1508話・じゃじゃ馬の手綱
刹那の章IV・月の姫(16)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「お待ちください! もう少し私達へ分かり易く説明をして頂けませんか?」
ティミドは問い詰めるようにテュシアーへ迫った。
これに後から来たリキ達は、状況が見えず気が気でなくなる。
まるで喧嘩しているように見えたからだ。
眉を顰めて返すテュシアー。
「私に説明責任を果たせと?」
「左様です。それに貴女は団長なのですから、身内の私や仲間の安全を担保しなければ為りません。幾ら機嫌が悪いからと言って、無下にされるのは信義に反しますよ」
正に主君を諌める臣下の言葉だった。
テュシアーは僅かに顰め面をすると、
「……分かった。説明もするし、君達の安全も確保しよう。只、私の邪魔や煩わせる事をすれば、即座に見捨てるからな」
などと諦めた様子で告げる。
「有難うございます」
『良かった…一応は話が通じるのね』
内心ホッとするティミド。
正直、勢いに任せて諌めたは良いが、それで逆鱗に触れたら意味が無い。
また主君の中に在る別人格とは言え、"信義"に対しての反応を見るに、やはりプリームスなのだと思えた。
それでも過信し過ぎては駄目だ。
為人を完全に把握していない以上、些細な事で不興を買うかも知れないのだから。
「先ず、この迷宮は階層ごとに独立している。一見して繋がっていて1つの構造体に見えるがな」
そう前置きしたテュシアーは、地面へ足先で絵を描き続けた。
「故に管理機構…特に危機管理の機構は完全に個々で機能しているから、中層が崩壊すれば即座に隔壁結界が作動するわ」
地面に描かれた簡単な絵には、中層と下層を隔てる太い線が引かれていた。
そして下層の絵の下には、何やら良く分からない物も描かれている。
それは余りにも簡略的でティミドには理解出来なかった。
『んん?? 何これ…? 巨大な球体?』
その様子を見たテュシアーは、描かれた上層から下層の絵を足先で払って消してしまう。
「上は飾りだ」
「え…? 飾り…ですか?」
『この巨大迷宮が飾りって事?!』
ティミドは半ば信じられなかった。
長年に渡り幾多の傭兵団が挑み、未だに中層も完全攻略されていない南南東の巨大迷宮。
それが只の飾りなどと鵜呑みに出来る訳が無い。
仮にテュシアーの言葉を信じるなら、北方の迷宮常識が覆る事になる。
何より"飾り"だとするなら、更に強大な何かが潜んで居る可能性が考えられた。
『そんな危険な物を南門省は抱えていたの?!』
そこへリキとガリーが来て恐る恐る尋ねる。
「喧嘩してた訳じゃないんだなよな?」
「え〜と…大丈夫?」
因みにシンはと言うと、少し離れた位置から周囲を警戒していた。
主が攫われたのに、一番冷静で胆力が有るのはシンかも知れない。
テュシアーが皆を見渡して言った。
「凡庸な者には理解し難いだろうが、この迷宮は隠れ蓑でしか無い。恐らく地中の黒幕が、迷宮核を植えるよう手引きしたのだろうな」
ここで漸く凡そを理解したティミド。
この迷宮の主?は何十年も以前に、北方の全域と戦争をした魔教の副教主なのだ。
そんな輩が企む事など決まっている。
「まさか魔教の再興を目論んでいる?!」
リキとガリーは訳が分からず困惑した。
「ちょっ…ま、待ってくれ! 話が全然見えて来ない。順序立てて説明を頼む」
「確かに俺達を襲ったアドウェナ・アウィスは、魔教副教主の名だけど…騙っているかもしれないし、」
一方テュシアーは、いつの間にか出した椅子に座って踏ん反り返っていた。
恰も面倒臭い話は知らん…と暗に言っているようである。
『もうっ! 面倒臭がりなのはプリームス様と一緒なんだらか!』
仕方無くティミドは、自分の推測をリキとガリーへ説明する事にした。
「え〜と…」
【5分後…】
「なっ?! この迷宮が本体じゃないってか?!」
つい大声を出してしまうリキ。
そしてガリーも信じられない様子だ。
「そんな……」
そこにシンが来て至極冷静に告げた。
「本当に魔教の復活を画策しているなら、国家間で牽制し合いなどしている場合では有りませんね」
同調するティミド。
「その通りです。その上、魔神まで使役していましたから、きっと戦力は相当な物の筈…急ぎ対策しないと先手を取られますよ」
そんな四人の会話にテュシアーが割って入った。
「何を慌てる事が有る? 私が殲滅してやると言うのに」
「それは性急過ぎます。他に協力者が居る可能性が大きいですし、捕らえて情報を引き出すべきかと」
ティミドの進言に、テュシアーは実に嫌そうな表情を浮かべる。
「それは君達の都合だろう。私はハクメイを奪還し報復が済めば、他には何の興味も用も無いのだぞ」
「プリームス様も同じ考えなのですか?」
この問いにテュシアーは口籠った。
「い、いや…それは……」
『くそっ…やりにくいな』
強引に"力"で黙らせても良いのだが、それをしてしまうと絶対にプリームスの怒りを買う。
そうなれば今より"面倒な事態"に発展し、もう"表に出る事"は出来なくなるだろう。
まだそれだけなら良い。
もしプリームスが自分を嫌いになったら…存在さえも消去されるかも知れない。
『それは絶対に嫌だ!』
口籠るテュシアーに、ティミドは執拗に迫った。
「何ですか? プリームス様の同意を得ていないですか?」
「うぅぅ……そうよ勝手に私がやろうとしているだけよ」
「……そうですか。ならプリームス様と相談は出来るのですか?」
「いや……今は疲労で完全に意識が眠ってしまっている。無理に起こす事はしたくない」
「左様ですか。でしたら後でお叱りを受けないよう、無難な方法を選びませんか?」
今度は優しい口調と声音に努めるティミド。
プリームスを嵩に懸ければ、何とかテュシアーを制御出来そうな手応えを感じた。
なら飴と鞭を使いこなせば、上手く誘導できると思えたのだ。
「うん……分かった……」
結果、テュシアーは子供の様に諭されて、受け入れる形となるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




