1505話・時間逆行 II
「チッ…! 魔法さえ使えれば、こんなに手間取る事も無かったのに」
つい舌打ちしてしまうディーイー。
襲撃してきた巨大蜘蛛群を一掃するのに時間が掛かり過ぎたからだ。
また自分を足止めするのが目的だった…この事実に気付き、ディーイーは少し焦りを感じてしまう。
『きっと野営にも襲撃の手が掛かっている筈』
本命が向こうなら、それなりの戦力が行っているに違いないのだから。
そうして通路を疾走し野営に着くと、ディーイーは愕然とする事になる。
下級魔神の死体が3体、壁際で倒れ込むティミド、何より血みどろになったリキと、その前に屈み込むガリーの姿を見た為だ、
「何が有った…?!」
ディーイーは半ば呆然と問う。
天幕から出てきたシンが言った。
「ディーイー様……その……アドウェナ・アウィスと名乗る女に襲われたのです。それで姫様は…皆を助ける為に……」
皆まで言わずとも直ぐに察したディーイー。
「そうか……」
恐らくだがアドウェナ・アウィスとやらが迷宮の主か、或いは管理者なのだろう。
そして襲撃の目的は”ハクメイ”だったのだ。
そうで無ければ皆殺しにされていた筈である。
『兎に角はリキさんを救うのが先だ!』
ディーイーは倒れ込んだリキの傍へ駆け寄り、目を見張った。
「これは……」
どう見ても致命傷だった。
腹部を貫通した巨大な氷柱は、明らかに内臓を損傷させていたからだ。
それでも”魔法”を使えば何とか死なせずに済む。
問題は”その処置”にディーイー自身の体が持ち堪えられるか否かだ。
故に逡巡してしまう。
今の自分は魔力核の蓋が壊れている状態であり、聖剣の呪いが発動しなくとも何が起こるか分からない。
『いや……迷っている場合では無いな』
ディーイーは頭を振って躊躇いを払拭する。
ここでリキを見捨てれば必ず自分は後悔する…なら、やれる事をやって後悔する方がマシだ。
ディーイーは横たわるリキへ片手を掲げる。
その時、息も絶え絶えなリキが言った。
「……駄目だ…ディーイさん。俺みたいな奴に…あんたみたいな人が……無理をしちゃいけねぇ……」
「何を馬鹿な事を…リキさんは私の仲間だろう。自分を卑下するな」
「分かるんだ……これは致命傷だってな。これを治すなんてよ……神聖魔法でも無理だ。仮に治せるなら……何かを犠牲にしないと…」
「もう黙ってろ! これは私が決めた事だ!」
ディーイーは構う事無く魔法を発動させた。
直後、リキを囲うように地面へ、光り輝く魔法陣が出現する。
ディーイーは古代マギア語で詠唱を始めた。
「全てを記憶し全てを記す時空よ…今我が求めし過去を復元せよ。時間逆行」
リキの体が淡く発光し、周囲を凄まじい魔力の渦が覆う。
『くっ……やはり、この体では少々キツイか』
ディーイーは大量の魔力消失を感じ、目眩と吐き気を覚えた。
魔力放出を制御する筈の蓋…それが壊れた状態では、正確に”必要分の魔力”を放出できない。
その為、ディーイーは意図的に魔力制御をしなければ為らなかった。
それが脳や体に負荷を掛け、目眩や吐き気を引き起こしていたのである。
この行為が許容範囲を越えれば、恐らくディーイーは脳が焼き切れ死に至る事なるだろう。
それでも止める事は出来ない。
この魔法は仕切り直しが出来る程、簡単な魔法でも無く、また魔力消費が少ない魔法では無い。
何よりリキの容態は一刻を争い、時間を置けば確実に命を落とすのだから。
「……!!」
傍で呆然としていたガリーが目を見張った。
何とリキに突き刺さっていた氷柱が、徐々に消失していき、それに連れてリキの傷が塞がり始めたからだ。
そうして2分ほどが経過し、リキの傷は完全に塞がり……否、傷どころか裂けた服さえも元に戻っていた。
これにリキ自身も唖然とする。
「………」
「はは……ははは……何とか上手く行ったか……」
自嘲気味に呟いたディーイーは、その場へ崩れるように倒れ伏したのだった。
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「ディーイー様……」
ベッドで横たわる主を前に、俯き涙が止まらないティミド。
自分が不甲斐ない所為で仲間を負傷させ、更には仲間を攫われてしまい、挙句の果てには主を昏倒させてしまった。
これでは主を守護する永劫の騎士として失格だ。
『私は何のために随行したのか!』
故に自分を責めるしか方法は見当たらなかった。
そんなティミドへ、リキが静かに告げる。
「ティミドさん…そう自分を責めないでくれ。そもそも”あの状況”を誰も予想出来なかったんだ」
「………」
俯いたまま何も反応の無いティミドに、リキは頭を抱えた。
『どうする……立ち直ってもらわねぇと俺達では…』
正直、自分たちの実力ではハクメイの奪還など絶対に無理だ。
ハクメイを攫った相手は恐らく迷宮の主であり、そんな相手と相対するならば、”この迷宮を攻略出来る”実力は必須条件となる。
つまり永劫の騎士であるティミドの存在は戦力として欠かせないのだ。
なのに”これ”では何も始められない。
天幕に誰かが入ってくる気配がした。
シンとガリーである。
「どうした?」
「リキさん…ちょっと話があるんだけど」
ガリーが天幕の外へ来い…と身振りで示した。
「それで話って?」
天幕の外へ出たリキは、小声でガリーとシンに尋ねた。
態々天幕の外へ誘導したのだから、ティミドに聞かせたくない話だと察したからだ。
ガリーが深刻そうな表情で答えた。
「サーディクさんの姿が無いの。あのアドウィエが襲って来た時には、既に姿が無かったぽいし」
「……まさか、襲撃を手引きしたのがサーディクさんだっていうのか?」
シンは小さく首を横に振る。
「飽く迄も可能性です。ひょっとしたらサーディクさんも攫われたかも知れないですし」
「………いや、手引きした可能性が一番高いな」
リキは1つの可能性が頭を過った。
元より”この迷宮攻略”は仕組まれた事だったのでは?…と。
領督府への招待も、今考えれば余りにトントン拍子で都合が良すぎる。
何より南門省随一の傭兵団・黒金の蝶が接触した来た事も変だったのだ。
「どうしますか?」
流石に深刻そうな声音で尋ねるシン。
主を攫われたのだから、その胸中は穏やかではいられないだろう。
悔しいが自分達では不足過ぎる。
「これは四面楚歌って奴かもな。差し当たってはディーイーさんとティミドさんの復帰待ちだ……」
故にリキは苦渋の面持ちで答えたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




