1519話・背水のテュシアー(2)
刹那の章IV・月の姫(19)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
驚愕するハクメイとアドウェナに対し、不敵に佇むテュシアー。
しかしその胸中は焦燥に満たされていた。
『あ、危なかった……』
蓄積された記憶の中からプリームスの武技を参照し、そこから更に状況に適した物を選択した。
そこまでは良い…そこからの再現が一か八かの運頼みだったのである。
結果的には模倣出来たものの、再現性が高いか怪しい状態だった。
因みに模倣した技は、回避と認識ずらしだ。
これは身体操作に因る体移動と、気配を消して相手に”虚像”を攻撃させる併せ技になる。
端的に言うと違う場所へ攻撃させた後、その隙に安全な位置へ移動する訳だ。
これを選んだ最大の理由は、気配を消す点だ。
元よりテュシアーは存在力を一時的にだが、”完全に消す”事が可能だった。
それを実行しつつタイミングを合わせ、後は身体操作を行う…つまり実際に模倣するのは体移動だけだったのである。
しかしながら言うは易し、行うは難し。
存在力を一時的に消しても、どの間合いや機に体移動を行うのか…それが一番の疑問であった。
故に打つけ本番で「多分こんな感じ?」で実行し、何とか事故無く成功に終わったのであった。
それでもテュシアーは内心で頭を抱えてしまう。
『うむむ…これじゃ避けれても反撃が出来ない』
余りに差し迫り、記憶への参照時間が足らなかった。
このままでは何の解決にもなっておらず、どちらが息切れするか我慢比べになるだろう。
『いや…ハクメイだけなら、これでも良い。でも…』
相手には妖術師のアドウェナが居る。
ハクメイの物理的な攻撃に加え、魔法攻撃…それも範囲的な攻撃には、結局こちらも魔法で防がざるを得ない。
そうなれば枯渇しかけた暗黒魔力、または使いたくないプリームス依存の魔力に頼ってしまう。
そんなテュシアーの状況を知らないアドウェナは、想定外の状況に困惑した様子を見せた。
「あれだけの事をしておいて魔術師では無いだと…?!」
”あれだけの事”とは恐らく迷宮の中層を完全破壊し、この嘆きの壁と呼ばれる大回廊を半壊させたことだろう。
この様な大破壊が可能なのは、超常の力を持つ魔術師にしか成し得ない。
仮に超常的な能力を持った武人が真似をしても、1フロアを打ち抜くのが関の山なのだから。
また傀儡にされた?ハクメイは、アドウェナに依存しているのか全く動く様子は無い。
僅かだがテュシアーの中で希望が見えてきた。
『ほほぅ…これはアドウェナを抑え込めば…』
ハクメイの動きも抑制できるかも知れない。
されど過剰な期待や、それを計算に入れた戦いは止めるべきだ。
反応を返さないテュシアーに、アドウェナが怪訝そうに尋ねた。
「貴女は武人なの? それとも超常的な魔術師なの?」
相手が警戒し始めた…時間を稼ぐ為には良い状況だ。
ほくそ笑むテュシアー。
「さて…どうだろうな。ただ言える事は武に100年の研鑽を費やし、魔術の探求にも100年を懸けた。その結果と言えば理解できるやもな?」
これはテュシアー自身の経験では無く、プリームスが実際に行って来たことだ。
けれども肉体を共有するのだから嘘を言っている訳では無い。
「……」
アドウェナは唖然とした。
『こんな少女が200年も…?!』
少なく見積もっても220歳程度の年齢な訳だ。
そんな事を信じられる訳が無い…だが現実が信じる事を余儀なくさせた。
『ハハッ…なやり戸惑っているな。このまま勢いに任せて説き伏せてみるか?』
少し優位に立った所為で、テュシアーは調子に乗ってしまう。
「私が本気になれば、国の1つや2つ簡単に消し飛ばせる。そうなれば貴様の企みなど根幹から吹き飛ぶぞ? だから私を怒らせる前にハクメイを返せ」
これは脅し…しかも何の根拠も無く、現状の証拠を利用したハッタリだ。
実際に国の1つを滅ぼすなど、テュシアーが”万全な状態”なら可能ではある。
しかし、そんな非人道的な事をするなど、プリームスの気持ちを鑑みるなら不可能なのだ。
「フッ……やはりハクメイ姫を取り戻しに来たのか。ならば遣り様は幾らでも有るわよ」
このアドウェナの言葉に、テュシアーは「しまった!」と胸中で後悔した。
正に自分から弱味を露見させた事になり、これではハクメイを盾にして相手は如何様にも出来てしまう。
『ぐぉぅ!! 私の馬鹿馬鹿!』
プリームスと肉体を共有し、その歳月を共に経験して来た。
ところが現実に体を動かし言葉を発するのは、”実際に行動へ出した者”の経験なのだ。
引き籠って俯瞰で眺めていたテュシアーが、見様見真似で完全に再現できる筈も無かった。
『うぅぅ……こんなのプリームスに面目が立たないよ…』
舌戦、権謀の巧者と言えるプリームス…その誇りに泥を塗った事になるだろう。
刹那、ハクメイの気配が揺れた。
「…!!」
咄嗟に身構えるテュシアー。
だがハクメイの技術はどうあれ、その速度は超絶者の域にある。
簡単に対処できる物では無い。
結果、あっと言う間に懐に入られてしまった。
『クッ…! 何とか回避を!』
存在力を消すにも暗黒魔力は消費する。
その為、先ほど模倣した回避技も、そう易々と乱用も出来ない。
ハクメイの突きが、テュシアーの鳩尾を狙う。
「ぅおっ!」
偶然か、はたまた体に染み込んだ技術がそうさせたのか、突きを辛うじてテュシアーは躱す。
とはいえ躱せた所で反撃する余裕が無く、後方へ飛び退るしか術は無かった。
一方アドウェナは微動だにせず様子を窺っている。
『どう言う事だ?』
怪訝に思うテュシアー。
飛び退った直後、一瞬だが隙が出来たにも拘わらず攻撃して来ないのだ。
そして間髪入れずにハクメイが迫ってくる。
『くっ…一息つく暇も無い』
「…!」
『そうか! 私と同じくアドウェナも…』
ハクメイを傷付けられない何らかの訳がある?
その所為で恐らく安易に攻撃が出来ない…万が一にでもハクメイを巻き込み兼ねないからだ。
『フフフ……これなら何とかなるかもな』
などと思いつつも、必死にハクメイの攻撃を避けるテュシアーであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




