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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1523話・アドウェナ 対 死神

刹那の章IV・月の姫(20)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

「なっ…?!」

余りの異様さを前に、アドウェナは思わず後退りしてしまう。

アポラウシウスと名乗る男の影から、幾つもの漆黒の蛇?が出現したからだ。


否…良く見れば蛇では無かった。

それは生物の如く鎌首をもたげるが、鎖のような造形をしていたのだ。

何よりその先端には鋭い刃や鉤爪かぎずめが付いており、明らかに殺傷性を求めた武器と言えた。


『魔法…なのか?!』

それとも何らかの召喚術なのか?

アドウェナの中で不可解さが増すばかりだ。

どちらにしろ容赦無く殺しに掛かって来る筈で、相応の迎撃態勢を取らねば為らない。



アドウェナはパチンッと指を鳴らした。

すると彼女の足元から何かが染み渡り、そして広がると突如何かが生え上がった。


その数は10…虚だった輪郭は明確な形を成し、屈強な人型を模す。

魔神……人を駆逐しようとする悪鬼であり、伝説上にのみ存在した筈の魔物の姿だった。



「ほほぅ…魔神を召喚ですか。いや…これは使役しているように見えますね」

然して驚いた様子も無く言うアポラウシウス。



「…!」

アドウェナは目を見張る。

『この男…一目で魔神だと言い当てるとは』

しかも"使役"とまで看破した…それは詰まり魔神を熟知している事を示していた。



『さて…背後の斧がハクメイ姫を牽制しているようですが、』

その必要は無い…とアポラウシウスは半ば確信する。

「そんなに沢山の魔神を召喚しては、私の後ろの少女までは操作出来ないでしょうに」



「…!!」

アドウェナは再び驚愕させられる。

『私の妖術の仕組みまで知っているのか?!』


だが此処で疑問や迷いを抱いても詮無いだけ。

仮に手の内を知られていようが、力で押し切ればいいのだ。

「言葉で相手を惑わすのが得意のようね。でも残念…実際の戦いには何の意味も無いわ」



10体の魔神が一斉にアポラウシウスへ襲い掛かった。

距離は凡そ15m。

屈強な魔神の脚力なら、瞬く間に到達する距離だ。

そしてその強靭な四肢で、標的を容易に引き裂くのである。


しかし、そうは為らなかった。

音速を超えた漆黒の鎖?が、瞬時に10体の魔神を串刺しにし、また両断した為だ。



「下級魔神を何体使役しようが、私には通じませんよ」

と不敵なアポラウシウスの言葉が、魔神の断末魔の間隙を縫って聞こえた。



"不味い"…そうアドウェナの直感が告げる。

今直ぐ此処から離脱しなければ、きっと後悔する。



「フフッ…何をボ〜ッとしているのですか?」



「…!?!」

前方に居た筈…その声が背後から聞こえ、ギョッとするアドウェナ。

刹那、鋭いレイピアの一閃が彼女を襲った。



されど頭に響く様な金切り音が轟き、レイピアの切先が天を仰いだのだった。

その反動で僅かに後退するアポラウシウス。

「ほほう…随分と強固な魔法障壁ですね」



「……魔術師では無いのか?」



率直なアドウェナの問いに、ついアポラウシウスは笑いが出た。

「フフフッ。魔術師なのは否定しませんよ。ですが"剣士"かと問われれば、それもまた否定しませんね」



『まさか…!』

アドウェナは記憶の片隅に有った情報と、この男の名を照合させた。

そうして出された1つの答えは、南方や西方で悪名を轟かせる"死神"の二つ名だった。

「どうして盗賊ギルドの長が北方に居るの?」



再度、率直過ぎる問いへ、アポラウシウスは飄々と返した。

「私が何処に居ようと、貴女には関係無いでしょう」



「……」

その答えに苛立ちや怒りでは無く、不可解さばかりが湧き起こるアドウェナ。

どうして一介の傭兵…もとい傭兵団の長に、これ程の大物が手助けするのか?


そもそも迷宮を半壊させる魔法?を、ディーイーは2度も行使したのだ。

そんな現実離れした存在が、どうして北方に居るのか?


『このままでは駄目だ』

相手の強さが想定以上であり、今後も何が起こるか予想がつかない。

ここは一旦退いて態勢を立て直すべきだろう。



「…ん?」

急に気配が消失したのをアポラウシウスは感じる。

そして気付くとアドウェナの姿は、どうしてかハクメイの傍に在った。



「悪いけど退かせて貰うわ」



「そう簡単に逃すとでも?」

アポラウシウスの足元から黒い数本の鎖が伸び、鎌首をもたげた。



「フッ…逃す逃さないの問題では無いわ」



アドウェナの言葉が終わる刹那、漆黒の鎖が一気に彼女へ踊り掛かった。

それは尋常では無い速度で、更に手数の多さから躱す事も撃ち落とす事も叶わない。

なのに鎖からは手応えを感じず、認識した時には全てが虚空を薙いでいたのだった。



そう…アドウェナとハクメイの姿は、忽然と掻き消えていたのである。



『これは…瞬間移動? いや…』

自分と似た"権能"だとアポラウシウスは判断した。


しかしながら狙った獲物を逃すなど、正直自尊心が許さない所ではある。

「やれやれ…プリームス様をお守り出来ただけでも良しとしますか」


元より自分を頼ってくれていれば、恐らく現状には至らなかった筈。

そう思うと己より、プリームスの心中が心配で為らなかった。


「確か…あのハクメイ姫は義姉妹でしたか」

身内を奪われた怒りは、そう易々と収められる方では無い。

こう言った場合のタチの悪さは、闇の女王(テュシアー)の比では無いのだから。



アポラウシウスは横たわるプリームスをソッと抱え上げた。

「さて、差し当たっては目覚めるまで待つしか無さそうですね」



すると直立不動だったドロスースが、バタンッと地面に倒れてしまう。

恰も自己主張をしているかの様だ。



「はぁ……自我が有っても、半自立型だと結局は運び手が必要なのですね」

溜息をついたアポラウシウスは、漆黒の鎖をドロスースに巻き付け、疲れた様子で歩き出すのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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