1517話・アドウェナとテュシアー
刹那の章IV・月の姫(19)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
10mは離れていた筈のハクメイ。
その彼女が突然背後に現れ、テュシアーを羽交締めにする。
『くっ! やはり他者にも使える魔法か?!』
アドエゥナが前触れも無く姿を現した際、僅かだが魔力の歪を感じた。
そして今も似た様な魔力の歪みが発生したのだ。
いわゆる瞬間移動系の魔法だが、この系統の魔法は”基本的に”自身にしか施せない。
理由は魔法の機構が非常に複雑で、自身でなければ正確に制御出来ないからである。
つまりテュシアーが認識する魔法とは、根本的に違う機構だと考えられた。
『或いは何らかの外部的な補助か…』
一番の可能性は、超常的な存在からの加護だろう。
何せ此処は神に近い存在である”神獣が統治する”地域なのだから。
また他の可能性として暗黒神の加護だ。
仮にそうなら、自分と同じ属性と言う事になる。
何にしろ絶体絶命の危機なのは間違いない。
「フフフッ…これで落ち着いて話せそうね」
などと不敵に微笑みながらアドエゥナが言った。
「卑怯な奴だな。相手の自由を奪って交渉するとは見下げたぞ」
テュシアーの批判に、アドエゥナは惚けたような仕草で返す。
「そう? でも貴女が逃げない確証を得ないと、こちらの秘密を話すのは難しいわ」
この言い様は当然ではあるが、そこは対話上の駆け引きで徐々に剥いて行くのが常識だ。
『これじゃ聞いた後に拒否すれば、殺すって言ってるに等しいぞ…』
うんざりするテュシアー。
「さて、私が如何にして北方を転覆させるのか…それを知りたいのよね?」
「……まぁね。でも、この私が単身で迷宮を半壊させたのよ。その程度を阻止できない貴様が、とても北方を転覆させるなんて信じられないわ」
するとアドウェナはニヤリ…と笑みを浮かべた。
「そうね…貴女の言っている事は当然よね。それでも良く考えてみて、力とは多種多様な物よ。目に見える純粋な破壊から、目に見えない世を動かす力…私は両方を駆使するつもりなの」
「ほぅ…? 漠然としているな。それで私を説得できると思っているのか?」
「……もう知っていると思うけど、龍国は内戦目前の状態に在るわ。それを仕組み誘導したのは私よ」
『こいつ…』
テュシアーは強かな奴だと少し感心した。
以前に魔教が脅威を誇って居た時、北方四国と恐らく力と力で衝突し合ったのだろう。
しかし結果は魔教の敗退…これを教訓として”力以外”の方法を選択したのだ。
そもそもは武力で対抗する術を失っていたのかも知れないが、折れずに何十年も画策し続けたことから、その妄執の強さが窺い知れた。
そして画策の根幹に在るのが、直接では無く”間接的”な点だ。
これに因り”事の当事者達”は、滅びた筈の魔教が噛んでいるなどとは考えもしない訳である。
「成程……滅びた故の強みっと言うことか、」
揶揄気味…否、侮辱とも取れるテュシアーの発言だが、アドウェナは特に怒りを現す事無く返した。
「北方四国は誘導されていると気付かずに自滅する事となる。でもね、貴女のような不確定要素が発生する可能性もあるの。それを限りなく抑え込む為に、貴女が私に協力してくれれば助かるのだけど」
「フンッ! 自分の都合ばかり言いおって、勝手な奴だな」
「あら…私は何も一方的に迫っている訳じゃ無いわよ。私に協力してくれるなら、貴女が望むものを可能な限り用意する…それが有形だろうが無形だろうがね」
「……」
テュシアーは逡巡した。
この女が北方で何をしようが自分には関係ない…が、プリームスの行動の障害になっては面倒だ。
なら此処で殺しておくのが一番無難だろう。
されどプリームスが欲しがっている情報を、この女が持っている可能性も有る。
それを鑑みると中々踏み切れずにいた。
「どうしたの? 迷っているの?」
見透かしたようにアドウェナが言った。
『いや…迷う理由など無かったな』
この女はプリームスが大切にしているハクメイを攫った上に、傀儡にまでしてしまった。
これは万死に値する。
「初めから答えは決まっていた」
「聞かせて貰おうかしら?」
「身内に手を出した貴様は、ここで死ななければ為らない」
落胆した様子で溜息をつくアドウィエ。
「はぁ……結局は始末するしかないのね。残念だわ…」
刹那、テュシアーを羽交い絞めにするハクメイの力が強くなった。
「クッ!」
その膂力が尋常では無く、テュシアーは力や身体操作で抜け出すのは絶対に無理だと思えた。
そこへ徐にアドウェナが接近して来る。
「こんなに美しい女の子を殺すなんて…何だか凄く勿体ないわね」
「フンッ! じゃぁお前が死ね!」
絶体絶命なのに減らず口…そんな超絶美少女に、流石のアドウェナも顔を顰めた。
「やれやれ…貴女の死体は腐らないように保存してあげるわ。それで私が飽きるまで目の保養にするとしましょうか」
そうしてアドウェナの右手が触れようとした瞬間、テュシアーの体が水の様に形を失い、その全てが地面へ流れ落ちてしまった。
「…!!??!」
「あ……?!」
驚愕に目を見張るアドウェナ。
そして羽交い絞めしていた筈のハクメイも、急に消えた存在に呆然とした。
「フフ…フフフ……そんな簡単に私が捕まる訳がないでしょう?」
それはテュシアーの声だった。
しかも10mほど右に離れた位置から…。
直ぐにアドウェナは視線を向ける。
「…! 一体どうやって?!」
これにテュシアーは半ば呆れた様子で返した。
「お前は馬鹿か? そんな事を答える筈が無いだろう」
実はアドウェナの存在を認識した時点で、闇で作った液状の偽体を即時に作り出していたのだ。
それと同時に自身の存在力を消失させ、状況を観察する為に二人から離れた訳である。
闇偽体…この暗黒魔法が無ければ、この窮地から抜け出す事は不可能だっただろう。
するとアドウェナは突然笑いだした。
「フフフ……ハハハッ!」
「…?!」
『な、何? 予想外の事が起きて頭がおかしくなったのか?』
ドン引きするテュシアー。
「フフ……フ……本当に興味深い……貴女の事が本気で欲しくなったわ」
不気味な笑みを浮かべたまま告げるアドウェナに、テュシアーは背筋が凍る錯覚に捕らわれた。
『気持ちの悪い女だな』
兎に角、ここからは油断ならない。
こちらが偽体を駆使すると知られた以上、”殺す気”で迫ってくるのは間違いないのだから。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




