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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1524話・ティミドの決断

テュシアーとは別の経路で迷宮内を進んだティミド達。

その理由はテュシアーの邪魔をしない為だ。

仮に自分達が側に居れば、巻き込まないようテュシアーが全力を出せないのは明白だった。


また自分達にも出来る事がある。

それはテュシアーが派手に暴れている隙に、迷宮の本体へ接近し迷宮核を破壊する事だ。

これが成功すれば迷宮側は、その強力な防衛機構を行使出来なくなる筈なのだ。



『後は可能な限り、迷宮の主(アドウェナ)の企みを探れれば…』

ティミドは迷宮の外縁部を目指しながら、一人思案に耽っていた。

因みに他の面子も各々考え事をしているのか、非常に静かである。


危険極まりない迷宮最下層で、この様に警戒もせずに歩けるのは、迷宮側の自爆?攻撃があった為だ。

それは恐らく最下層全域に及ぶもので、超高熱の爆炎攻撃だった。

その威力は凄まじく、壁などの石材がガラス化する程の高温で、配置された魔獣はおろか罠までもが焼失していた。



それでも流石に心配になったのか、リキが不安そうにティミドへ尋ねた。

「ティミドさん、大丈夫なのか?」



「…え? あ〜〜そうですね、きっと大丈夫かと」



ティミドの漠然とした答えに、リキの不安が一層増した。

「おいおい…テュシアー様が引き付けてると言ってもな、俺達を完全に無視するとも思えねえ。それに裏切り者の行方も気になるしよ」



「そっちですか…。う〜ん…正直何とも言えませんね。ですが護衛に銀冠の女王(ノクス)を貸して頂きましたし、大抵の脅威は一掃出来るかと」



「裏切り者は?」

執拗に尋ねるリキ。



『んん? 随分と神経質になっているみたいね』

そのリキの気持ちをティミドも分からなくは無かった。

一度死にかけた上に、ディーイーが身を呈してリキを救ったのだ。

ここで万が一に同じ轍を踏めば、目も当てられないと言うものである。


「黒金の蝶の副団長…恐らくは地上に戻っているかも知れませんね。或いは迷宮の主(アドウェナ)の元に居るか…」



「俺が一番気掛かりなのは、アドウェナと黒金の蝶が何を企んでるかだ」



ここでシンが会話に参加して来た。

「それに都督府…この3つが絡んでいる可能性も有ります。本国では内乱寸前と言いますし、きな臭いですね…色々と」



何かしらの大きな陰謀に巻き込まれている…そう二人は危惧しているのだと思われた。

しかしティミドからすれば、「そんな事を言われても困る」…である。


自分はプリームス(ディーイー)に随行しただけであり、行く先々での諍いに一々対処していられない。

などと思いつつも、それを口には出来なかった。

既に巻き込まれた身である事も理由だが、きっと主君プリームスなら御節介を焼いたに違い無いからだ。


『取り敢えずはプリームス様のご指示待ちよね…』

そしてプリームスが決断し易いよう可能な限り情報を収集すべきで、ついでに仲間の意思も確認しておいた方が良いだろう。

「ガリーさんはどうですか?」



急に話を振られ慌てるガリー。

「え!? お、俺?」



「はい、何か気掛かりな事は有りませんか?」



「え〜と…俺としては、本国に捕らわれている仲間が心配かな。何と無くだけど…今回の件に無関係では無い気がして…」



「ふむ…」

『確かガリーさんは龍国の元使徒だったのよね』

皆の危惧を払拭するには、どうすれば良いか…ティミドの思考が目まぐるしく回転した。


一番に優先すべきは現状の解決だ。

その為にはプリームスとの合流が絶対条件となる。

しかしながらプリームスの意識は眠っており、その体を今はテュシアーが動かしている状況。

『う~ん……これは二正面作戦が有効かもね』


テュシアーの能力は主君プリームスに匹敵し、迷宮側の勢力を完全に崩壊させるのは火を見るよりも明らかだ。

そうなると自分達が此処でウロウロしていても、あまり効率的とは言えないかも知れない。

ならば主君の手間を省くために、”もう一つの勢力”を潰しておくのも手と言える。


ティミドは足を止めると、皆へ振り返って告げた。

「地上に戻りましょう」



「え…?! 戻ってどうするんだ? 下手したら出た所を襲撃され兼ねないぞ!?」

と困惑した様子で返すリキ。



「もう忘れたのですか? 私達には銀冠の女王が居ますし、万が一に数で脅されても”お借りした物”が有りますから大丈夫です」



ティミドの言葉を察したのか、リキは唸るように頷いた。

「うむむ…確かに。武力での心配は無さそうだな」



「では地上に戻って如何するのですか?」

シンが透かさず尋ねる。



「都督府を襲撃します。今回の裏切りは十中八九で都督が絡んでいる筈ですから、直接問い詰めれば良いでしょう」



「成程…では黒金の蝶の団長はどうしますか?」



「都督府に居れば、序でに拘束して尋問しましょう」



「……」

何の憚りも無く答えるティミドに、シンは呆気に取られた。

『流石は永劫の騎士(アイオーン・エクェス)と言った所かしら』

南方最強の騎士団…その一画を担うのだから、たかが辺境の領主に気後れする訳が無く、最上位傭兵団の団長程度なら尚更だろう。



するとリキが腕をまくる仕草をして言った。

「ははは! 面白くなって来たぜ!」



そんなリキへ、ガリーが軽く蹴りを入れる。

「リキさん、あんまり調子に乗らないでね。相手は魔獣じゃ無くて”人間”になるんだから」



「お、おう?! 殺すなって事だろ?」



「違うよ……相手が殺しに掛かって来るなら、こっちも手は抜けないから命の遣り取りは仕方ないよ。でもね、魔獣みたいに単純じゃ無いから気を付けろって言ってるの!」



このガリーの指摘は当然だった。

此処での傭兵は特殊で、どちらかと言うと迷宮に潜り対魔獣戦に特化されている。

つまり対人戦に馴染みが無く、故にガリーは注意しているのだった。



「あ……! そ、そうだな…気を付けるよ」



二人の遣り取りにティミドは補足するように告げた。

「実際に私達が戦うのは、都督府に押し入ってからだと思います。屋内では”多勢”が機能しにくいですからね」



その言葉の真意を察した3人は、「戦争でも起こすのか?!」とゾッとしたのであった。


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