1518話・背水のテュシアー
刹那の章IV・月の姫(19)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
『2対1か……』
依然として不利な状況に、テュシアーは気分が重くなった。
操られて敵側に在るハクメイは、その膂力と速度が尋常では無く、まともに遣り合えば先ず勝てない。
また迷宮の主であるアドウェナは妖術師らしいが、そんな不可思議な物をテュシアーは知らない。
故に想定を超えた魔法攻撃が有りうる…つまり2人を常に警戒しなければ為らないのだ。
『こんな事ならプリームスの武技を模倣しておけば良かった……』
今更ながら後悔がテュシアーの胸中を巡った。
アドウェナは微動だにせず、テュシアーをジッと見つめる。
一方、ハクメイは距離を保ったまま、ジリジリと横へ移動を始めた。
『また挟撃を狙っているみたいだな』
直ぐに意図を察するテュシアー。
仮に完全な前後の攻撃で無くとも、正面と側面からでも十分な挟撃効果は得られる。
何故なら同じ方向からの同時攻撃よりも、少しズレた位置からの2点攻撃の方が相手への負荷が大きいからだ。
突如、ハクメイが距離を保ったまま走り出した。
「…!」
『来るか!?』
身構えるテュシアー。
アドウェナは正面5m先の至近、ハクメイは此方の側面に回りつつある。
この場合、恐らく先に仕掛けて来るのはアドウェナだろう。
そして此方が対処、若しくは回避した所をハクメイが襲ってくる…テュシアーとしては実に不利な状況だ。
それでも十分に遣り過ごす自信は有った。
丁度テュシアーの側面に来た時、ハクメイが妙な挙動をした。
「…?!」
『まさか?!』
何と足元に有った瓦礫を、ハクメイがテュシアーに蹴飛ばし始めたのである。
しかも大小さまざまで、その速度は尋常では無かった。
『ちょっ!?』
流石のテュシアーも慌てた。
この飛来する瓦礫が自分に直撃する物も有れば、そうで無い物もある。
つまり闇偽体で一時的に凌いでも、周囲にも瓦礫が飛来する所為で、この場から逃げる事が出来ないのだ。
『仕方ない!』
即座にテュシアーは魔法障壁を展開した。
これを出来れば使いたくは無かった…その理由はプリームスの魔力を使う事になる為だ。
そうすれば意識が眠っているにも拘わらず、プリームスは魔力を消費させてしまい、更には魔力核の異常が進む恐れがある。
間髪入れずに正面のアドウェナから魔力が発せられた。
「チッ…!」
つい舌打ちをするテュシアー。
僅かな時間差での”魔法攻撃”。
それは明らかに此方の動きを確認してからの”隙を突く”攻撃だった。
凄まじい火炎の渦がテュシアーを中心に発生した。
”超魔力隔壁”
出来るだけ最小限に抑制した隔壁魔法で、テュシアーは自身の周囲を囲った。
『不味い! もう暗黒魔力が……』
既に超極大魔法を2つも使用しており、燃費の悪い超魔力隔壁を何度も使ってしまっている。
このままでは後が無くなるのは明白だった。
「ほぅ…禁呪級ではビクともしないか」
アドウェナは感心した様子で呟く。
想定はしていたが、これで魔法攻撃が通じないと実証した事になる。
『フッ…だから何だと言うのか』
魔法が通じないなら別の方法を使うまでだ…その為にハクメイがいるのだから。
何より無限の魔力など存在しない。
ならば魔法が使えなくなるよう、魔力枯渇に追い込めば良いのだ。
火炎柱が収まり、全く無傷のテュシアーが姿を見せる。
その直後、ハクメイがテュシアーへ肉薄した。
正に間断無い連携。
これにテュシアーは虚を突かれる状態となった。
『速い! これでは反撃の間が…』
恰もアドウェナとハクメイの攻撃が、一つの意思の元に動いていかのようだ。
ここまで完璧に近い連携など、個々の人間が成せるものでは無い。
凄まじく速く重い突きを、何とか魔法障壁で受け止める。
そこからの続け様に放たれる蹴り…これも魔法障壁を維持しつつ、それを僅かに移動させて受け切った。
だがプリームスの事を考えれば、そう何度も使えない。
『どちらか片方の動きを止めねば』
ハクメイは絶対に傷付けられない。
そうなるとテュシアーに残された選択肢は1つしか無かった。
『あの女を殺す!』
ハクメイの攻撃を受け切った刹那に、アドウェナへ暗閃を放てば終いだ。
「なっ!?」
だが、思い通りに事は進まなかった。
何とハクメイが身を呈し、テュシアーの射線を塞いだのである。
仲間を攻撃出来ない…それを見透かされている。
或いは元よりハクメイを捨て駒にするつもりだったのか。
『おのれ!』
暗黒魔力は底を尽きかけ、もう攻防の術は残されていない。
動きが鈍ったテュシアーに、ハクメイが襲いかかった。
『むっ…?!』
先程とは違うハクメイの挙動に、瞬間的な違和感を覚えるテュシアー。
それは踏み込みが浅く、尚且つ体全体で突進する風な動き…捕縛する意図が垣間見得た。
『ふんっ! 舐められたものだな』
また同時に思う…相変わらずの"目の良さ"だと。
この体は共有するとは言え、そもそもはプリームスの物なのだ。
故に体に刻み込まれた技能が自律的に作用し、ずぶの素人なテュシアーでも超絶者の世界を体感出来ていた。
それならば見よう見真似で"動ける"のではないか?
そんな淡い希望が脳裏に湧き上がった。
『いや、違う!』
それを今体現しなければ、いつ出来ようか。
もう既に暗黒魔力は底をつき掛けているのだから。
意を決したテュシアーは、記憶の中からプリームスの動きを参照した。
そうして現状を打破する術を偶然に見つけ出す。
ハクメイの突進を認識し、これに至る時間は僅か0.1秒。
高速化したテュシアーの思考が、凡ゆる脳内演算を向上させた。
「え…?!」
驚愕の余り声を漏らすハクメイ。
確実に捉えたと確信したにも拘らず、目の前からテュシアーの姿が消え失せていたのだ。
また10mほど離れていたアドウェナも、何が起こったのか理解出来ずにいた。
「…?!」
そして消え失せたテュシアーはと言うと、ハクメイの後方3mの位置に佇み、不敵に笑みを浮かべる。
「フッ…私を魔術師だと勘違いしたようだな」
本当は魔術師のなだが、ここは状況に乗じてハッタリをかましてみた。
されど胸中は焦燥で一杯一杯であった。
『うぉぉ…まさか上手く行くとは』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




