1507話・不機嫌なテュシアー
刹那の章IV・月の姫(16)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
テュシアーは両腕を前で組み、"非常に"不機嫌そうな口調で告げた。
「この有様で、お前達の味方をしろと? ふざけた事を言う」
この有様とは、恐らくディーイーの状態の事を言っているのだろう。
それを敏感に察したティミドは、申し開きする術が無い様子で俯いてしまう。
「「……」」
それはシンとガリーも同様だった。
自分達が不甲斐ない所為でハクメイが攫われ、挙げ句の果てにディーイーを昏倒させたのだから。
しかしリキは違った。
「テュシアー様よ…あんたの言いたい事は分かる。でもな、そんな事で今は揉めてる場合じゃ無いんだ」
「そんな事だと…?」
そうテュシアーが言った刹那、天幕内の空気が一瞬で凍り付く。
ティミドが慌てて間に入り、即座に跪いた。
「も、申し訳ありません! この男は貴女様やプリームス様の事を理解していないのです! どうか無礼をお許し下さい!」
「……」
庇われたリキは唖然とする。
仲間が攫われ、更に自分達は絶体絶命な状況だ。
そんな自分達よりもプリームスへの配慮が重要視されるのは、明らかに"ズレている"としか思えない。
「私はプリームスを第一に考え、プリームスを最優先する。それが理解出来ぬならば、お前達と行動を共にする意味など無い」
最終通告…そうティミドは受け取った。
つまりテュシアーの意に沿わぬらば"見捨てる"と言っているに他為らない。
ここは全面的に下手に出て、今は受け入れるしか無いだろう。
たが付け入る隙は有る。
テュシアーはプリームスを最優先にし、その強大な力を躊躇いなく振るう。
それでもプリームスが損する事や、また悲しむ事は絶対にしない筈なのだ。
ならば身内や仲間を大切にするプリームスの価値観を、テュシアーは絶対に無視出来ない。
『これを取り引き材料にして、ハクメイ姫を救って皆んなも守る!』
意を決したティミドは告げた。
「テュシアー様…ハクメイ姫を救わねば為りません。あの方はプリームス様と義姉妹の誓いを立てた間柄なのです」
「……」
するとテュシアーは僅かに思考した後、溜息をついて返す。
「分かっている…今はハクメイの奪還を最優先事項とする。その後は迷宮の主を嬲り殺しにし、迷宮と四方京を完全に破壊してやろう」
『ちょっ?!?!』
ティミドは慌てた。
「「「…!!」」」
当然、居合わせたリキやガリー、常に冷静シンまでもが蒼白な表情を浮かべる。
「この人なら遣り兼ねない」…そうティミドは思い血の気が引く。
万が一、その様にテュシアーが動けば、何百万もの人命が失われる。
そうして死による因果の負属性は大気に充満し、プリームスを苦しめる結果となるに違い無い。
「テュシアー様、ご冗談はお止め下さい。そんな事をすれば如何なる事態になるか、分かっておいででしょう?」
諌める風なティミド言い様に、テュシアーは眉間にシワを寄せた。
「フンッ…! ここでもプリームスは身内に恵まれているようだな」
「テュシアー様…?」
曖昧な返答にティミドは困惑する。
無茶をするのかしないのか…それだけを聞きたいのだから。
「はぁ……貴女は心配しなくても良いわ。必要以上の報復と破壊は行わないから」
再び溜息をつきながらテュシアーは言った。
「有難うございます…」
ホッと安堵するティミド。
しかし"必要以上"と言った…それは詰まり敵の死滅と、迷宮の崩壊は避けられないと暗に告げていた。
『これは…迷宮だけじゃなくて、都督府にも血の雨が降りそうね…』
正直ゾッとした。
プリームスは基本的に他者の命を奪わない。
それが敵であっても、絶対的な雌雄を必要としない限りは、命のやり取りを避けているように見えた。
だがテュシアーは違う。
恰もプリームスと身内以外は、人と思っていない節がある。
これは話に聞いていたが、本当に自分が"身内側"で良かったと思わざるを得ない。
「差し当たっては先制攻撃による報復よね…」
などと脈絡も無く呟いたテュシアーは、ベッドから降りると天幕を出て行ってしまった。
「「「……」」」
呆気に取られるリキとガリーとシン。
ティミドも半ば呆然としていたが、直ぐに察してテュシアーの後を追った。
「まっ、待ってくださいテュシアー様!! 何を為さるつもりですか?!」
テュシアーは全く足を止めず、大トカゲと巨大蜘蛛に襲われた広間へ到着する。
そして周囲を見渡して呟いた。
「ほほう…あれだけの蜘蛛の死骸をもう片付けたのか。やはり迷宮核の性能は良いようね」
「テュシアー様!」
ティミドに呼び止められ、テュシアーは面倒臭そうに振り返った。
「何…?」
「お願いですから、私の質問に答えて下さい!」
「言ったでしょう…報復よ。先ずは中層全てを破壊してやろうかしら」
「なっ?! だ、駄目です!! そんな事をすれば上層も崩落するかも知れません!」
『何を考えているんだ?!』
何より攫われたハクメイにも被害が及ぶ可能性が有る。
それをティミドが見過ごせる筈も無かった。
「フッ…その程度の事を私が計算出来ないとでも? それに君も既に気付いているわよね…この迷宮が普通では無いと」
「それは…」
並の迷宮とは異なる機構を有する…地図を見た時点からティミドは察していた。
だからと言って何だと言うのか?
「恐らく上層は消失しているが、中層と最下層は個別の迷宮核が存在する。中層を破壊しても、下層には影響が無い筈よ」
全く要領を得ず戸惑うティミド。
「…???」
『迷宮核が複数ある?! でも中間層が崩落したら…』
支えを失った上層の崩落は免れないだろう。
そして上層と中層の瓦礫や土砂は重力には逆らえず、下層を圧し潰すに違い無い。
そもそも中層を完全破壊など可能なのか?
「お待ちください! もう少し私達へ分かり易く説明をしていただけませんか?」
「「「…?!」」」
後から駆け付けたリキとガリーとシンは、半ば口喧嘩をしているような二人に気が気で無くなるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




