1503話・迷宮の管理者アドウェナ・アウィス
刹那の章IV・月の姫(15)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「元聖女の使徒…いや雷鳴の二つ名が如何様か見せて貰おう」
そう告げたアドウェナは、音も無くリキとガリーへ向けて前進した。
身構えるリキ。
『どうする? 先に攻撃されたら…』
恐らく耐えられない。
あの見えない魔弾とやらの仕組みを解明しないと、このままでは防ぐどころか一方的に嬲り殺しだ。
何より気負った様子のガリーが問題である。
下手をすれば死ぬ気でアドウェナへ特攻するかも知れない。
後方で不気味な断末魔が、立て続けに3つ聞こえた。
ティミドが魔神を倒したのだろう。
そんな時、前進してくるアドウェナが右手の指をパチンッと鳴らして言った。
「フフフッ…まだまだ御代わりは有るわよ」
今度はティミドの前後に2体ずつ…計4体の魔神が召喚された。
「チッ…!!」
これには流石のティミドも舌打ちを零してしまう。
魔神自体は然して問題は無い。
しかし放置してアドウェナを攻撃出来る程、魔神が弱い訳でも無いのだ。
この絶妙に手間を取られる均衡が、相手の戦術なのは明白だった。
「…!」
ここで”ある事”に気付く。
こんな面倒な戦術を使うのは、使う側も面倒な筈である。
魔神を召喚するなどと言う芸当、そもそも人間ならば不可能であり、人外であっても相当な労力を費やすと考えられた。
『だから私の実力を見ながら、魔神の召喚数を調整してる?』
つまり限界は存在し、きっと召喚の打ち止めも有るに違いない。
「ガリーさん! リキさん! もう暫く耐えて下さい!」
ティミドの言葉に、リキとガリーは即座に返答した。
「任せとけ!!」
「うん!」
「もう一度言う…邪魔をしなければ、お前達の命は奪わぬ。命が欲しければ道を空けよ」
鷹揚な言い様のアドウェナに、リキとガリーは拒絶するように返した。
「ここは通さねぇ!」
「さっきも言ったでしょ。通りたければ俺を倒せって!」
「そう…残念だわ」
などと落胆した様子を見せるアドウェナ。
これにリキは不可解さを抱いた。
『こいつは何か奪う気で来た筈だろ?! なんで俺達の心配?をしてるんだ?!』
直後、凄まじい速度で突進するガリー。
虚を突いてから間断なく攻撃を続けるしか無い…そう考えたからだ。
「…!!」
対してアドウェナは本当に意表を突かれたのか、驚いた様子で咄嗟に守勢に回った。
高速の突進から繰り出されたガリーの突き。
それは後手に回ったアドウェナの顔面を捉えた…かに見えた。
だが不可視の何かに阻まれ、重い金属音と共にガリーの拳が跳ね返される。
「フフッ…女の顔面を狙うとは酷い輩ね」
と告げるアドウェナだが、反撃の素振りが無い。
『やっぱり…基本的には魔術師なんだわ』
反応の緩慢さで、相手の性質を即座にガリーは看破する。
そしてそのまま連撃を繰り出し、アドウェナを防戦一方へ追い込んだ。
『おおおっ!』
リキは目を見張る。
雷鳴の二つ名は伊達では無い…そう思わずには居られなかった。
またガリーが看破した様に、アドウェナが近接戦闘には長けていないと察する。
『行ける! 2人なら足止めが可能だ!』
上手く行けば制圧も可能かも知れない。
そうしてリキもアドウェナへ踊り掛かる。
その刹那、リキはアドウェナの頭上に何かが煌めくのを見た。
『…! 魔法か?!』
相手は既に魔法障壁らしき物で、ガリーの攻撃を防ぎ続けているのだ。
ここで更に防御的な魔法は考えられない。
なら他に考えられるのは"攻撃魔法"しか無かった。
「ぐっ??!」
ガリーは背後から脇腹に衝撃を受け、真横に吹き飛ばされた事を自覚した。
『なっ!? まさかリキさんが私を攻撃した?!』
何とか受け身を取り、即座にアドウェナを目視する。
その時、ガリーは信じられない光景を目にした。
「あぁぁ……リ、リキさん……」
アドウェナの正面に立つリキが、巨大な氷柱に腹部を貫かれていたのだ。
「私を只の魔術師だと侮ったようね。本当に残念だわ」
と倒れ込むガリーを尻目に、静かに呟くアドウェナ。
「そんな……」
ガリーは後悔した。
アドウェナは初めから手を抜いていたのだろう。
それを見抜けずに浅慮な行動の末、自分は仲間を犠牲にしたのだ。
そんな自責の念が、ガリーから立つ気力さえ奪ってしまう。
「…!!」
力無く膝を付いたガリーを視界の隅に捉え、続け様に致命傷を負ったリキを目の当たりにしたティミド。
その時、一度に4体の魔神を相手取った動きに隙が生じる。
それは僅かな時間…瞬き程の一瞬と言っても良い"間"が、魔神にとって好機と化した。
加えてギリギリで魔神の攻撃を躱していた事も仇となる。
そう…反撃に転じ易いよう、全ての身のこなしが瀬戸際だった。
正に超絶の域を目前とした者が、自信を抱き効率を重視した果報と言えた。
「ぐはっ……」
魔神の強靭な腕が、ティミドを体ごと薙ぎ払うように吹き飛ばした。
その膂力は凄まじく数mをも宙を舞い、ティミドは壁に激突したのだった。
虚な意識の中でティミドは主へ謝罪する。
『申し訳ありません…私が…不甲斐ないばかりに……』
魔神の1体が徐にティミドへ近付き、その強靭な右腕を振り上げた。
『あぁ…こんな簡単に私は死ぬのか……』
ティミドは今の状況が意外に思えた。
あの東方での激戦を生き抜いた自分が、高々下級の魔神に殺されるなど予想出来るだろうか?
出来る訳が無い。
仮に死ぬとするならば、もっと強大な敵と戦って死にたかった。
贅沢を言えば主の盾となって死ぬ…それこそ本懐となった筈だ。
されど現実は残酷であり、『無念』と言う言葉にティミドの想いが集束された。
刹那、眩い何かがティミドの目の前を掠め、朦朧としていた意識が覚醒したのだった。
「…?!」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




