1506話・四面楚歌の眠りの森
刹那の章IV・月の姫(16)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「差し当たってはディーイーさんとティミドさんの復帰待ちだ…」
このリキの言い様に、ガリーは苛立ちを覚えた。
「リキさん…命を助けて貰った上、まだディーイーを頼るって言うの?」
「烏滸がましいかもしれんが頼らざるを得ない…それが現実だろ。それに俺達は傭兵団・眠りの森だ…団で起こった事態は、団員の皆んなで解決するのが筋ってもんだ」
とリキは憚る事なく言い返した。
「確かにその通りだけど…」
忸怩たる思いと葛藤が、どうしてもガリーに苦悩を強いる。
自分が如何に無力なのか、今回は嫌と言うほど思い知らされた。
『いや、無力ならまだ良い…』
なまじ武力を持つだけに、それなりに当てにされる。
そうして自分はディーイーの足を引っ張ってしまったのだ。
そんなガリーへ、リキは自嘲気味に言った。
「正直、俺は恥ずかしいし申し訳ない気持ちで一杯だ。でもよ、現実は待ってくれないしな…やれる事をするしか無いだろ」
リキの顔は平然としているが、血が滲み出る程に拳を握りしめていた。
それを見てしまったガリーは、悲壮に浸る自分が恥ずかしくなる。
「リキさん…ごめん……」
「別に謝る事でもないさ。兎に角、"今どうする"か考えなきゃな」
そう返したリキは、その場に疲れた様子で座り込んだ。
するとシンが間髪入れずに告げる。
「このまま潜るも危険、しかし地上に戻るのも危険かと」
頷くリキ。
「だな…」
詰まるところ自分達はハメられた訳だ。
恐らく初めからハクメイを狙っていて、その為には迷宮で事故に見せ掛け、傭兵団・眠りの森を全滅させる必要が有った。
また全滅しなかった自分達が地上に戻れば、間違い無く口封じに殺されるだろう。
『このまま潜るしか無いのか…?』
何にしろディーイーの回復が最優先だ。
しかしながら悠長に待つのも、迷宮側へ襲ってくれと言っているようなものだ。
その時、天幕内から物音がした。
それは明らかに突発的で、とても生活音とは言えない…何かが起こったのは明らかだった。
リキは直ぐに立ち上がって天幕へ入り、それにシンとガリーも続いた。
そして3人は目を見張る事になる。
昏睡状態だった筈のディーイーが、何とベッドの上に立ち上がっていたのだ。
「ディーイーさん!」
『…?!』
傍に駆け寄ろうとしたが、異変に気付き咄嗟に足を止めるリキ。
その背中にシンが打つかり、更にシンの背中にガリーが打つかった。
「ぶっ…!?」
「いだっ?!」
そんな背後の二人を他所に、ベッドの周囲をリキは確認する。
するとディーイーに付きっ切りだったティミドは、まるで腰を抜かしたように尻餅をついていた。
「ティミドさん! 何が有った?!」
リキの問いに、ティミドは半ば呆然と呟く。
「そんな…まさか因果の負属性が……?!」
「え…? 因果?」
何の事やら要領を得ずリキは困惑する。
それでも1つだけ確実に分かる事が有る…それはディーイーが只ならぬ状態と言う点だ。
その髪色は白銀から漆黒へと徐々に変化し、瞳の色も真紅から真っ黒に染まっていた。
何より表情や雰囲気が全く異なる。
以前から鷹揚な所は有ったが、それにも増して"全て"を見下す様な眼差し、加えて氷の如き冷めた表情を浮かべているのだ。
その天上の美貌も相まって、見る者をゾッとさせてしまう。
それは正に常人では理解不能な領域ゆえか?
そんな疑問を抱きながら、リキは恐る恐るディーイーへ話しかけた。
「ディーイーさん…大丈夫なのか?」
「……大丈夫か、だと? この有様を見て、お前はそう思うのか?」
ディーイーは尊大な口調で返した。
だが声音はディーイーの物では無く、恰も別人が話しているように思え、ついリキは身構えてしまった。
「な、何者だ?! ディーイーさんの体を乗っ取ったのか?!」
「乗っ取った? 無知とは言え失礼な輩だな…」
そう溢すと、ディーイーだった存在は皆を見渡して続ける。
「私はテュシアー。プリームス…お前達がディーイーと呼ぶ者の、もう一つの人格だ」
これを聞いたティミドは慌てて立ち上がった。
「テュシアー様!!? 暴走では無いのですね?!」
「ティミドか……君は私に直接会うのが初めてだったか」
先程と違い優しげな口調のテュシアー。
そんな様子の相手にティミドは胸を撫で下ろした。
「は、はい! プリームス様と肉体を共有する魂の姉妹…そう伺っています」
「フッ…魂の姉妹か。中々に言い得て妙だな」
随分と緊張したティミドだが、それに反して天幕内の空気は柔らかくなる。
これにリキは安堵した。
『やれやれ…脅かすなよ……』
しかし未だに要領を得ない。
魂の姉妹とは一体どう言う事なのか?
ディーイーは大丈夫なのだろうか?
「ちょ、ちょっと良いかい? テュシアー様とやらは…ディーイーさんと同一人物なのか?」
「え〜と…その…」
勝手に説明して良いのかティミドは逡巡する。
「プリームスや他の身内から説明されているのだろう? なら話す事を許すわ」
その口振りは鷹揚だが、先程よりは尊大さが薄れていた。
この現状にリキだけで無く、シンやガリーも目を丸くする。
兎に角、今分かる事は大丈夫そうだと言う事だ。
ならば大人しくティミドの説明を待つべきだろう。
「実はプリームス様…いえ、ディーイー様は、こちらのテュシアー様と肉体を共有されているのです。厳密には違うのですが、分かり易く端的に言うとそうなります」
ティミドの説明に、リキは「そんなの見りゃあ分かる」と突っ込みそうになる。
しかしそこはグッと堪え丁寧に質問した。
「……テュシアー様は…その…味方って事で良いんだよな?」
実に繊細な事なので、正直なところ訊きたくはなかった。
また、そもそも第一印象から、自分達が良く思われていない様にも思えていたのだ。
「……」
怖々とテュシアーの反応を窺うティミド。
するとテュシアーは「フンッ」と不機嫌そうして告げた。
「この有様で、お前達の味方をしろと? ふざけた事を言う」
天幕内の空気が、一瞬で凍り付いてしまうのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




