1525話・脱出と反撃準備の眠りの森
刹那の章IV・月の姫(20)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
地上に戻る…と決めたティミド達だが、その手段に頭を抱える羽目となる。
よくよく考えれば中層は全壊し、上層とを繋ぐ経路が消失してしまっている為だ。
更には最下層の外縁部には、隔壁結界が作動している筈なのだ。
それを突破するのは、テュシアー級の魔術師でなければ不可能と言えた。
現在、初めに降り立った最下層フロア…丁度、テュシアーが嘆きの壁に向けて穿った穴の近くに戻っていた。
「八方塞がりですか、困りましたね…」
と珍しくシンが途方に暮れた口調で言った。
これに透かさず突っ込むリキ。
「おいおい…シンさん、あんたが塞ぎ込んだら、俺まで滅入っちまうぞ」
「私は率直に状況を口にしただけです。全然塞ぎ込んでは居ませんよ? と言うか、この程度で滅入るなんて…情けないですね」
ああ言えば、こう言う…そんな返しにリキは溜息が出た。
「はぁ……そうかい」
一応は皆の士気を下げない為の忠告だったが、藪蛇だったようだ。
『これは不味いわね…』
そんな二人の会話を見たティミドは、状況の悪さだけで無く、皆の心境の悪さにも問題を感じた。
この傭兵団に欠けている物…それが皆の不安を煽っているのだ。
そう…明確に方針を打ち出し、的確に指令を出す団長の存在である。
今は勝手にティミドが方針を提示し、それに皆が同調した形だが、明らかに上手く行っていない。
『参ったわね…私は皆を引っ張るより、補佐に向いているから、』
今更になって悔やんでも仕方がないが、ティミドとしては胸中でボヤキたくもなった。
これを敏感に感じていたガリーが、ソッとティミドへ意見した。
「銀冠の女王は、確か空間を司るとか言ってませんでしたか?」
「あ……そう言えば確かに!」
うっかり失念していたティミド。
以前にノクスが、大型の馬車を収納して見せた。
これは恐らく次元的な能力?か、或いは権能と言える。
そして空間をも司るなら、そう遠くない場所への瞬間的な移動も可能かも知れない。
直ぐにティミドは自身の影へ問いかけた。
「銀冠の女王ノクス…私達を地上へ移動させる事は出来る?」
すると朧げな輪郭をした人型が、音も無く影から湧き出したのだった。
居合わせた全員が、表現し難い寒気を覚える。
それは闇そのものであり、光無くては生きられない人が故に抱く感情。
正に原始より遺伝子へ刻まれた恐怖と言えた。
それでも気にしては居られない。
ティミドは再びノクスに告げた。
「私達を地上へ移動させて欲しいの。出来る?」
ノクスの朧げな姿が頷いた様に見えた。
刹那、周囲が一瞬で闇に閉ざされ、ティミド達は五感を失った錯覚に囚われたのだった。
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まるで永遠のように続く闇…だが実際は一瞬だった。
闇は凡ゆる物を飲み込み、光さえも抗えない奈落の為か、時間の感覚までもを狂わせたのである。
「き、気持ち悪い……」
片膝を付き、口元を両手で押さえるリキ。
ガリーやシンも似た様子で、唯一ティミドだけが割と平気な顔をしていた。
「皆さん大丈夫ですか?」
ティミドの問いに、3人とも同時に首を横に振った。
声を出すのも辛そうだ。
『ふむ…魔法酔いしたのか』
日頃から飛行魔法の移動訓練を行い、転送魔法を何度か経験していたティミド。
その所為なのか銀冠の女王の能力に当てられる事は無かったようだ。
『いや、これは…』
主君に随行する事で、その巨大な魔術を目の当たりにして来たからだろう。
つまりプリームスの魔術力は、人外の精霊王を容易に凌ぐと言う事なのだ。
「それにしても何の事前準備も無しで、しかも一瞬で移動なんて凄いわね…」
周囲を見渡してティミドは呟いた。
現在ティミド達4人は、迷宮の入り口を囲う防塞の中に居た。
因みに銀冠の女王の姿は見当たらない。
恐らく配慮して影に身を隠したようだ。
「ん…?」
直ぐに違和感を覚えたティミド。
この防塞の内部には衛兵が2人居た筈…なのに此処には自分達以外は誰も居ない。
漸く魔力当たりから回復したのか、覚束無い足取りでシンが傍に来た。
「ティミドさん…このまま無防備に出ては危険かと」
ティミドは頷く。
「そうですね…迷宮側と都督が繋がっているなら、既に事態を把握されているかも知れません」
不用意に防塞から出れば、待ち構えていた都督の手勢に囲まれる…なんて事も有り得る。
何より迷宮の中層を全壊させたのだ。
その余波や振動は地上にも届いて居る筈で、迷宮の主が知らせるまでも無く、都督が独自に動いで居る可能性が高い。
「どうしますか?」
「……ここで準備を済ませてしまいましょう」
続いて回復して来たリキとガリーが、深刻そうな面持ちで尋ねた。
「ほ、本気か?! 準備って"あれ"を使うって事だろ?!」
「仕方ないかも知れないけど…迷宮の氾濫と間違われそうだよね?」
「都督が私達を嵌めたのですから、気遣う必要なんて有りません。叩き潰してやりましょう」
憚る事無く言い切るティミドに、シンとリキは騒然となった。
「そ、そうですね。仕方有りませんよね…」
「うぅ…これで俺も傭兵から指名手配犯か…とほほ」
ガリーはと言うと意外に冷静だ。
「大規模な戦闘にならないよう、早めに攻めないとね。そうでないと混戦になって一般人を巻き込んでしまうよ」
「はい、一般人には十分に配慮するつもりです」
そう返したティミドは、収納魔導具から無骨な剣を取り出した。
亡者の指揮杖…プリームスから貸し与えられた、神器と言える魔導具だ。
これには強力な死者の魂が封じられており、死してなお主人を守ろうとする妄執に満ちている。
そして力を解放すれば、強大な死者の軍勢を召喚出来るのだった。
シンが不安そうに尋ねる。
「まさか…最大数で解放しませんよね?」
「え…? あ…! そ、そうですね、危なかった…」
うっかり全解放し掛けたティミド。
シンの注意喚起が無ければ、ある意味で大惨事になっていただろう。
何故なら、この広く無い防塞内に、2個師団の軍勢が瞬時に召喚されるのだから…。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




