1523話・アドウェナ 対 死神
刹那の章IV・月の姫(20)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「なっ…?!」
余りの異様さを前に、アドウェナは思わず後退りしてしまう。
アポラウシウスと名乗る男の影から、幾つもの漆黒の蛇?が出現したからだ。
否…良く見れば蛇では無かった。
それは生物の如く鎌首をもたげるが、鎖のような造形をしていたのだ。
何よりその先端には鋭い刃や鉤爪が付いており、明らかに殺傷性を求めた武器と言えた。
『魔法…なのか?!』
それとも何らかの召喚術なのか?
アドウェナの中で不可解さが増すばかりだ。
どちらにしろ容赦無く殺しに掛かって来る筈で、相応の迎撃態勢を取らねば為らない。
アドウェナはパチンッと指を鳴らした。
すると彼女の足元から何かが染み渡り、そして広がると突如何かが生え上がった。
その数は10…虚だった輪郭は明確な形を成し、屈強な人型を模す。
魔神……人を駆逐しようとする悪鬼であり、伝説上にのみ存在した筈の魔物の姿だった。
「ほほぅ…魔神を召喚ですか。いや…これは使役しているように見えますね」
然して驚いた様子も無く言うアポラウシウス。
「…!」
アドウェナは目を見張る。
『この男…一目で魔神だと言い当てるとは』
しかも"使役"とまで看破した…それは詰まり魔神を熟知している事を示していた。
『さて…背後の斧がハクメイ姫を牽制しているようですが、』
その必要は無い…とアポラウシウスは半ば確信する。
「そんなに沢山の魔神を召喚しては、私の後ろの少女までは操作出来ないでしょうに」
「…!!」
アドウェナは再び驚愕させられる。
『私の妖術の仕組みまで知っているのか?!』
だが此処で疑問や迷いを抱いても詮無いだけ。
仮に手の内を知られていようが、力で押し切ればいいのだ。
「言葉で相手を惑わすのが得意のようね。でも残念…実際の戦いには何の意味も無いわ」
10体の魔神が一斉にアポラウシウスへ襲い掛かった。
距離は凡そ15m。
屈強な魔神の脚力なら、瞬く間に到達する距離だ。
そしてその強靭な四肢で、標的を容易に引き裂くのである。
しかし、そうは為らなかった。
音速を超えた漆黒の鎖?が、瞬時に10体の魔神を串刺しにし、また両断した為だ。
「下級魔神を何体使役しようが、私には通じませんよ」
と不敵なアポラウシウスの言葉が、魔神の断末魔の間隙を縫って聞こえた。
"不味い"…そうアドウェナの直感が告げる。
今直ぐ此処から離脱しなければ、きっと後悔する。
「フフッ…何をボ〜ッとしているのですか?」
「…!?!」
前方に居た筈…その声が背後から聞こえ、ギョッとするアドウェナ。
刹那、鋭いレイピアの一閃が彼女を襲った。
されど頭に響く様な金切り音が轟き、レイピアの切先が天を仰いだのだった。
その反動で僅かに後退するアポラウシウス。
「ほほう…随分と強固な魔法障壁ですね」
「……魔術師では無いのか?」
率直なアドウェナの問いに、ついアポラウシウスは笑いが出た。
「フフフッ。魔術師なのは否定しませんよ。ですが"剣士"かと問われれば、それもまた否定しませんね」
『まさか…!』
アドウェナは記憶の片隅に有った情報と、この男の名を照合させた。
そうして出された1つの答えは、南方や西方で悪名を轟かせる"死神"の二つ名だった。
「どうして盗賊ギルドの長が北方に居るの?」
再度、率直過ぎる問いへ、アポラウシウスは飄々と返した。
「私が何処に居ようと、貴女には関係無いでしょう」
「……」
その答えに苛立ちや怒りでは無く、不可解さばかりが湧き起こるアドウェナ。
どうして一介の傭兵…もとい傭兵団の長に、これ程の大物が手助けするのか?
そもそも迷宮を半壊させる魔法?を、ディーイーは2度も行使したのだ。
そんな現実離れした存在が、どうして北方に居るのか?
『このままでは駄目だ』
相手の強さが想定以上であり、今後も何が起こるか予想がつかない。
ここは一旦退いて態勢を立て直すべきだろう。
「…ん?」
急に気配が消失したのをアポラウシウスは感じる。
そして気付くとアドウェナの姿は、どうしてかハクメイの傍に在った。
「悪いけど退かせて貰うわ」
「そう簡単に逃すとでも?」
アポラウシウスの足元から黒い数本の鎖が伸び、鎌首をもたげた。
「フッ…逃す逃さないの問題では無いわ」
アドウェナの言葉が終わる刹那、漆黒の鎖が一気に彼女へ踊り掛かった。
それは尋常では無い速度で、更に手数の多さから躱す事も撃ち落とす事も叶わない。
なのに鎖からは手応えを感じず、認識した時には全てが虚空を薙いでいたのだった。
そう…アドウェナとハクメイの姿は、忽然と掻き消えていたのである。
『これは…瞬間移動? いや…』
自分と似た"権能"だとアポラウシウスは判断した。
しかしながら狙った獲物を逃すなど、正直自尊心が許さない所ではある。
「やれやれ…プリームス様をお守り出来ただけでも良しとしますか」
元より自分を頼ってくれていれば、恐らく現状には至らなかった筈。
そう思うと己より、プリームスの心中が心配で為らなかった。
「確か…あのハクメイ姫は義姉妹でしたか」
身内を奪われた怒りは、そう易々と収められる方では無い。
こう言った場合のタチの悪さは、闇の女王の比では無いのだから。
アポラウシウスは横たわるプリームスをソッと抱え上げた。
「さて、差し当たっては目覚めるまで待つしか無さそうですね」
すると直立不動だった斧が、バタンッと地面に倒れてしまう。
恰も自己主張をしているかの様だ。
「はぁ……自我が有っても、半自立型だと結局は運び手が必要なのですね」
溜息をついたアポラウシウスは、漆黒の鎖を斧に巻き付け、疲れた様子で歩き出すのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




