1510話・じゃじゃ馬の手綱(2)
刹那の章IV・月の姫(17)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
凄まじい破壊の嵐が周囲を蹂躙した。
それでもテュシアーが張った魔法障壁?で、ティミド達への影響は皆無だ。
しかしながら破壊の轟音と、それに伴って落下してくる土砂や瓦礫が皆を震え上がらせる。
この薄いベールの如き魔法障壁が無ければ、自分達は一瞬で押し潰されていた…そう思うと怖くてならないのだ。
それにしても一体どうやって中層を破壊しているのか?
そんな疑問がティミドの脳裏を過ぎる。
そして恐る恐る顔を上げ、薄いベールの合間から見える惨状を確認した。
「…!?」
ティミドは目を見張った。
魔法障壁の外に展開していた黒球は、眩い光を発しながら外へ外へと進んでいく。
そうして進むごとに周囲の物体は破壊され、また蒸発するように消し飛んでいたのだった。
だが不思議な事に発光体は、漆黒の膜に包まれており、目を背ける程には眩しく無い。
"あの膜"が熱量や破壊の威力を、恐らくは制御する機構なのだろう。
不思議そうにしているティミドへ、テュシアーが微笑みながら告げた。
「東方の"炉"を知る君ならば、この破壊魔法が何なのか推測出来るのでは無いか?」
「え……"炉"ですか?」
その言葉でティミドは直ぐに察しがつく。
"炉"とは現在東方で廃炉計画が進行中の、原子核分裂炉の事に違いない。
これを引き合いに出すと言う事は、つまり"それ"を利用した破壊魔法だと暗に告げている訳だ。
「まさか…そんな危険な魔法を?!」
不安そうなティミドへ、テュシアーは小さく首を横に振る。
「心配ない。発生する放射線の類は、濾過機構で覆い完全に遮断している」
「濾過機構…ですか。それも魔法なのですか?」
「そうだ。だが只の魔法では無い…人間が禁忌としている暗黒魔法だよ」
『暗黒…!』
禁忌の意味と、その強大さの理由をティミドは理解した。
暗黒魔法とは、その名の通り"闇"に属する力が根源だ。
また闇は凡ゆる負の力を根幹とし、暗黒神が施す加護の属性でもある。
故に忌み嫌われる傾向にあるが、その効果や力は絶大だどティミドは聞き及んでいた。
「私が怖いかい?」
それはティミドにとって意表を突くような問いだった。
「い、いえ! 私はプリームス様の傍で多くの力を拝見しました。なので力や能力に対する偏見は、私の中では有りません」
「そう…なら良かった」
そんな二人の遣り取りを、屈み込み恐怖に耐えながら聞いていたリキ。
『うぅぅ…人の気も知らずに』
以前、海賊に襲われた際に、リキはディーイーの極大魔法を2つも目にしていた。
なので一応の耐性は有る筈だった…しかし怖い物は怖いのである。
それでも愚痴や弱音は吐けない。
自分は既に"事"の関係者であり、何よりディーイーに命を救われたのだから。
一方、同じく屈み込んでいたシンとガリーは、二人して何か話している様子だ。
超破壊の轟音の所為で何を話しているかは聞き取れず、妙にリキはヤキモキしてしまう。
『くぅぅ…俺だけ除け者かよ…』
こうして黒星核撃が中層を蹂躙する事5分…漸く破壊の轟音と振動が止む。
「お…終わったのか…?!」
リキの問いに、テュシアーは頷いた。
「うむ…だが下手に動かぬ方が良いぞ。落下死したくなければな」
そう言われては確かめたくなるのが人間の性。
リキは身を屈めながら少し外側へ進んだ。
既に漆黒のベールは消失しており、周囲は完全な闇。
いつの間にかテュシアーが発動させた照明魔法が、皆の頭上を照らしているだけである。
故にリキは足元の狭さに気付かなかった。
「ぅおぁっ?!! 危なっ!!」
何とテュシアーが張っていた隔壁魔法を境に、外側の足場が完全に消失していたのだ。
『うへ…危うく落下死するところだった』
「フッ…言っただろう、人の忠告は素直に聞くものだ」
「お、おうっ……これって……浮いてるのか?!」
「そうだ、私の魔法で”君達”の安全を確保したのだよ。私の傍で大人しくしていれば死ぬことは無い」
サラッと怖い事を言うテュシアーに、身の毛がよだってしまうリキ。
「そ、そうか……」
『それってウッカリ…』
安全圏から出ると即死し兼ねないと言う事だ。
そこへティミドが申し訳なさそうに言った。
「テュシアー様、このままでは自分達も身動きが取れません。守って頂けるのは嬉しいのですが…」
「誰が勝手に動いても良いと言った? 君達を守ってやるとは言ったが、私の邪魔をする事は許可していないぞ」
『えぇぇ?!』
まさかの返しでティミドは呆気に取られる羽目に。
「君達はジッと大人しくしていれば良い。その間に迷宮を蹂躙し、迷宮の主を後悔の奈落へ突き落してやろう」
などと告げたテュシアーは、表現し難い邪悪な笑みを浮かべた。
『この人は……』
独走的で協調性が全くない…そう思いティミドは半ば絶望する。
仲間と言う概念自体を、ひょっとすれば持ち合わせていないのかも知れない。
そんな相手を如何に御せばいいのか?
方法は1つ…そう、主を嵩に圧力を掛けるしか無い。
「テュシアー様! そんな無茶苦茶な事が罷り通るとでも?」
「何だと…?」
「今、私達は傭兵団・眠りの森なのです。その小さいながらも1つの組織で、貴女はその組織の一員なのですよ? いえ…団長であるプリームス様の留守を預かる”団長代行”なのです! 不手際や失態が有れば、きっとプリームス様が落胆されますよ、良いのですか?」
とティミドは一気に捲し立てた。
ここで勢いを無くせば、相手に付け入る隙を与えてしまうからだ。
これにテュシアーは少し怯む様子を見せた。
「うぅ……それは困る。なら私はどうすれば良い?」
『何だ駄々っ子の相手をしているみたい……』
などと思いながらティミドは、ソッとテュシアーの手を握って尋ねる。
「ハクメイ姫の救出が最優先で、次に迷宮の主…それに関係する者への報復が、テュシアー様の望みなのですよね?」
「う、うん……でも”それだけ”じゃ駄目なのだろう?」
「はい。何故にハクメイ姫を狙ったのか突き止めねば為りません。その為には私達もある程度は動ける方が宜しいのでは?」
迷宮の主が何か大きな企てをしている…それは間違いなさそうなのだ。
本来であれば北方の事情だけに無視でも良いのだが、今に至っては最早それも叶わない。
だからこそティミドは覚悟を決めていた。
「分かったわ……取り敢えず君達を下層に下ろすよ…」
結果、先程までの勢いを無くしたテュシアーが出来上がるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




