1531話・ディーイーと変態紳士(2)
刹那の章IV・月の姫(22)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「結界の内部だと…?!」
ディーイーは驚きを隠せなかった。
何故なら、この空間の外縁が魔力で構成されていないからだ。
『どう言う事だ? 結界なら必ず魔力の波動が漏れる筈だが…』
考えられるとすれば、魔法技術を使わない異質な力になる。
しかしアポラウシウスに、そんな芸当が可能なのだろうか?
不思議そうにしているディーイーへ、アポラウシウスは告げた。
「隠していても何れ分かる事をでしょうから、今ここで説明致しましょうか?」
「うぬぬ…」
自分の知らない力が存在する…その事実にディーイーは若干だが自尊心が傷付いた。
『思い当たる節は幾つか有るが…』
それでも問答するのが面倒臭く、尚且つ自尊心よりも興味が優ってしまう。
「うむ、教えてくれ」
『意外と素直だな…』
もっと愚図るかと思っていただけに、アポラウシウスは拍子抜けした。
「…分かりました。実は私の力の根幹には、暗黒神の加護が大きく影響しているのです」
「…! 成程、それなら合点がいくわ。でも、そんな手札を私に教えて後悔する羽目にならない?」
「フフッ…ディーイー様なら直ぐに看破するでしょうし、なんとなく察していたのでは?」
と揶揄うように返すアポラウシウス。
これにディーイーは少し思考してから返した。
「……どうだろうな。卿と直接相対したのは一度しか無い。あの時は互いに能力を見せなかったし」
この絶世の美女との初邂逅から、どうしてかアポラウシウスは随分と経った気がする。
それだけ色々な事が有った証拠だろうが、まさか敵対しない関係になるとは、当時の自分は思いもしなかったに違い無い。
「で…卿が契約?している暗黒神の加護で、この結界を張っている訳か。効果は外部との相互干渉を断つ…そんな所だな?」
「流石はディーイー様ですね、仰る通りです。只、防御的な効果は皆無に等しいので、万が一に特定されれば危険ですよ」
ディーイーの中で疑問が過った。
『んん? 相互干渉を断つなら、当然に物理的な影響も断つ筈だが…』
ひょっとすると認識させない隠蔽結界なのかも知れない。
つまり存在力を消失したように見せ掛けるのだ。
「そうなると、やっぱり此処は迷宮の最深部なのだな?」
「はい。私的には地上に戻っても良かったのですが、それだとディーイー様の都合に沿わないかと考えました」
「そうか…それで敵地ながらも留まった訳か」
「左様です。余計なお世話でしたか?」
アポラウシウスに問われ、ディーイーは自嘲が漏れた。
「フッ…卿が居なければ危なかったのだろう? 十分に助かったし、後の配慮も満点だよ」
「恐縮です」
そう恭しく返した後、アポラウシウスは真剣な声音で尋ねる。
「これから如何されますか?」
「如何すれば良いと思う?」
質問に対して質問で返すディーイー。
『遊んでいるのか? いや…』
こちらの状況を配慮しての事だとアポラウシウスは察した。
「急遽駆け付けましたが、ここに居られる時間は後僅かです。申し訳有りません…」
「だろうな。そう簡単に1000km以上の距離を"一瞬で渡れる"訳が無いよね」
「…!」
ディーイーの指摘に、背に冷たい汗が流れるのをアポラウシウスは感じた。
『やはり看破されていたか…』
「私が考えるに、その体は擬体だな。原理までは良く分からんが擬体を遠隔操作している…だろ? そして擬体には活動限界が存在する。だから"後僅か"と言ったのだな」
「フフフッ…フフッ…」
突然笑い出したアポラウシウスに、ディーイーは態とらしく首を傾げて尋ねた。
「違ったか?」
「フフッ…お見それ致しました。正直、ここまで詳細に言い当てられるとは思いませんでしたよ。ですが何故に見抜けたのですか?」
「それは…」
自分も似た様な事をしていた…なんて言えないディーイー。
『うむむ…どうやって誤魔化そうか』
ディーイーが擬体の活動試験をしたのは、初めて東方を訪れた時だ。
当時はティミドの要請を受けて東方へ出張ったのだが、女王が自ら出向く事に身内から猛反対されたのである。
そこで試験運用も済ませていない擬体を、仕方無く代わりに向かわせたのだった。
当初は上手く運用出来ていたが、"断線"する事態に遭い制御を失う羽目に。
そうして色々有った末に、結局は自分が出向いて擬体を回収する事となった。
こんな事を一々説明するのは面倒で、そもそも機密なので話せる訳も無い。
『う〜ん…困ったな』
この困っている様子を"焦らしている"…と勘違いするアポラウシウス。
『勿体ぶって私を試しているのか? 中々に嫌らしい事をされる…』
「貴女は私の擬体を一度も見ていない筈。なのに見抜いたのは、お身内からの情報を元に看破したのですね?」
などと自分から"無意識"に駆け引きを放棄してしまう。
これをディーイーが利用しない訳が無い。
『あ…そうか。確かフィートとアグノスを救ってくれた事が有ったな』
しかもその後に至近距離から爆炎魔法を受け、アポラウシウスが消し飛んだと聞いていた。
しかしアポラウシウスは再び現れて箱舟を襲撃したのである。
「え〜と…私が確信したのは、卿が箱舟を襲撃したからだよ。あれが無ければ多分気付かなかった」
「そうですか…」
と溢してアポラウシウスは項垂れてしまった。
『うはっ! この男にしては珍しいな』
笑いそうになるのを堪え、ディーイーは告げた。
「この結界が消えるのは、後どのくらい?」
「……私が消失すれば即座に解除されます。そして私の活動限界は…持って後10分でしょうか」
「早っ!」
余の切迫さに、つい声を張り上げてしまうディーイーであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




