161話・帰還からの不測事態
プリームスは魔術抑制の魔道具を身に着けさせられ、法王との謁見に臨む事となった。
勿論、随伴するフィエルテも同じ扱いだ。
そうしてラティオーに神殿内を案内され、謁見の間へ向かう。
案内役はラティオーただ一人で、他には誰も居ない。
余程プリームスを信用しているのか、もしくは取るに足らないと思われているかだ。
『魔導院は魔術が強大な力となる事を知っている。だからこそ、それを封じれば安心してしまうのだろうな』
プリームスがそう思っていると、いつの間にか個室に案内されていた。
「一旦、ここでお待ちいただけますか? 法王陛下にお取次ぎ致しますので」
そう言ってラティオーは個室を出て行ってしまう。
部屋の大きさは、そこそこ広く10m四方で、大きめのソファーが壁沿い全てに設置されている。
ここは謁見用の待合室なのだろう。
プリームスとフィエルテ以外誰も居なくなってしまったかと心配したが、ラティオーと入れ替わりに女給が1人と騎士風の男性が1人入室して来た。
騎士は見張りであり、女給は謁見客の世話役と言った所か。
それから10分程経過したか、ラティオーがプリームス達の元へ戻ってくる。
「法王陛下がお会いになるそです。言うまでも無いでしょうが、礼節は弁える様にお願いいたします。ただ、他国の王にお会いするような、畏まり平伏する必要は有りません」
ラティオーはプリームスに告げると、部屋を出て付いて来るように促した。
待合室を出て、だだっ広い回廊を進む。
途中幾人かの衛兵や騎士とすれ違うが、それ以外は人通りが全く無い。
恐らく、この神殿へ至るまでの警備がしっかりしている為、中に過剰な衛兵を置く必要が無いのだろう。
そうして回廊の突き当たりまで来ると、大きな両開きの扉が目に取れた。
扉の両側には、重武装の騎士が1人づつ立ち、ラティオーを見ると無言で敬礼をする。
「この先が謁見の間です」
そうラティオーがプリームスに告げ、扉へ手を掛けたのであった。
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プリームスが魔導院から帰還すると、時間は既に午後の7時を回っていた。
もっと早くに戻る予定だったのだが、事が上手く進んだ為の弊害と言えよう。
魔術師学園の塔の屋上へ転送したプリームスは、フィエルテを連れて直ぐに理事長室へと向かう。
するとスキエンティアとアグノスが部屋の中で待ち構えていた。
「調査から戻ってみれば、忽然と姿を消されて・・・心配しましたよ」
と抑揚の無い口調で言うスキエンティア。
こう言う場合は本当に怒っているのだ。
悄げてしまったプリームスは、スキエンティアの服の裾を掴み、
「ごめんなさい・・・」
と、まるで怒られた子供のように俯き謝るのであった。
傍で見ていたフィエルテとアグノスは、顔を赤らめて小刻みに震えだしてしまう。
そのプリームスの仕草と言葉が余りにも可愛い過ぎて、身悶えしそうなのだ。
日頃、プリームスは達観したような振る舞いをしている。
実際にあらゆる物を見通し見抜くのだから、その振る舞いには納得がいく。
その上、見た目に反して枯れたような言動。
中身はオッサンもとい年寄りであった。
しかし今のプリームスは見た目通りに可愛らしく、そして無邪気で儚いのだ。
故に一同の母性本能が目覚めて、身悶えに導いてしまう。
それはスキエンティアも例外では無かったようだ。
スキエンティアはプリームスを抱きしめると、
「そんな素直に謝罪されては、怒るに怒れませんね・・・」
諦めたように呟いた。
それからプリームスの額に口付けをする。
「次から遠出する場合は、書き置きでも言伝でも構いませんから、私にお伝え下さい」
額に口付けをらされてプリームスは少し擽ったそうにした。
「うん、スキエンティアの言う通りにするよ」
何とも仲睦まじい2人を見て、アグノスとフィエルテはホッコリしてしまう。
本来アグノスからすれば、愛しき伴侶がスキエンティアに取られて嫉妬する場面である。
しかし気持ちが絆されてしまい、そんな気は起こらなかった。
一方フィエルテは、今日の大半をプリームスと2人きりで過ごせてご満悦である。
しかも帰還後にホッコリさせて貰い大満足だ。
「ところで、どちらに出かけておられたのですか? フィエルテも一緒だったようですが」
とスキエンティアがプリームスへ尋ねる。
プリームスは特に隠す理由も無かったので、素直に答えた。
「東の最果てにある魔導院まで行って来た。3つも魔法を併用したからな、流石に疲れたよ」
これにはアグノスが驚愕する。
リヒトゲーニウスから魔導院は、片道だけで2週間はかかるのだ。
それを散歩にでも出掛けたように「行って来た」などと告げるプリームスは、規格外もいい所である。
驚かない方がおかしい。
だがスキエンティアの様子は違った。
「魔導院ですか。では、プリームス様は初めから分かっていて私に・・・」
そう独り言のように呟いたのだ。
我に返ったアグノスがプリームスの傍までやって来ると、
「プリームス様! 何をなさっていたのかは後ほど伺います。兎に角、先にお伝えしておきたい事があります!」
慌てた様子で言った。
殆どアグノスに詰め寄られたような状態のプリームス。
『この娘がこんなに慌てるとは、私の想定では、大した事は起きないのだが』
心配しての報告なのだろうが、アグノスの慌て振りを見てプリームスは逆に心配になってしまう。
「落ち着きなさい」
そう言ってプリームスはアグノスの胸を撫でた。
急に破廉恥な事をされたアグノスは硬直する。
が、愛しいプリームスに触れられて嬉しかったのか、照れた様子で俯いてしまった。
落ち着いたのを確認するように、プリームスはアグノスを抱き寄せる。
そして耳元へ囁きかけた。
「落ち着いたなら、ゆっくりでいいから話してみなさい」
敏感な耳元へ言葉と共に吐息が伝わり、アグノスはゾクリとする。
そして何とか話し始めた。
「実は・・・バリエンテ、イディオトロピア、ノイーギアの3名が・・・」
「3名がどうしたのだ?」
と先を促すプリームス。
「食当たりで救急搬送されてしまいました・・・」




