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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1510話・じゃじゃ馬の手綱(2)

刹那の章IV・月の姫(17)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

凄まじい破壊の嵐が周囲を蹂躙した。

それでもテュシアーが張った魔法障壁?で、ティミド達への影響は皆無だ。


しかしながら破壊の轟音と、それに伴って落下してくる土砂や瓦礫が皆を震え上がらせる。

この薄いベールの如き魔法障壁が無ければ、自分達は一瞬で押し潰されていた…そう思うと怖くてならないのだ。



それにしても一体どうやって中層を破壊しているのか?

そんな疑問がティミドの脳裏を過ぎる。

そして恐る恐る顔を上げ、薄いベールの合間から見える惨状を確認した。


「…!?」

ティミドは目を見張った。


魔法障壁の外に展開していた黒球は、眩い光を発しながら外へ外へと進んでいく。

そうして進むごとに周囲の物体は破壊され、また蒸発するように消し飛んでいたのだった。


だが不思議な事に発光体は、漆黒の膜に包まれており、目を背ける程には眩しく無い。

"あの膜"が熱量や破壊の威力を、恐らくは制御する機構なのだろう。



不思議そうにしているティミドへ、テュシアーが微笑みながら告げた。

「東方の"炉"を知る君ならば、この破壊魔法が何なのか推測出来るのでは無いか?」



「え……"炉"ですか?」

その言葉でティミドは直ぐに察しがつく。


"炉"とは現在東方で廃炉計画が進行中の、原子核分裂炉の事に違いない。

これを引き合いに出すと言う事は、つまり"それ"を利用した破壊魔法だと暗に告げている訳だ。

「まさか…そんな危険な魔法を?!」



不安そうなティミドへ、テュシアーは小さく首を横に振る。

「心配ない。発生する放射線の類は、濾過ろか機構で覆い完全に遮断している」



「濾過機構…ですか。それも魔法なのですか?」



「そうだ。だが只の魔法では無い…人間が禁忌としている暗黒魔法だよ」



『暗黒…!』

禁忌の意味と、その強大さの理由をティミドは理解した。


暗黒魔法とは、その名の通り"闇"に属する力が根源だ。

また闇は凡ゆる負の力を根幹とし、暗黒神が施す加護の属性でもある。

故に忌み嫌われる傾向にあるが、その効果や力は絶大だどティミドは聞き及んでいた。



「私が怖いかい?」



それはティミドにとって意表を突くような問いだった。

「い、いえ! 私はプリームス様の傍で多くの力を拝見しました。なので力や能力に対する偏見は、私の中では有りません」



「そう…なら良かった」



そんな二人の遣り取りを、屈み込み恐怖に耐えながら聞いていたリキ。

『うぅぅ…人の気も知らずに』


以前、海賊に襲われた際に、リキはディーイーの極大魔法を2つも目にしていた。

なので一応の耐性は有る筈だった…しかし怖い物は怖いのである。


それでも愚痴や弱音は吐けない。

自分は既に"事"の関係者であり、何よりディーイーに命を救われたのだから。



一方、同じく屈み込んでいたシンとガリーは、二人して何か話している様子だ。



超破壊の轟音の所為で何を話しているかは聞き取れず、妙にリキはヤキモキしてしまう。

『くぅぅ…俺だけ除け者かよ…』



こうして黒星核撃メランアステル・エクリクスが中層を蹂躙する事5分…漸く破壊の轟音と振動が止む。



「お…終わったのか…?!」



リキの問いに、テュシアーは頷いた。

「うむ…だが下手に動かぬ方が良いぞ。落下死したくなければな」



そう言われては確かめたくなるのが人間の性。

リキは身を屈めながら少し外側へ進んだ。


既に漆黒のベールは消失しており、周囲は完全な闇。

いつの間にかテュシアーが発動させた照明魔法が、皆の頭上を照らしているだけである。

故にリキは足元の狭さに気付かなかった。


「ぅおぁっ?!! 危なっ!!」

何とテュシアーが張っていた隔壁魔法を境に、外側の足場が完全に消失していたのだ。

『うへ…危うく落下死するところだった』



「フッ…言っただろう、人の忠告は素直に聞くものだ」



「お、おうっ……これって……浮いてるのか?!」



「そうだ、私の魔法で”君達”の安全を確保したのだよ。私の傍で大人しくしていれば死ぬことは無い」



サラッと怖い事を言うテュシアーに、身の毛がよだってしまうリキ。

「そ、そうか……」

『それってウッカリ…』

安全圏から出ると即死し兼ねないと言う事だ。



そこへティミドが申し訳なさそうに言った。

「テュシアー様、このままでは自分達も身動きが取れません。守って頂けるのは嬉しいのですが…」



「誰が勝手に動いても良いと言った? 君達を守ってやるとは言ったが、私の邪魔をする事は許可していないぞ」



『えぇぇ?!』

まさかの返しでティミドは呆気に取られる羽目に。



「君達はジッと大人しくしていれば良い。その間に迷宮を蹂躙し、迷宮の主を後悔の奈落へ突き落してやろう」

などと告げたテュシアーは、表現し難い邪悪な笑みを浮かべた。



『この人は……』

独走的で協調性が全くない…そう思いティミドは半ば絶望する。


仲間と言う概念自体を、ひょっとすれば持ち合わせていないのかも知れない。

そんな相手を如何に御せばいいのか?

方法は1つ…そう、プリームスを嵩に圧力を掛けるしか無い。

「テュシアー様! そんな無茶苦茶な事がまかり通るとでも?」



「何だと…?」



「今、私達は傭兵団・眠りの森なのです。その小さいながらも1つの組織で、貴女はその組織の一員なのですよ? いえ…団長であるプリームス様の留守を預かる”団長代行”なのです! 不手際や失態が有れば、きっとプリームス様が落胆されますよ、良いのですか?」

とティミドは一気に捲し立てた。

ここで勢いを無くせば、相手に付け入る隙を与えてしまうからだ。



これにテュシアーは少し怯む様子を見せた。

「うぅ……それは困る。なら私はどうすれば良い?」



『何だ駄々っ子の相手をしているみたい……』

などと思いながらティミドは、ソッとテュシアーの手を握って尋ねる。

「ハクメイ姫の救出が最優先で、次に迷宮の主…それに関係する者への報復が、テュシアー様の望みなのですよね?」



「う、うん……でも”それだけ”じゃ駄目なのだろう?」



「はい。何故にハクメイ姫を狙ったのか突き止めねば為りません。その為には私達もある程度は動ける方が宜しいのでは?」

迷宮の主が何か大きな企てをしている…それは間違いなさそうなのだ。

本来であれば北方の事情だけに無視でも良いのだが、今に至っては最早それも叶わない。

だからこそティミドは覚悟を決めていた。



「分かったわ……取り敢えず君達を下層に下ろすよ…」

結果、先程までの勢いを無くしたテュシアーが出来上がるのであった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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