1530話・ディーイーと変態紳士
刹那の章IV・月の姫(22)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「うぅぅ……寒い」
下着の上下を着け終わったディーイーだが、すっかり体が冷えてしまった。
早く温かい恰好をしないと風邪をひきそうである。
「ディーイー様…大丈夫ですか?」
心配そうにディーイーを支えながらアポラウシウスが言った。
「大丈夫じゃ無い……ううぅ……へっぶしん!!」
『やれやれ…この体は何でこんなに脆弱なんだ?』
「兎に角は早くお召し物を…」
と言いながら地面に散らばる衣服を目にし、アポラウシウスは半ば唖然とする。
『…こんな薄っぺらい服では、』
ディーイーが無造作に取り出したであろう衣服は明らかに薄手で、とても体を温められる物では無かった。
何故なら見栄えばかりが特化したようなドレスだったからだ。
「ディーイー様、こんなペラペラのドレスでは意味が無いですよ…」
『あ〜〜それなら大丈夫だ。ミスリル銀の糸を編み込んでてね、温度調整の魔法を付加してある。だから心配せずに着せてくれれば良い」
「左様ですか…」
『ミスリル銀の糸?!』
アポラウシウスの胸中は驚きで満たされる。
ミスリル銀は希少な上、加工が非常に難しいのだ。
その為、実際に加工されて使用されるのは大味な物が多い。
例えば武器や防具である。
なのに"糸"にしてドレスの素材にするなど、前代未聞と言えるのだった。
こうして伝説級の魔導具に相当するドレスを、アポラウシウスはディーイーに着せ始める。
これもまた中々に苦戦する羽目となった。
普通、誰かに着付けをする場合、される側が直立不動になる。
そこへ着付けるので然して大変な作業では無い。
しかし今のディーイーは完全に脱力し、アポラウシウスが腕で支えている状態なのだ。
故に従来のような着付けを出来る訳がなかった
『くっ…これは盲点でしたね』
結局、両手を使わねば無理だと判断し、ディーイーを自分の胸に寄り掛からせて着付けする事にした。
そうなると今度は変に密着状態になったり、またならなかったり…精神衛生上、余り良くない状況が続いてしまう。
「生殺し…」
「生….? 何だって?」
アポラウシウスの独り言へ、鋭く突っ込むディーイー。
体は動かないが口は無駄に達者である。
「いえ…なにも…」
完全に諦め切ったアポラウシウスは、限りなく心を無にしてドレスを着付けた。
そうして悪戦苦闘しつつも何とか着せ終えたのだった。
その頃には目が覚めたのか、ディーイーは瞼がパッチリと開いて自身を確認出来るようになる。
「ほほぅ…初めてにしては上出来だ。私の近侍として雇ってやろうか?」
ここに来ての揶揄に、流石のアポラウシウスも頭を抱えた。
「いえ…嬉しい申し出ですが、かなり疲れそうなので辞退させて頂きます」
「フフフッ…そうか残念だな」
そう返したディーイーは、収納魔導具からポンポンと乱雑に何かを取り出した。
「ディーイー様? 何を?!」
「取り敢えず椅子を出したから座らせてくれ」
とディーイーは返した後、弱々しく椅子を指して続けた。
「さっきよりは力が入るようになったから、多分落ちる事は無いと思う」
「……」
『本当に大丈夫だろうか…』
アポラウシウスからすれば心配で為らない。
万が一、顔から地面に落ちたら、絶世の美貌が傷付いてしまう…そうなれば世界の損失と言っても過言ではないのだから。
「何を黙って見てる? 早く座らせてくれ」
「はぁ……分かりました」
物凄く手間が掛かる女児?…などと思ってしまうアポラウシウス。
だが思いとは別に、近侍のように素早く要求に応えた。
優しく抱えられ、肘掛けの付いた椅子へ座らされたディーイー。
「フフッ…何だかんだと言って様になってるじゃないか? 本当に女の世話は初めてか?」
「…!」
その問い掛けに、アポラウシウスはドキッとする。
正しくは女の世話では無く"少女"の世話だが、そんな差など今は関係ない。
的を射た問い掛けをされた事が問題なのだ。
『もしや勘付かれているのか?』
そんな筈は無い…その事実は10年以上も前の話なのだ。
どちらにしろ、これ以上の情報は与えるべきでは無い。
「フッ…面白い事を訊かれますね。私が如何様な者なのか、ご存知でしょうに」
「まぁ良いわ…取り敢えず靴を履かせてくれる?」
「承知しました」
それ以上の追求が無く、内心ホッとするアポラウシウス。
そして無造作に地面に置かれた靴を手に取り、椅子に座るディーイーを見つめた。
その佇まいは只の無骨な椅子に座っているが、不思議と気品が有り、加えて妙な威圧感が有った。
「何…?」
「いえ…その絶世の美貌と王の威厳は、古今東西で比肩する者は居ないと思いましてね」
「そんな褒め方をされても、私は全然嬉しく無いんだけど」
「フフフッ。そうですね…月並みでしたね。では失礼しますよ」
アポラウシウスは細くて柔らかい足に触れ、ソッと靴を履かせる。
その時、不思議な感覚に囚われた。
表現し難い愉悦感…この行為そのものが、恰も願って已まない褒美だと感じたのだ。
『はは…ははは……成程。これは惹かれる訳が分かる』
ディーイーを聖女王として慕う永劫の騎士達。
どうして彼らが魅了されたように忠誠を誓うのか?…その根幹たる理由を、アポラウシウスは身をもって知った気がした。
また思うのだ。
邂逅した”あの時”、何としても排除すべきだと認識していても、それが出来なかった。
その訳は…恐らく無意識の内に魅了されていたのだろう。
「ニヤニヤして気持ちが悪い…」
「え?! 何故分かるのですか?」
「何故って…口元がニヤニヤしてるじゃないの。すごく不気味だわ…」
とプリームスは嫌そうに返した。
顔半分を仮面で隠したい男が、自分の足に触れながら妙な笑みを浮かべれば、誰だって気持ちが悪くなる。
今更だが口元を押さえるアポラウシウス。
「……見なかったことにして下さい」
「はぁ……やれやれ。卿が気持ち悪いのは今に始まった事ではないよ。それよりも、ここは何処なんだ?」
「ここは私が張った結界の内部ですよ。少々手狭で綺麗では無いですが、ご辛抱願います」
「結界の内部だと…?!」
その事実にディーイーは驚きを隠せないのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜