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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1517話・アドウェナとテュシアー

刹那の章IV・月の姫(19)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

10mは離れていた筈のハクメイ。

その彼女が突然背後に現れ、テュシアーを羽交締めにする。


『くっ! やはり他者にも使える魔法か?!』

アドエゥナが前触れも無く姿を現した際、僅かだが魔力の歪を感じた。

そして今も似た様な魔力の歪みが発生したのだ。


いわゆる瞬間移動系の魔法だが、この系統の魔法は”基本的に”自身にしか施せない。

理由は魔法の機構が非常に複雑で、自身でなければ正確に制御出来ないからである。

つまりテュシアーが認識する魔法とは、根本的に違う機構だと考えられた。


『或いは何らかの外部的な補助か…』

一番の可能性は、超常的な存在からの加護だろう。

何せ此処は神に近い存在である”神獣が統治する”地域なのだから。


また他の可能性として暗黒神の加護だ。

仮にそうなら、自分と同じ属性と言う事になる。

何にしろ絶体絶命の危機なのは間違いない。



「フフフッ…これで落ち着いて話せそうね」

などと不敵に微笑みながらアドエゥナが言った。



「卑怯な奴だな。相手の自由を奪って交渉するとは見下げたぞ」



テュシアーの批判に、アドエゥナは惚けたような仕草で返す。

「そう? でも貴女が逃げない確証を得ないと、こちらの秘密を話すのは難しいわ」



この言い様は当然ではあるが、そこは対話上の駆け引きで徐々に剥いて行くのが常識だ。

『これじゃ聞いた後に拒否すれば、殺すって言ってるに等しいぞ…』

うんざりするテュシアー。



「さて、私が如何にして北方を転覆させるのか…それを知りたいのよね?」



「……まぁね。でも、この私が単身で迷宮を半壊させたのよ。その程度を阻止できない貴様が、とても北方を転覆させるなんて信じられないわ」



するとアドウェナはニヤリ…と笑みを浮かべた。

「そうね…貴女の言っている事は当然よね。それでも良く考えてみて、力とは多種多様な物よ。目に見える純粋な破壊から、目に見えない世を動かす力…私は両方を駆使するつもりなの」



「ほぅ…? 漠然としているな。それで私を説得できると思っているのか?」



「……もう知っていると思うけど、龍国は内戦目前の状態に在るわ。それを仕組み誘導したのは私よ」



『こいつ…』

テュシアーは強かな奴だと少し感心した。


以前に魔教が脅威を誇って居た時、北方四国と恐らく力と力で衝突し合ったのだろう。

しかし結果は魔教の敗退…これを教訓として”力以外”の方法を選択したのだ。

そもそもは武力で対抗する術を失っていたのかも知れないが、折れずに何十年も画策し続けたことから、その妄執の強さが窺い知れた。


そして画策の根幹に在るのが、直接では無く”間接的”な点だ。

これに因り”事の当事者達”は、滅びた筈の魔教が噛んでいるなどとは考えもしない訳である。

「成程……滅びた故の強みっと言うことか、」



揶揄気味…否、侮辱とも取れるテュシアーの発言だが、アドウェナは特に怒りを現す事無く返した。

「北方四国は誘導されていると気付かずに自滅する事となる。でもね、貴女のような不確定要素が発生する可能性もあるの。それを限りなく抑え込む為に、貴女が私に協力してくれれば助かるのだけど」



「フンッ! 自分の都合ばかり言いおって、勝手な奴だな」



「あら…私は何も一方的に迫っている訳じゃ無いわよ。私に協力してくれるなら、貴女が望むものを可能な限り用意する…それが有形だろうが無形だろうがね」



「……」

テュシアーは逡巡した。

この女が北方で何をしようが自分には関係ない…が、プリームスの行動の障害になっては面倒だ。

なら此処で殺しておくのが一番無難だろう。


されどプリームスが欲しがっている情報を、この女が持っている可能性も有る。

それを鑑みると中々踏み切れずにいた。



「どうしたの? 迷っているの?」

見透かしたようにアドウェナが言った。



『いや…迷う理由など無かったな』

この女はプリームスが大切にしているハクメイを攫った上に、傀儡にまでしてしまった。

これは万死に値する。

「初めから答えは決まっていた」



「聞かせて貰おうかしら?」



「身内に手を出した貴様は、ここで死ななければ為らない」



落胆した様子で溜息をつくアドウィエ。

「はぁ……結局は始末するしかないのね。残念だわ…」



刹那、テュシアーを羽交い絞めにするハクメイの力が強くなった。



「クッ!」

その膂力が尋常では無く、テュシアーは力や身体操作で抜け出すのは絶対に無理だと思えた。



そこへ徐にアドウェナが接近して来る。

「こんなに美しい女の子を殺すなんて…何だか凄く勿体ないわね」



「フンッ! じゃぁお前が死ね!」



絶体絶命なのに減らず口…そんな超絶美少女に、流石のアドウェナも顔をしかめた。

「やれやれ…貴女の死体は腐らないように保存してあげるわ。それで私が飽きるまで目の保養にするとしましょうか」


そうしてアドウェナの右手が触れようとした瞬間、テュシアーの体が水の様に形を失い、その全てが地面へ流れ落ちてしまった。


「…!!??!」

「あ……?!」

驚愕に目を見張るアドウェナ。

そして羽交い絞めしていた筈のハクメイも、急に消えた存在に呆然とした。



「フフ…フフフ……そんな簡単に私が捕まる訳がないでしょう?」

それはテュシアーの声だった。

しかも10mほど右に離れた位置から…。



直ぐにアドウェナは視線を向ける。

「…! 一体どうやって?!」



これにテュシアーは半ば呆れた様子で返した。

「お前は馬鹿か? そんな事を答える筈が無いだろう」


実はアドウェナの存在を認識した時点で、闇で作った液状の偽体ぎたいを即時に作り出していたのだ。

それと同時に自身の存在力を消失させ、状況を観察する為に二人から離れた訳である。


闇偽体カオス・ビカリウス…この暗黒魔法が無ければ、この窮地から抜け出す事は不可能だっただろう。



するとアドウェナは突然笑いだした。

「フフフ……ハハハッ!」



「…?!」

『な、何? 予想外の事が起きて頭がおかしくなったのか?』

ドン引きするテュシアー。



「フフ……フ……本当に興味深い……貴女の事が本気で欲しくなったわ」



不気味な笑みを浮かべたまま告げるアドウェナに、テュシアーは背筋が凍る錯覚に捕らわれた。

『気持ちの悪い女だな』


兎に角、ここからは油断ならない。

こちらが偽体を駆使すると知られた以上、”殺す気”で迫ってくるのは間違いないのだから。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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