するとドロスースが手を握って心配気な表情を浮かべる。
「フッ…何でも無いよ」
そう自嘲気味に返し、直ぐに真顔でディーイーは続けた。
「隠蔽効果の結界が消えたし、そろそろ迷宮の主人が勘付く頃だろう。襲撃に備えてくれるか?」
ドロスースは頷いた。
「フフッ…良い子だ。頼りにしているぞ」
ドロスースの頭を撫でるディーイー。
そうして徐に収納魔導具から杖を取り出した。
これは"只の杖"である。
魔導具と言う訳でも無く、本当に只の杖だった。
しかし素材が純度の高いミスリル銀で、魔力や気の伝達が非常に優れている。
『魔法が使えない以上、武力か仙力に頼るしか無いしな…』
などと思いつつも、この有様では武力も当てに為らない。
と言う事で仙力を軸に立ち回る方針で、故に伝達率の高いミスリル製の杖なのである。
また此方が杖をついていると認識すれば、迷宮の主人も油断するかも知れない。
「まぁ、そこは余り期待せずに居よう」
「…!」
この呟きに、自分が"当てにされていない"と思ってしまうドロスース。
直ぐにディーイーの両手を握って悲壮な表情を浮かべた。
「え…?! あ…いや、お前の事じゃ無いぞ」
察したディーイーは慌てて否定する。
しかしながらドロスースの表情が妙にグッと来て、自虐心が湧き起こってしまう。
『ぐふ…困った顔が可愛い……』
正直、もっと困らせて色々な表情を楽しみたいが、今は遊んでいる場合では無い。
なので何とか欲望を抑え告げた。
「恐らく相手は警戒して、距離を取って魔法で攻撃する筈だ。対して私は仙力を使って迎え撃つ。だが相手の手勢までは相手し切れないだろう」
真剣にウンウンと頷いて聴くドロスース。
その姿は健気で実に好感が持てた。
『うむむ…人型になったのは良いが、こんなに素直だったか?!』
今までのヘソを曲げた態度は何だったのか?
「…?」
ドロスースは小首を傾げる…この仕草も可愛らしい。
「と、兎に角だ、ハクメイも操られているようだし、その引き付けを可能な限りして欲しい。少しキツイかも知れんが、要約するとアドウェナ以外全部になる…やれそうか?」
先程とは違い急に目が鋭くなり、ドロスースは静かに頷いた。
「そうか、本当に頼りにしてるぞ」
実際は雑魚とアドウェナの分断は難しいだろう。
そこにハクメイを傷付けずに引き付けるのは、更に至難の業となる。
『下手をすれば無傷で済まないかもな…』
「…!!」
ドロスースが何かに反応し、背後へ視線を向けた。
既に察知していたディーイーは、杖を付きながら出口へ向かう。
『それにしても…死神の奴、器用に掘ったものだな』
ディーイーとアポラウシウスが身を潜めた場所は、とある横穴だ。
ここは明らかに掘って確保した空間で、元々在った横穴とは考え難かった。
『たぶん暗黒魔法辺りで掘ったんだろうな』
しかも此処は迷宮の内部。
敵の庭と言える場所に身を潜めるとは、もはや正気の沙汰では無い。
されどアドウェナも"まだ居る"とは、流石に予想していなかったようだ。
その証拠に感じる気配と魔力の波動が、随分と揺らいでいた。
お構いなしに横穴から抜け出すディーイー。
虚を突くとまでは行かないが、精神的な優位は此方に有るからだ。
ならば堂々と姿を見せ、相手を困惑されせば良いのである。
「…! まさか警戒もせずに姿を見せるとはな…」
20mほど先程に立つ女が言った。
その後方には数10体の魔神の姿も見受けられ、それに紛れる形でハクメイの姿も見えた。
「フッ…随分と手勢を連れて来たな。そんなに私が怖いのか?」
ディーイーの煽りに、どうしてかアドウェナは目を細めてジッと見つめた。
「……」
『こやつ…まさか私がテュシアーでは無いと気付いたか?』
少し不安になるディーイー。
実際アドウェナと対峙するのは、こちらとしても初めてではある。
テュシアーの記憶を参照出来なければ、こうして堂々とはして居られ無かっただろう。
「……今度は初めに得た情報と一致する。貴女…一体何者なの?」
アドウェナは不可解そうに尋ねた。
今更ながらに失念して居たとディーイーは気付く。
『あ…そうか。テュシアーと私は髪の色が違うから』
あからさまな変化なのだから、相手が勘繰って当然だ。
それでも自分を"ディーイーと認識した"。
これは対象を根幹的に見抜く能力を、アドウェナが有している事を示している。
『この女…ここで完全に始末すべきかもな』
もし此処でアドウェナを逃せば、後々に自分が聖女王だと見抜かれる可能性が出てくる。
これこそが正に禍根と言えた。
「何者だろうが、もうどうでも良いだろう。貴様は此処で死ぬのだからな」
こんな強い言葉を発するのは、いつ振りだろうか。
そう思うと魔王だった頃の記憶が、断片的にだが脳裏に過った。
『フフッ…あの頃は流血の絶えない血みどろな人生だったな』
その"あの頃"の気迫が伝わったのか、アドウェナが後退った。
「……!」
「どうした…来ないのか? ならば私から行かせて貰うぞ」
ディーイーは杖を付きながら、覚束無い足取りで歩みを進めたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




