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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1506話・四面楚歌の眠りの森

刹那の章IV・月の姫(16)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

「差し当たってはディーイーさんとティミドさんの復帰待ちだ…」



このリキの言い様に、ガリーは苛立ちを覚えた。

「リキさん…命を助けて貰った上、まだディーイーを頼るって言うの?」



「烏滸がましいかもしれんが頼らざるを得ない…それが現実だろ。それに俺達は傭兵団・眠りの森だ…団で起こった事態は、団員の皆んなで解決するのが筋ってもんだ」

とリキは憚る事なく言い返した。



「確かにその通りだけど…」

忸怩たる思いと葛藤が、どうしてもガリーに苦悩を強いる。


自分が如何に無力なのか、今回は嫌と言うほど思い知らされた。

『いや、無力ならまだ良い…』

なまじ武力を持つだけに、それなりに当てにされる。

そうして自分はディーイーの足を引っ張ってしまったのだ。



そんなガリーへ、リキは自嘲気味に言った。

「正直、俺は恥ずかしいし申し訳ない気持ちで一杯だ。でもよ、現実は待ってくれないしな…やれる事をするしか無いだろ」



リキの顔は平然としているが、血が滲み出る程に拳を握りしめていた。

それを見てしまったガリーは、悲壮に浸る自分が恥ずかしくなる。

「リキさん…ごめん……」



「別に謝る事でもないさ。兎に角、"今どうする"か考えなきゃな」

そう返したリキは、その場に疲れた様子で座り込んだ。



するとシンが間髪入れずに告げる。

「このまま潜るも危険、しかし地上に戻るのも危険かと」



頷くリキ。

「だな…」

詰まるところ自分達はハメられた訳だ。


恐らく初めからハクメイを狙っていて、その為には迷宮で事故に見せ掛け、傭兵団・眠りの森を全滅させる必要が有った。

また全滅しなかった自分達が地上に戻れば、間違い無く口封じに殺されるだろう。


『このまま潜るしか無いのか…?』

何にしろディーイーの回復が最優先だ。

しかしながら悠長に待つのも、迷宮側へ襲ってくれと言っているようなものだ。



その時、天幕内から物音がした。

それは明らかに突発的で、とても生活音とは言えない…何かが起こったのは明らかだった。



リキは直ぐに立ち上がって天幕へ入り、それにシンとガリーも続いた。

そして3人は目を見張る事になる。

昏睡状態だった筈のディーイーが、何とベッドの上に立ち上がっていたのだ。



「ディーイーさん!」

『…?!』

傍に駆け寄ろうとしたが、異変に気付き咄嗟に足を止めるリキ。


その背中にシンが打つかり、更にシンの背中にガリーが打つかった。

「ぶっ…!?」

「いだっ?!」



そんな背後の二人を他所に、ベッドの周囲をリキは確認する。

するとディーイーに付きっ切りだったティミドは、まるで腰を抜かしたように尻餅をついていた。


「ティミドさん! 何が有った?!」



リキの問いに、ティミドは半ば呆然と呟く。

「そんな…まさか因果の負属性が……?!」



「え…? 因果?」

何の事やら要領を得ずリキは困惑する。


それでも1つだけ確実に分かる事が有る…それはディーイーが只ならぬ状態と言う点だ。

その髪色は白銀から漆黒へと徐々に変化し、瞳の色も真紅から真っ黒に染まっていた。


何より表情や雰囲気が全く異なる。

以前から鷹揚な所は有ったが、それにも増して"全て"を見下す様な眼差し、加えて氷の如き冷めた表情を浮かべているのだ。

その天上の美貌も相まって、見る者をゾッとさせてしまう。


それは正に常人では理解不能な領域ゆえか?

そんな疑問を抱きながら、リキは恐る恐るディーイーへ話しかけた。

「ディーイーさん…大丈夫なのか?」



「……大丈夫か、だと? この有様を見て、お前はそう思うのか?」

ディーイーは尊大な口調で返した。



だが声音はディーイーの物では無く、恰も別人が話しているように思え、ついリキは身構えてしまった。

「な、何者だ?! ディーイーさんの体を乗っ取ったのか?!」



「乗っ取った? 無知とは言え失礼な輩だな…」

そう溢すと、ディーイーだった存在は皆を見渡して続ける。

「私はテュシアー。プリームス…お前達がディーイーと呼ぶ者の、もう一つの人格だ」



これを聞いたティミドは慌てて立ち上がった。

「テュシアー様!!? 暴走アナテマでは無いのですね?!」



「ティミドか……君は私に直接会うのが初めてだったか」

先程と違い優しげな口調のテュシアー。



そんな様子の相手にティミドは胸を撫で下ろした。

「は、はい! プリームス様と肉体を共有する魂の姉妹…そう伺っています」



「フッ…魂の姉妹か。中々に言い得て妙だな」



随分と緊張したティミドだが、それに反して天幕内の空気は柔らかくなる。

これにリキは安堵した。

『やれやれ…脅かすなよ……』


しかし未だに要領を得ない。

魂の姉妹とは一体どう言う事なのか?

ディーイーは大丈夫なのだろうか?

「ちょ、ちょっと良いかい? テュシアー様とやらは…ディーイーさんと同一人物なのか?」



「え〜と…その…」

勝手に説明して良いのかティミドは逡巡する。



「プリームスや他の身内から説明されているのだろう? なら話す事を許すわ」

その口振りは鷹揚だが、先程よりは尊大さが薄れていた。



この現状にリキだけで無く、シンやガリーも目を丸くする。

兎に角、今分かる事は大丈夫そうだと言う事だ。

ならば大人しくティミドの説明を待つべきだろう。



「実はプリームス様…いえ、ディーイー様は、こちらのテュシアー様と肉体を共有されているのです。厳密には違うのですが、分かり易く端的に言うとそうなります」



ティミドの説明に、リキは「そんなの見りゃあ分かる」と突っ込みそうになる。

しかしそこはグッと堪え丁寧に質問した。

「……テュシアー様は…その…味方って事で良いんだよな?」


実に繊細な事なので、正直なところ訊きたくはなかった。

また、そもそも第一印象から、自分達が良く思われていない様にも思えていたのだ。



「……」

怖々(おずおず)とテュシアーの反応を窺うティミド。



するとテュシアーは「フンッ」と不機嫌そうして告げた。

「この有様で、お前達の味方をしろと? ふざけた事を言う」



天幕内の空気が、一瞬で凍り付いてしまうのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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