1509話・黒星核撃
刹那の章IV・月の姫(16)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
いつの間にか子供の様に大人しくなったテュシアー。
これにリキやガリーは目を丸くした。
『え……?! さっきまでの尊大な態度は何処へ行った?』
『何だか雰囲気が急に変わったような…』
因みにシンは、相変わらず一歩引いて周囲を警戒していた。
そんな皆を他所に、ティミドは主?との会話を進める。
「テュシアー様、これから実際に如何されるのですか?」
「初めにも言ったけど、取り敢えずは中層を完全に破壊するわ」
これにティミドは毅然とした態度で返す。
「……それは腹が立って報復の為だけにするのですか? なら私としては承服し兼ねますが」
対してテュシアーはと言うと、若干オドオドしながら答えた。
再びプリームスの事を引き合いに出されては堪ったものでは無い。
「いや……確かに報復の意味もあるけど、安全に最下層の更に下へ行くためよ」
「…? 中層をぶっ壊すのに安全ですか? 矛盾していませんか?」
首を傾げるティミド。
自分達が居るのは中層なのだ…そこを破壊すれば自分達も巻き壊れ、加えて上層の崩落した瓦礫に埋もれる事になるだろう。
「あ……ごめん、説明不足だったわ。その…私の計画では先ず中層の迷宮核を残しながら、中層全域を完全破壊する。これで中層の防衛機構が働いて隔壁結界が発動する筈よ」
この説明でティミドは合点がいく。
「成程…つまり崩落した上層の瓦礫を、中層の隔壁結界で受け止める訳ですね。ですが中層の迷宮核だけを残すって…そんな器用な事が可能なのですか?」
「それなら大丈夫、魔力空隙で既に位置を特定しているわ。迷宮核自体も相当に頑強な魔法障壁で守られてるし、万が一に崩落に巻き込まれても少々は問題ないわ」
魔力空隙とはプリームスがインシオンの気塵空隙を参考に、独自で編み出した広範囲索敵魔法である。
そんな二人の遣り取りを聞いていたリキが、慌てて話に参加して来た。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 黙って聞いてれば無茶苦茶な話をしていないか? そもそも中層を完全破壊なんかしたら、俺らが巻き込まれるだろ!」
テュシアーはティミドの時とは違い、あからさまに溜息をついて返す。
「はぁ……君たちの安全は確保すると言っただろ。崩落した瓦礫に巻き込まれるような手落ちをする訳が無い」
リキは心配になってティミドへ視線を向けた。
「……」
本当に大丈夫なのかと暗に確認しているのである。
『心配して当然よね…』
つい苦笑いを浮かべてしまうティミド。
「テュシアー様、皆さんへ具体的な説明をして頂けませんか?」
すると面倒臭そうな表情をするテュシアーだが、先程のリキへの態度と違って真摯に説明を始める。
「この広間の一部に隔壁結界を張るわ。それと次元呪法で足場の存在力を固定するから、崩落して落下死なんて事も起こらない。君達は私の傍に居れば安全よ」
当初は”お前達”だったが、今では”君達”に呼び方が変化した。
これは明らかに配慮されている…とは言え、ティミドの目が有るからだろう。
そんな事を思いつつもリキは頷いた。
「分かった、テュシアー様を信用するとしよう」
と言うか、もう信用するしか道は無い。
ここで彼女を信用せずに地上へ逃げかえっても、恐らく都督か、或いは黒金の蝶の刺客に命を狙われるに違いないのだから。
「さて…善は急げだ。早々に中層を破壊する」
そのテュシアーの言葉に、皆へ緊張が走った。
テュシアーの周囲に漆黒の球体が10個ほど出現する。
球体の大きさは直径50cm程度で、形は球体のまま妙に流動しているように見えた。
また時折、バチバチと火花が球体の周囲で発生しているのが見え、誰が見ても危険この上ない物だと認識できた。
それが10個…一斉にテュシアーを中心に外側へ移動し、10mほどで停止する。
そしてテュシアーは皆へ告げた。
「私の傍から離れぬように」
これから尋常では無い事が起きる…そう確信した全員は、即座にテュシアーを囲むように集まった。
”超魔力隔壁”
「フッ……そう怖がるな。私の言う事を聞いて言えば無傷で済む」
苦笑気味にテュシアーが言った刹那、彼女を中心に半径5mの空間を何かが覆う。
覆った物は、例えるなら薄い漆黒のベール。
しかし凄まじい魔力を帯びており、魔術師でないリキでも人知を超えた魔法だと理解した。
直後、展開していた10個の黒球が、凄まじい速度で外側へ向けてはじけ飛ぶ。
”黒星核撃”
轟音と地響きが周囲を蹂躙し、ティミド達は恐怖で屈み込み目を閉じてしまう。
されどテュシアーは違った。
「フフフッ…何故に目を閉じる? このような極大魔法など、一生で一度も見る事は叶わぬぞ」
その声をかき消すように、大量の土砂が周囲を覆う漆黒のベールへ直撃した。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




