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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1532話・生みの親の責務

刹那の章IV・月の姫(23)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

ディーイーは頭を抱えた。

アポラウシウスが此処に居られるのが、"後10分程"などど言い出したからだ。


『うむむ…ちょっと不味いぞ。まだ体が本調子では無いし、今襲われたら…』

正直、上手く撃退出来るか自信が無い。

実際の所、まだ歩く事も儘ならず、頑張って立っているのが精一杯と言った感じだ。



そんなディーイーへ、アポラウシウスが尋ねた。

「ご自身を守る魔導具などは無いのですか?」



「う〜ん…どうだろうな。私が持っているのは変わり種ばかりだからなぁ…」



「例えば"あれ"ですか?」

と返したアポラウシウスは、自身の背後へ目配せする。



彼の背後には無骨な斧が…倒れていた。



「おや? 先程まで直立していた筈なのですが…」

怪訝そうにするアポラウシウス。



「その斧ね…結構強いんだけど、特に癖が強いんだよ。たぶん私の事を主人なんて思ってないんじゃないかな」



「意思を持った魔導具ですか。それが持ち主を主人と思わないとは…些か危険では?」



「そう普通は思うよね。でもそれは動けないから、結局何も出来ないのよ。それに余りにも問題有るなら、収納魔導具に引っ込めちゃえば良いし」



アポラウシウスは少し思考してから尋ねた。

「ふむ………その斧の魔導具は言葉を理解できるのですか?」



「うん。話せはしないけど、ちゃんと知能も有って言葉も理解出来るよ。そういう風に私が試験的に作ったんだけどね」



『試験的に作ったとは…いやはや本当に驚かされる事ばかりですね』

「ふむふむ……作った当初は大人しかったのでは?」



「え…? あ〜〜そうね…言われてみれば従順だったような…」



『成程…そう言う事か、』

凡そを察してしまうアポラウシウス。


作成された魔導具の自我は、ディーイーを主人と思う以前に"親"と認識したのかも知れない。

そして子供とは親に従順な時もあれば、関心を引こうと無茶をする時もあるのだ。

なのに言う事を聞かないと収納されてしまっては、ヘソを曲げて当然だろう。


「恐らくですが、その斧は拗ねているのかと思います。ちゃんと構ってあげて妥当な評価をすれば、従順に戻るかと」



まさかの指摘と提案をされ、ディーイーは目を見張った。

「……魔導具が拗ねる?!」



「何も変な事では無いでしょう? 貴女は斧に自我を与えたのでは?」



「それはそうだけど…」

『うむむ…癖が強いと思っていたが、自我を組み込んだ私に起因するのか…』

ディーイーは目から鱗な気分だった。


自我と言っても試験的に生み出したので、実際に人の様に機能しているか怪しい。

故に"それ"を詳細に確認しなかったのが、現状に至る問題だと考えられた。

「はぁ……結局は私自身の所為か」



溜息をつくディーイーへ、アポラウシウスは苦笑しながら言った。

「フフフッ…誰でも失敗はします。それに試験的だと言うのなら尚更かと思いますよ」



「何だ? 私を慰めてくれてるのか?」



「え……いや、その…私如きが滅相も無い」

などと態とらしく慌てて否定するアポラウシウス。

その刹那、彼の体から淡い光の粒が漏れだした。

「…!」



「それって…」



「はい…どうやら体の維持に限界が来たようです」



「そうか…何だか手間を取らせたね。この借りは必ず返すよ」



「フッ…言ったでしょう、私が勝手に好きでした事です。お気に為さらずに」

そう自嘲しながら返した直後、アポラウシウスの体はジャポン玉が弾けるように消失した。



「……」

ディーイーは暫く虚空になった空間を見つめる。

そうして視線を地面に倒れた斧へ向けると、まるで認識したように僅かに震えた。



「私と二人きりになるのは気不味いのか?」

この不意な問いに、ドロスースは益々震える。

その様子は奇異的で、何も知らない者が見れば卒倒しただろう。



椅子から立ち上がったディーイーは、覚束無い足取りでドロスースの傍へ進んむ。

「済まなかった…自我を与えておいて、使い勝手が悪いと放置してしまったな」



「………」

今度は全く動かないドロスース。



『やっぱり拗ねてるのか。困ったな…』

創造主としてドロスースを無下にした事を思うと、今更だが申し訳無くなるディーイー。

その為か全然強気に出られない。

「本当にゴメン…」


真摯に頭を下げたディーイーだが、その反動で俯せに倒れてしまった。

「ぶへっ!?」



これに慌てたのか、ドロスースが今までに無くカタカタと震えた。



「うぐぐ…なんて無様な……」

体に力が入らないとは言え、顔から地面に倒れるのは武人として在るまじき失態だ。

幸い受け身を取れたので、顔を怪我する事は無かったが…。



しかしドロスースは随分と慌てたままだ。

先程からカタカタと震えっぱなしで、うるさい事この上ない。



「心配してくれてるのか?」

"柄にも無い"などと言い掛けたディーイーは咄嗟に堪えた。

『危ない危ない。これだから私は嫌われたんだ…』

正確にはヘソを曲げられた…だが、どちらにしろニの轍を踏むのは馬鹿である。



するとドロスースはピタリと震えを止め、一度だけカタンッと揺れたのだった。



『フフッ…一応、意思の疎通が出来るとはな』

よくよく考えれば、こうして遣り取りするのは初めてだったかも知れない。


また相手が喋られない事を理由に、一方的に押し付けていたようにも思える。

これでは何処ぞの癖の悪い主神と変わらず、ディーイーは少しばかり自身に落胆した。


『やれやれ、欠点を自認する事は難しいが…』

それ以上に"気付く事自体"が難しい。

これは栄達した者ほど、その傾向にある。

何故ならば自信や誇りなどの"自尊心"が、どうしても邪魔をしてしまうからだ。


『兎に角、生みの親としての責務は果たすべきか…』

「ドロスース…お前に選択肢を与える。この無様な私に従うか、それとも自由を得るか…好きな方を選びなさい」



このディーイーの言葉にドロスースは困惑した?のか、カタカタと一瞬だけ震えて固まる。



「まぁ自由と言われても戸惑って当然か。だが心配ない…元より自立型として設計していたんだ。それを解放するだけだよ」

と告げたディーイーは、収納魔導具から翡翠製のような牌を取り出す。

そしてそれをソッとドロスースの上に重ねた。



直後、凄まじい緑雷が発生し、一瞬で辺りを光で覆い尽くしたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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