1515話・迷宮の最下層(3)
刹那の章IV・月の姫(18)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
暗閃・極改で穿った穴へ飛び込んだテュシアー。
その穴は直径1.5m程で、小柄なテュシアーなら優に身を潜らせる事が可能だった。
そもそも穴と呼ぶには長大過ぎて、もはや隧道と呼ぶのが妥当だろう。
しかも内部は綺麗に削り取られた状態で、物凄く摩擦が少ない。
故にテュシアーは身を躍らせた瞬間から、殆ど垂直落下するような速度で隧道内を滑走した。
『さて…どうなっているかな』
一応は嘆きの壁とやらをピンポイントで狙撃したが、如何程の被害を与えたかは分からない。
実際に目で見て判断するしか無いだろう。
そしてその被害を見て迷宮側の動きを誘導するのだ。
一番の目的は攫われたハクメイの奪還で、報復は二の次。
故に可能な限り迷宮側へ"迎撃させる"事が重要になる。
つまり迎撃に注力させ、迷宮の中枢に隙を作らせる訳だ。
『問題は何処にハクメイが囚われているかだが…』
流石のテュシアーにも明確には特定出来ていない。
只、精霊とハクメイが仮契約しているので、その繋がりに因り凡その位置は分かっている。
詳細に特定するには、更に凡その位置に近付くしか無い。
幾度とツギハギの隧道を危なげ無く越え、テュシアーは強く焼けた臭いを感じた。
『そろそろか』
突如、完全に隧道が消失し、空中に投げ出されるテュシアー。
ゆっくりと浮遊魔法で慣性を相殺し、眼下を見下ろした。
「ほほう…随分と広いな」
一見して高さが100m、横幅はその倍は有りそうだ。
また未だに舞い上がる粉塵の所為で、奥行きに至っては明確には分からない。
それでも1000mは下らないだろう。
『これ程の空間を地下に築くとは、やはり…』
万が一の大規模な迷宮攻略に備えていた…そう考えれば合点がいく。
人間側が幾ら人海戦術を試みても、迷宮の通路は然して広く無い。
そうなると一度に投入可能な戦力は限られ、当然に此処へ侵入出来るのは少数となる。
結果、この大空間で待ち構える強大な魔獣に、傭兵や冒険者は簡単に蹂躙されてしまうのだ。
しかし暗閃・極改の直撃で、この地下大空間は凄惨な有様だ。
地面には巨大な窪地が出来上がり、天面や壁は至る所が崩落している。
こうなれば飛行型の巨大な魔獣は勿論のこと、地を這う魔獣も移動は困難となる。
『差し当たっての御膳立ては完了したし、後は迎撃させるだけだな』
などと思うが、迷宮側に気付かれていなければ意味意味が無い。
なので登場を派手に知らせる必要があった。
「ん〜〜折角瓦礫の山にしたが、少し吹き飛ばすか…」
見通しが悪過ぎて見つけて貰えないのは、そもそもが本末転倒である。
"闇爆撃"
無詠唱で凝縮した闇の塊を発現させ、それをテュシアーは瓦礫の山へ投げ付けた。
その威力は尋常では無く、一瞬で瓦礫が吹き飛び、地面に2つ目の窪地が出来上がってしまう。
「あ…威力が高過ぎたか?」
少し後悔したが、幸いな事に天面や壁の崩落は免れた。
だが穿ってしまった深さ5m程の窪地が、敵の前進を阻害するのは間違いないだろう。
『まぁ良いか、一気に来られても面倒だしな』
お陰で粉塵も綺麗に吹き飛び、この大回廊の見晴らしが良くなった。
「…! 漸く出て来たか…」
数百m先に人影を確認し、徐に地面へ降り立つテュシアー。
『先ずは軽く痛め付けて、動けなくなった所を拷問してやる』
そう思いながら苦笑する。
痛め付けている時点で拷問と言えなくも無いからだ。
そんな風に余裕な態度でいると、思いもよらぬ速度で何かが飛来して来た。
「…?!」
その速度は尋常では無く、障壁魔法が間に合わない程だ。
”暗閃”
仕方なく速射が利く攻撃魔法で相殺せざるを得ない。
威力を抑え速度重視にした混沌の一閃が、飛来した何かと衝突する。
すると圧縮された熱量が解放されたかの様に、凄まじい爆発を引き起こした。
「チッ! 火炎魔法か!」
しかも相当な魔力硬度であり、まるでプリームスの熱閃を見ているかのようだ。
『だが似ていても格が違うわ!』
僅かに驚いた自分に苛立ちを感じるテュシアー。
その所為で適度に痛め付けるつもりだったが、気分が変わってしまう。
『ひき肉にして脳から直接情報を吸い出してやる!』
直後、テュシアーは更なる驚きで目を見張る事になる。
「なっ!?」
それは正に予想打にしない出来事だった。
数百mは有った距離を、相手は一瞬で詰めて来たからだ。
それだけでは無い…その相手とはハクメイだったのである。
『クッ…! まさか此方の弱味を見越しての手段なのか?』
襲い来るハクメイを前に、テュシアーは後方へ下がる事しか出来なかった。
とても人間とは思えない速度の蹴りを放つハクメイ。
そうすると直前までテュシアーの居た場所へ直撃し、その地面が爆発した。
「ぅお?!」
つい声が出てしまうテュシアー。
『こんなの当たったら即死……』
実際は爆発したのではなく、そう見える程の威力だったのだ。
間髪入れずにハクメイはテュシアーを追う。
その速度も尋常では無く、再び両者は至近となる。
『な、何なんだ? この速度は?!』
ハクメイが操られているのは間違い無いが、ここまでの速度と膂力にテュシアーは納得がいかない。
確かに神獣の加護に依存しない不可思議な能力は有った、だからと言って今のハクメイは異常である。
明らかに音速を超える突きや蹴りが、容赦無くテュシアーを襲う。
『不味い! このままでは…』
テュシアーは部分的に発現させた魔法障壁で、ハクメイの攻撃を何とか防ぐ。
されど長くは持たない。
何故ならプリームスのように武の極地に在る訳では無いからだ。
いずれはハクメイの速度と膂力に押され、被弾するのは明白だった。
ならば選ばなければ為らない……ハクメイかプリームスか。
当然に答えはプリームスだ。
『きっとプリームスに嫌われる…』
どうしてか脳裏にプリームスの悲しむ顔が浮かんだ。
『いや…プリームスは………』
自分が”表に出る”事態に至った起因…それを鑑みてプリームスは己を責めるだろう。
『駄目だ……駄目だ…』
「駄目だ!! そんな事にはさせない!」
暗黒の魔力がテュシアーを覆う。
その刹那、襲い来るハクメイの拳がテュシアーの鳩尾へ直撃した。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




