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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第四章:魔術師学園
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163話・決闘前夜の食当たり

プリームスはアグノスに連れられ学園内の診療所にやって来た。

着いて早々、ボレアースにある診療所とは随分と違うのに少し驚いてしまう。


診療所は2階建で市井よりもしっかりしており、その規模も中々に大きい。

生徒数が1000人近くあり、しかも全寮制なのだからこう言った施設はちゃんとした物が必要なのだろう。



先ずは中に入り、受付のカウンターへ進む。

受付担当の生徒へアグノスが声をかけると、直ぐにバリエンテ達の病室を教えてくれた。


そしてアグノスは診療所施設を把握しているようで、迷わずバリエンテ等の病室までプリームスを案内する。

流石、理事長補佐である。



病室は大部屋で、それぞれのベッドがカーテンで仕切られていた。

幾ら親しい仲でも他人には弱った姿を見られたく無いものである。


しかしこれだけ診療所が広いなら、普通なら男女を別々の部屋にする筈だ。

少し気になってプリームスはアグノスへ尋ねる。

「部屋を分け無いのだな?」



プリームスが知りたい事を察したアグノスは、

「実はこの診療所も人手不足なんです。ですので出来るだけ手間を抑える為に、部屋を一緒にしたのかと」

と少し困った表情で言った。



「成程・・・」

『生徒に対する教え手も不足しているが、そもそも学園内の職員が不足しているのだな。これは早く対応してやらんと人的に破綻してしまうぞ』

プリームスは見舞い相手のバリエンテ達を他所に思案に耽ってしまう。



するとアグノスとプリームスの声に気付いたのか、

「うぅ、その声はプリームスさんか?」

と弱々しいバリエンテの声がカーテンの向こうからした。



忘れていたとばかりに「あっ、」とプリームスが声を漏らす。

苦笑するアグノスはプリームスの手を引いて、バリエンテが横になっているであろうベッドの方へ向かった。


「バリエンテさん、プリームス様がお見舞いに来られましたよ。カーテンを開けても大丈夫ですか?」

アグノスがカーテン越しに声をかけると直ぐに返事が返って来た。



「あぁ・・・どうぞ・・・」



カーテンを開きのぞき込むと、そこには顔色の悪いバリエンテがベッドに横たわっていた。

メルセナリオやクシフォス程では無いにしろ、そこそこ体格が良いバリエンテ。

その屈強な男が弱々しくベッドの上に横たわっているの見ると、気の毒を通り越して少し滑稽に見えた。



バリエンテはプリームスを見ると申し訳なさそうに告げる。

「プリームスさん、すまない・・・」



プリームスは溜息をつくと、

「やれやれ・・・一応、イディオトロピアさんとノイーギアさんには忠告しておいたんだがな。で、こうなった経緯を話せるかね?」

そうバリエンテに告げ傍にあった椅子へ腰かけた。



頷くバリエンテは、おずおずと話し出す。

バリエンテは理事長補佐のアグノスへ決闘の話を済ませた後、イディオトロピアとノイーギアに合流し食堂に向かおうとした。

そしてその時にメンティーラに呼び止められて、食事に誘われたらしい。



何と都合の良い事か・・・恐らく待ち伏せされていたに違いない。



メンティーラは決闘するアロガンシア王子の腹心と言って良い存在だ。

その相手に食事に誘われ、勿論バリエンテは訝しんだが、

「今後の学園の在り様と、学部外活動について食事をしながら話し合いたい」

と執拗にメンティーラに迫られ仕方なく承諾したそうだ。



バリエンテだけでなくイディオトロピアも、まさか食事の最中に何か仕掛けて来るとは考えていなかったようである。

故に決闘の撤回はしないが、「話をしながら食事程度なら」、と言うノリになったのだ。


プリームスは首を傾げた。

「学園の食堂で食事を一緒にしたのではないのだな?」



「ああ、メンティーラの家は豪商でな。この街に幾つも高級料理店を構えているんだ。そこで御馳走して貰えることになって・・・」

と苦笑しながらバリエンテは答える。



要するに罠にハマるよう敵陣へ誘い込まれた訳だ。

しかも食事に毒では無く、食当たり程度で済むようにするところが中々に計算高い。


何故なら毒では後々足がつく可能性があるからだ。

しかし食当たりなら下手をすれば3、4日前の食事の可能性も有る為に原因究明は難しい。

よってメンティーラを追求する事は出来ないのだ。



「こうなってしまったのは仕方ない。問題は明日の決闘に挑めるかどうかだ」

そうプリームスが少し厳しい目つきでバリエンテに告げた。



するとバリエンテは苦笑いを浮かべて自信ありげに言うのだ。

「大丈夫だ、明日になればマシになっているだろう。それに傭兵生活をしている時に比べれば、全然大した事はない」



「その通りだわ・・・あの王子にはこれ位の不利条件が無いと相手にならないでしょ」

と突如プリームスの背後から声がした。

この声の主はイディオトロピアだ。



振り返りプリームスはカーテン越しに声をかける。

「開けても良いかね?」


直ぐに「どうぞ」と返事が返って来た。

プリームスが少しだけカーテンを開き中を覗き込むと、バリエンテ以上に調子の悪そうな顔色で、イディオトロピアがベッドへ横になっていた。



『この様子だと、イディオトロピアはギリギリ決闘に臨める状態だな』

プリームスは少し安堵するも、ノイーギアの事がかなり心配になった。

バリエンテとイディオトロピアは身体的には丈夫に見える。

しかしノイーギアは繊細で体力が無さそうなのだ。

こういう時は体力がものを言うのだから。



「ノイーギアさんはどこだ?」

一応確認しておこうと思い、プリームスは所在をイディオトロピアへ訊いた。



「え~と、多分、私の隣のベッドかな?」

と自信無さげにイディオトロピアは答える。



プリームスは立ち上がると、イディオトロピアの隣のベッドを覗いて見た。

そうするとカーテンの隙間から、ノイーギアが静かな寝息をたてて眠っているのが目に入る。

やはり顔色は良くなく、下手をすれば明日の決闘は無理な可能性がプリームスの脳裏に過った。



『一応手は打っておくべきか』



そう内心で呟くと、プリームスはアグノスを呼び寄せる。

「アグノス、耳を貸しなさい」



直ぐに駆け寄って来たアグノスは、ほんの少しだけ屈んでプリームスへ耳を差し出した。

何だかその仕草が可愛らしくて笑みが零れそうになる。

「私の立場は表向き学園視察に来た要人であろう? それに短期留学も加えて欲しい。そうすれば一応はこの学園の生徒扱いになる故な」



それを聞いたアグノスは頷くと、

「本当にお節介ですね、プリームス様は!」

そう言って諦めたように溜息をつくのであった。



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