1514話・超常の神器と護衛
刹那の章IV・月の姫(18)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
暗閃・│極改が物凄い速度で地面に吸い込まれ、気付けば轟音と振動は随分と遠のいていた。
しかし直ぐにティミド達は身を縮こまらせる羽目になる。
数秒後、大地震かと思うほどの凄まじい振動が起きたのだ。
「キャッ?!!」
「うぉお?!!」
「な、何??!」
とティミドとリキ、それにガリーは声を漏らして片膝をついた。
またシンは既に屈み込んでいた為、そのまま尻餅をついてしまった。
「ぅわう?!」
一方、この大振動の原因と思われるテュシアーは、平然した様子で告げる。
「着弾したな。これで門番とやらも粉微塵だろう」
そうして超魔力隔壁を解除し、皆へ向き直って続けた。
「これから私は迷宮の中枢を急襲する。君達は遣るべき事をするがいい」
「待って下さい! そんな事を急に言われても、私達だけでは…」
そこまで言ったティミドは、その先を言い淀んでしまう。
"恐らく敵に対処し切れない"…それが今の実情だ。
しかし誇り高い永劫の騎士の自分が、そんな事を言える訳も無かった。
すると察したのか、或いは元々当てにしていなかったのか、テュシアーが配慮した言い様をする。
「あ〜〜君達だけでは心許ないな。なら、これを渡しておこう」
「これは…」
ティミドに手渡された物は、何の装飾も無い無骨な剣だった。
『亡者の指揮杖!!』
「本来なら私やプリームスしか扱えないが、例外的に"ティミドも"使えるようにしておいた。対処し切れない場合は、迷わず妄執の軍団を呼びなさい」
「よ、宜しいのですか?! このような神器を私なんかが…」
これまでの対応と違い、急で大き過ぎる施しにティミドは困惑する。
この指揮杖はプリームスが居た以前の世界で、プリームスに仕えていた死者を呼び出す魔導具なのだ。
しかも死者は並々ならぬ武人達で、呼び出せる最大数はニ個師団に相当する。
つまり何も無い所から、突如強者の軍勢が召喚される…正に神器と言える代物である。
「構わない。きっとプリームスも貸し与えていた筈だし、私にとっても貴女は大事な身内だから」
そうテュシアーは恥ずかしそうに答えた。
「有難う御座います」
その配慮にティミドは深く首を垂れ、そして思う。
テュシアーは独走的ではあるが、決して身内や仲間を慮れない為人では無かったと。
また主君の別人格だが、よくよく考えれば同じ存在なのは変わりないのだ。
「フフッ…良いのよ。それから…護衛も付けておくわ」
と告げたテュシアーは、指を鳴らして誰にともなく言った。
「出ておいで…」
ティミド達の背筋が凍った。
それは一度感じた事のある恐怖、又は畏怖と言うべきかも知れない。
銀冠の女王ノクス…辛うじて人の形を成した闇色の精霊王。
その超常の存在はテュシアーの背後に立ち、虚に此方を見つめている様だった。
「プリームスから聞いているだろうが、ノクスは闇、無、空間、次元を司る精霊の王なの。危険だから直視はしないようにね、意識を持っていかれちゃうから」
などと皆へ忠告した後、テュシアーはノクスへ目配せする。
そうするとノクスは音も無く移動し、ティミド達の傍に佇んだ。
「こ、こんな強大な存在を護衛にですか?!」
嬉しいやら悲しいやら…ティミドは恐怖の余りに声が震える。
ノクスから放たれている魔力?は凄まじく、勝手に体が震えてしまうのだ。
恐らく"抑えている筈"だが、それでも超常の力は人間に恐怖を与えるのだろう。
故にリキとガリーとシンは、ティミド以上に緊張して硬直する有様だ。
「あ……常人ではキツいか」
失念していたように呟くテュシアー。
そして手振りだけで指示を出すと、ノクスはティミド達の足元へ吸い込まれるように消えたのだった。
「え…?! 何をなさったのですか?!」
慌てて尋ねるティミド。
恐怖心も同時に消失したが、その尋常では無い存在感は依然と感じる。
何より自分の影へ同化した風で、実に不気味で仕方が無かった。
「ノクスはね、あらゆる闇と同化する事が出来るの。影も例外では無いから、いつも通り安心して振る舞えば良いわよ」
『んん…??』
要領を得ない答えにティミドは戸惑う。
「そ、その…銀冠の女王の影響は受けないのですよね? でも私達を守ってくれると?」
身を潜めながら自分たちを守るなど、果たして可能なのだろうか?
「フフッ…精霊の王を侮ってはいけないわ。貴女達を守るなんて片手間で可能よ」
と微笑みながら返したテュシアーは、身を翻して暗閃・│極改で穿った穴へ向かった。
「あ……お、お待ち下さい! 何処に行かれるのですか?」
「さっき言ったでしょ…中枢を急襲するって。貴女達は危ないから私に直接付いて来ない方が良いわ」
「そんな……」
全く当てにされいない…そう実感したティミドは自身に落胆する。
東方での戦いでもそうだった。
プリームスに随行したのは良いが結局は守られてばかりで、挙句の果てには足手纏いになってしまった。
『あの時と何も変わっていない……』
本来ならば主君を守るべき立場なのに、その土俵にさえ立っていないと自覚した。
するとテュシアーは徐にティミドの傍へ来て囁く。
「君一人なら随行を許可しただろう。何故なら君は私が守らずとも大丈夫だからだ。だが他の3人は違う…今の私でも皆を守り切りながら戦うのは無理が有るからね」
「…! では私の役目は?」
「私が派手に暴れている間、別経路から迷宮の”本体”へ向かいなさい。そして可能な限り情報を収集するのよ」
”可能な限り情報を収集する”…それは詰まり迷宮側が都督だけで無く、何らかの他勢力との繋がりを示唆していた。
また画策する手段や目的を探れ…そうテュシアーは暗に指示しているのだ。
それを即座に汲み取ったティミドは頷く。
「承知しました。ですが隠密に特化されている訳では無いので、そんな私でも大丈夫でしょうか?」
「亡者の指揮杖で多種多様な人材を召喚可能だ。まぁ人外ではあるが召喚主の指示に従う故、問題なく補助してくれるだろう」
と告げたテュシアーは踵を返し、地面に穿った穴へ身を躍らせた。
「あ……!」
正に取り付く島も無く、ティミドは半ば呆気に取られる。
「ティミドさん…俺達だけで大丈夫なのか?」
リキが不安そうに尋ねてきた。
その後ろではガリーだけでなく、シンまでもが憂慮な表情を浮かべている。
「……大丈夫とは言い切れませんが、十二分な配慮をしてもらえました。ですから此処からは私達次第です」
ティミドはそう答えた…だがそれは仲間へでは無く、自分自身への鼓舞でもあった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




