1513話・迷宮の最下層(2)
刹那の章IV・月の姫(18)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
先程まで湿っていた空気が、急に生暖かくなるのをティミドは感じた。
その刹那、テュシアーが皆の元へ駆け寄って叫ぶ。
「私の傍から離れるな!!」
只事では無い…そう察した皆は、即時にテュシアーの元へ集まった。
”超魔力隔壁”
薄い漆黒のベールが大きな球状になり、テュシアー達全員を覆う。
直後、凄まじい爆炎が周囲を覆い、また駆け巡った。
「なっ?! 一体何が?!」
ティミドの問いに、テュシアーは小さく鼻で笑いながら答えた。
「フッ…どうやら迷宮の主は、私達の始末に手段を選ばなくなったようだ」
既に爆炎が発生して2分以上は経過している…なのに全く止む気配が無い。
故にティミドの中で1つの推測が導き出された。
「まさか…迷宮を犠牲にしてでも私達を殺そうとしている?」
中層を失った今、迷宮側からすれば下層を失っても大差無い筈だ。
何せ本体は下層のもっと下に存在するのだから。
「うむ…ただ少し判断が遅い。中層を完全に破壊されて、そこで漸く私の危険性に気付くとはな」
「確かに…実際こうしてテュシアー様が防いでいらっしゃいますものね」
恐らく下層に侵入されたと想定して、下層空間全てに爆炎を発生させたのだろう。
しかしながら”これ程の事”が可能な迷宮側に、ティミドは驚かされるばかりだ、
『これだけの技術力は、現文明では多分不可能だわ…』
不安そうにリキが言った。
「テュシアー様よ……このまま耐え続けるのか?」
彼の不安は当然と言えるだろう。
何故なら幾ら超絶的なテュシアーでも、永遠と続く爆炎攻撃を耐え続ける事は不可能だからだ。
いつかは必ず疲弊して、隔壁結界を維持出来なくなるのは明白だった。
「まさか私の力が、迷宮側の攻撃に劣るとでも言いたいのか?」
不快さを露わにしながら返すテュシアー。
「い、いや! 違う違う! 俺が言ってるのは爆炎が止むのかって事で…」
よくよく考えればテュシアーの問い通りで、それ以上をリキは言い淀んでしまう。
『うぅぅ…聞き方を失敗した』
そんな二人の間へシンが割って入った。
「テュシアー様、リキさんが言いたいのは皆が無事に居られるのか?…です。迷宮側が私達の始末を確認するまで、きっと何度も攻撃を仕掛けて来るのでは?」
テュシアーはシンへ微笑んだ。
「君は冷静で理知的だな。プリームスの舎人にでもなれば重宝しそうだ」
唖然とするシン。
「……」
そんな事を言っている場合でな無いからだ。
『なにを頓珍漢な事を?!』
そうこうしていると、周囲を焼き尽くしていた爆炎が収まり始めた。
テュシアーは隔壁魔法を維持したまま告げる。
「ほぼ確実にシンの言う通り、我らの生死を確認しに来るだろう。その前に先手を打つ」
「先手って…何をされるつもりですか?」
物凄く不安になるティミド。
隔壁結界を維持したまま…それは詰まり、仲間にも危険が及び兼ねない手段だからだ。
「最下層の嘆きの壁だったか…絶対防衛線のようだしな、そこを叩いてギャフンと言わせてやる」
この返答にティミドは既視感が過り、少しばかりイラッとした。
『また結果だけで肝心の手段を説明しないし…』
それでも主君なので丁寧に尋ねる。
「ギャフンと言わせるのは良いのですが、実際には如何様な手段で為さるのです?」
「ここから床も壁も撃抜いて直接叩く」
この端的な答えにティミドはゾッとした。
先程のように中層全域を破壊しないだけマシだが、きっと相当な余波が来るに違いないのだ。
「……分かりました。このまま私達は隔壁魔法の中に居れば良いのですか?」
「うむ、ここでジッとして居れば良い」
「左様ですか…」
『その後の指示は特に無いのね…』
ティミドは溜息が出そうになるが、そこは我慢して皆へ目配せした。
すると良い加減慣れたのか、皆は一様に頷くのだった。
その直後、漆黒のベールの外で何かが凝縮し始めた。
"暗閃・極改"
凝縮した何か……それは闇の塊であり、しかし光を放っているかのような輝きも感じる。
脳が錯覚しているのか?、或いは人間では正確に感知出来ない現象なのか?
どちらにしろティミドは驚きを隠せなかった。
徐に右手を眼下の地面へ向けるテュシアー。
それに呼応するかたちで、ゆっくりと下へ闇の塊が動き出す。
「…?!!」
ティミドは体が勝手に仰反るのを自覚した。
テュシアーの生み出した闇の塊が、凄まじい勢いで急に地面へ激突したのである。
そしてその余波が漆黒のベールを貫通して、こちらにまで到達した錯覚に捉われたのだ。
否…実際に圧力を感じており、それを何故か言語化出来ない。
恰も人が原始から抱き続ける"恐怖"のようだ。
「この魔法は謂わば禁呪…その中でも特に禁忌とされる負属性を根幹とする。故に人間は無意識に拒絶感を抱き、また強大過ぎる所為で重い圧力を感じるのよ」
見透かしたようにテュシアーから言われ、ティミドはムッとしてしまう。
『なら事前に言ってくれれば良いのに!』
お陰でガリーやリキも堪え切れず、少し後退りしていた。
シンに至っては気持ちが悪いのか、頭を抱えて屈み込む始末だ。
そうしている内に闇の塊は、轟音と振動を撒き散らせながら地面へ沈み始める。
その速度は尋常では無く、気付けば轟音と振動が遠のいていた。
「黒星核撃では威力が高過ぎて下層を吹き飛ばしてしまう。だが、この暗閃・極改なら"ある程度"は範囲を絞れるゆえ、ハクメイまで被害は及ぶまい」
などと得意げに語るテュシアー。
これを聞いたティミドは血の気が引いた。
「ちょっ!? そんな丼勘定で禁忌魔法を放ったのですか?!」
万が一、ハクメイが下層に居て、この暗閃・極改の軌道上に居たら…そんな危惧が脳裏に過ぎったのだ。
「え…? な、何か不味かった?!」
「はぁ……」
全く配慮が利いていないテュシアーに、ティミドは頭を抱えてしまうのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




