1512話・迷宮の最下層(1)
刹那の章IV・月の姫(17)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
隔壁結界を抜けて下層へ降り立ったティミドは、周囲を見渡して感心した。
「ここは…中層とを繋ぐ階段だったのですね」
「うん…ちゃんと進める場所でないと、またティミドに怒られそうだからな」
と若干の皮肉を込めて返すテュシアー。
「え…あ、はい…先程は怒鳴ったりして申し訳有りませんでした」
「フフッ…まぁ冗談だ、気にしないでくれ」
そう告げたテュシアーは先頭に立って歩き始めた。
その足取りは迷いが無く、まるで迷宮の下層を知り尽くしているかの様だ。
そんな一応?の主をティミドは呼び止めた。
「お待ちください、テュシアー様!」
また小言か、或いは怒られるのかと思い、ビクッとなるテュシアー。
「な、何…?」
「え〜と…その格好のままは少々不味いかと」
「え? あ……」
ティミドに指摘され、今更になってテュシアーは気付く。
今の格好は楽に過ごせる寝巻き姿なのだ。
しかも少し透け感があり、とても冒険者などがする出立ちでは無い。
「俺も少し気になっていた。そんな格好だと掠っただけで大怪我になり兼ねないぞ」
と一番後ろに居たリキが心配そうに言った。
「ふむ、皆の目の保養になって良いかと思ったが…やっぱり駄目か?」
『おいおい…目の保養て…』
リキは突っこまずには居られない。
「いや…それはディーイーさんの許可も要るんじゃないのか?」
何とかディーイーの美貌に慣れてきた所ではあるが、ここまで露骨に体の線を強調されると目のやり場に困ってしまう。
するとテュシアーはニヤリと笑みを浮かべて返した。
「クククッ…そう焦るな、冗談だよ」
『こ、こいつ~!! 揶揄いやがって!!』
「と、兎に角だ、安全且つ目のやり場に困らないよう頼む」
「分かった分かった…口喧しく言うな」
面倒臭そうに遇らった後、テュシアーは肩に掛けていたケープを瞬時に消した。
収納魔導具へ仕舞ったのである。
そうなると先程にも増して薄着になり、その扇情的な体の線が顕著になってしまう。
「おいおいおい?! 脱いでどうする?!」
なので再び突っ込む羽目になるリキ。
「本当に騒がしい奴だな…黙って見てろ」
そのままテュシアーは着ていた寝巻だけでなく、下着まで収納魔導具に仕舞って真っ裸になった。
慌てて目を背けるリキ。
「うぉ?!?」
一方、ガリーとシンはガン見してしまい、ティミドはと言うと頭を抱えた。
「わぉ!」
「あらあら」
「はぁ……」
その直後、テュシアーの目の前に拳大の漆黒球体が出現する。
そしてそれは突如膨張して広がると、布のようにテュシアーの体に巻き付いたのだった。
またもや慌てる羽目になるリキ。
「おうぉ?! テュシアー様、大丈夫か?!」
因みに先ほど目を背けたが、こっそり見ていたのは内緒である。
「はぁ……いちいち喧しい奴だな……」
その巻き付いた漆黒の布?には抵抗せず、只々テュシアーは溜息をついた。
そうすると見る見るうちに顔以外を漆黒の布が覆い、恰もピチピチの続服を着ているようになった。
「これは……」
下手な真っ裸よりも扇情的…と思ってしまうティミド。
また良く見れば顔だけで無く、胸元もパックリと開いている。
その所為で非常に均等の取れた?魅惑さを醸し出していた。
「勘弁してくれ…テュシアー様よ。そんなんじゃ結局裸と大差ないぞ…」
などとリキは愚痴るが、ちゃっかり目は逸らさない。
『うわぁ……あんなに華奢なのに、凄い胸がでかい……』
「君達の要求通り、安全と目のやり場に困らぬよう配慮したのだ…ガタガタ言うな」
テュシアーの言葉は相変わらず結果だけで、その内容の詳細までは語られていない。
これに当然ティミドが釘を刺した。
「見た目は百歩譲って、その黒い布?を体に巻き付けた程度で、十分な安全が確保出来るようには思えませんが?」
辛辣な語調が含まれるが、それでも僅かで、一応は主である事への配慮だった。
だがテュシアー側の捉え方は違った。
「こ、これは暗黒魔法で作り出した特殊な続服なの! 並みの刃物程度じゃ私に傷一つ付かないし、打撃にも耐性があるのよ」
と焦りながら釈明する有様…もはや暴君然とした威厳は、完全に鳴りを潜めている。
「……左様ですか。ならプリームス様が常時展開していた魔法障壁に匹敵すると?」
「も、勿論よ! 魔力を使わない点で言えば、費用対効果ではプリームスの魔法障壁を上回るわ」
「成程……分かりました。それなら問題なさそうですね」
納得した様子を見せるティミドだが、その胸中には怪訝さが湧き起こっていた。
それは”魔力を使わない点”だ。
『暗黒魔法は魔力を使わない? いや、でも……』
漠然とではあるが、強大な魔力の波動は感じる。
故に何か怪しい事をしているのではないか?…そんな不安を抱かざるを得ない。
しかも敬愛する主の体を勝手に使い、これを成しているのだから尚更である。
兎に角、今はプリームスの意識が眠っている以上、自分が能動的に干渉できる事は無い。
そこは悔やまれるが、先ずはハクメイ姫の奪還を優先すべきだろう。
こうして何とかティミドの許可を得た形になり、テュシアーは胸をホッと撫で下ろした。
されど目の前の問題は何も片付いていない。
『やれやれ……急いでハクメイを探さないといけないのに、』
こんな所で道草を食っている場合では無いのだ。
その時、迷宮特有の湿った空気が、急に温かくなるのを感じたのだった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




