1527話・黄金騎士の行軍
刹那の章IV・月の姫(21)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
ティミド達が関門を越えて関所内に来ると、衛兵達が逃げている後ろ姿が見えた。
しかも非武装の受付担当を残してだ。
「はぁ……衛兵が我先に逃げるなんて、なんて情けない奴らかしら」
つい溜息が出てしまうティミド。
「まぁ、それだけ黄金騎士が強そうに見えたからでは?」
とシンは関所内を確認しながら言った。
また本当に武装した人員が全く見当たらず、少し怪訝に感じる。
『普通なら張り込んでそうだけど…』
自分達が迷宮から出るのを考慮して、都督の手勢か黒金の蝶が襲撃の準備をしていた筈なのだ。
そうなると関所の外となるが、その場合は出た所を半包囲で攻撃されてしまう。
その懸念はティミドも同じく感じていた。
「外で待ち伏せされているかも知れません。直ぐには出ずに様子を見ましょうか」
そう皆に告げて、最上級個体へ目配せする。
するとヘネラルは小さく頷き、右手を掲げて指を2本立てた。
そうして軽く手を前後させると、後ろに居た黄金騎士2体が颯爽と駆け出したのだった。
因みに関所内を制圧した2体は入口の扉の前で待機している。
が、追加の2体が来た瞬間に、「待ってました」と言わんばかりに扉を完全に開けた。
当然追加の2体は勢いを止めず、そのまま外へ突っ走てしまう事に…。
「あ……」
止める間も無い展開に、ティミドは半ば唖然とする。
そして直後に外から幾つもの悲鳴が聞こえた。
黄金騎士は喋らないので、この悲鳴は外で待ち伏せていた手勢に間違い無いだろう。
「どうやら様子を見る必要は無かったようですね…」
と呟くシン。
その声音からは僅かだが、呆れた語調が含まれていた。
恐る恐るリキが入口から外を覗く。
「うわぁ……」
丁度、最後の一人が殴り倒されている所を目撃する。
勿論、殴られているのは衛兵で、その周辺には何人もの衛兵と傭兵らしき者が10人程倒れていたのだった。
そんな外の事態など他所に、シンは腰を抜かして座り込んでいる受付係へ告げた。
「非武装員を傷付けるつもりは有りません。巻き込まれたくなければ、直ぐに此処から立ち去って下さい」
傷付けるつもりは無くても、巻き込む可能性は有る…そう暗に告げられたと察した受付係は慌てて立ち上がる。
それから直ぐに外へ駆け出して行った…抜かした腰は何処へやらである。
「さて…これで都督府には伝わる筈です。待ち伏せは処理できた様ですし、このまま悠然と都督府へ向かいますか?」
シンの提案に、ティミドは頷いた。
「途中で襲撃に遭うかも知れませんが、周りを黄金の騎士で囲って進みましょう。それで不用意に攻撃してくる者は居なくなるかもですし」
正直、召喚主であるティミド自身も異様に感じる程、黄金の騎士達の存在感は凄まじい。
何より見た目が派手でゴツイ…それだけで並みの武人なら気圧されるだろう。
これにリキとガリーも同意した。
「おうよ! ちょいと不気味だが、守ってくれるなら助かるぜ」
「俺も異存は無いよ」
こうしてティミド達4人は、前後2体ずつ、左右も2体ずつの黄金騎士に護衛されて歩き始める。
また最上級個体はティミドの傍に付き従い、いつでも命令を受け取れる状態だ。
また残りの22体の黄金騎士は、皆の後ろをゾロゾロと追随する事になった。
この見た目で市街を歩くのは、小隊規模とは言え余りに奇異。
その所為で5分と経たず、一般人の注目を集める事となる。
皆、怖いと言うより”珍しい”が勝ったのか、何人かはギリギリまで近付いてガン見する始末だ。
恐らくだが傭兵団に馴染み深い四方京の都民は、風変わりな傭兵団が結成されたと勘違いしたのかも知れない。
そんな風に分析したティミドは、これが利用出来ると踏んだ。
「フフフッ…良い事を思いつきました」
嫌な予感がするシン。
何と無く成り行きから推測出来たのだ。
「……まさか、これ以上の大事にするつもりですか?」
「その通りです。万が一に都督が言い逃れしても、世間が許さないようにしてやるのですよ」
そう答えたティミドは、ヘネラルを見て続ける。
「私を少し抱え上げて貰えませんか?」
そうするとヘネラルは頷き、自らが動いてティミドを右腕で抱え上げた。
そして器用に右肩にティミドを座らせたのだった。
『うはっ! 思ったより高い!』
まるでお立ち台に立たされた気分のティミド。
ちょっと恥ずかしいが、お陰で周囲の人間から視線を集めるのに成功する。
ここで意を決して声を張り上げた。
「私は傭兵団・眠りの森の一員です。今回、都督と黒金の蝶から支援を受けて迷宮に潜りました。ですが裏切られた上に、仲間を迷宮の主に奪われたのです! 故に我々は都督と黒金の蝶へ報復を実行します!」
周囲に居た一般人等は、それを聞いて唖然とし、また騒然とする。
だが一人だけ反応の違う者が居た。
それは商人風の中年男性で、ティミド達の進行に並走しながら尋ねたのだ。
「裏切りとは一体どう言う事なのですか? 証拠も無しに流言を広めれば、不敬罪と扇動罪に問われますよ」
『不敬罪はまだしも、扇動罪か…』
少し不味いかな…と思ってしまうティミド。
この男が仮に都督府の関係者なら、都督の威厳や名誉を傷付けない為の”対応”だからだ。
また只の一般人なら、こちらからすれば大きなお世話である。
何にしろ上手く対処しなければ、四方京の世論を敵に回し兼ねないだろう。
そんな時、シンがソッとティミドに話しかけた。
「あれは小報記者ですね。都督府の公開情報、四方京の事件や出来事を記事にして売っている人間です」
ティミドは首を傾げる。
「それって…新聞の事ですか?」
「そう言えば北方以外では、そんな風に呼ぶらしいですね」
『成程…これは使えるな』
「元より不敬罪や扇動罪なんて怖くないですが、ここでのディーイー様の名声を汚す事も無いでしょう」
そう告げたティミドは、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




