1502話・背水のリキとガリー(2)
刹那の章IV・月の姫(14)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
いつの間にか魔神2体を屠っていたティミド。
その姿は全く負傷しておらず、ガリーとリキを驚かせた。
『おいおい…永劫の騎士って、こんなにも強いのかよ?!』
流石は一騎当千と呼ばれる…そうリキは思わざるを得なかった。
片やガリーは背水の状況から一転し、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「あぁ……ティミドさん、頼りにしてますよ」
これにティミドは苦笑いを浮かべる。
『えぇぇ?! そこまで切迫してた?!』
この程度の状況など、以前に主と経験した東方での戦いに比べ、然して困難とは言えない。
そんな緩んだ空気を、魔導士風の女が一瞬で硬化させる。
「魔神が今ので終わりだと思っているか?」
その直後、背後に3体の魔神が前触れも無く現れ、ティミドは意表を突かれた状態になる。
それでも即時迎撃態勢を整え、一切の隙を見せなかった。
これは主の傍に在って得た経験が、ティミドを大きく成長させていた証と言える。
「ティミドさん!!」
慌てて駆け寄ろうとするガリーの肩を、リキが掴んで静止させた。
「待て! 俺達は女の方を止めなきゃならん!」
「くっ…!」
何とか思い留まったガリー。
リキの言う通りだったからだ。
仮に自分がティミドに助力したところで、然して役に立てない。
それよりも前方の女を放置しては、完全な挟撃状態になり、畳みかけられれば一溜りも無いだろう。
ならば何とかして現状を維持し、ディーイーが駆けつけるまで時間を稼ぐべきなのだ。
一方、ティミドはと言うと至極冷静な状態だった。
『魔神は下位…脅威では無いけど、何度も召喚されては"あの女"に対処出来ないわね』
かと言って魔神を2人に任せるのは、それこそ荷が重い。
問題は魔神の召喚に限りが有るのかどうかだ。
差し当たっては現れた3体を処理し、相手の出方を見るしかない。
いつでも防御可能な態勢を取ったリキは、魔導士風の女へ尋ねた。
「お前…一体何物だ?」
迷宮側の存在なのは既に分かっている…しかしこれは会話に因る時間稼ぎが狙いだった。
「何者? フフッ…もう分かっているのだろう?」
暗がりで明確には見えないが、女が不気味な笑みを浮かべているのをリキは察した。
『チッ! 遊んでいるのか? 舐めやがって!』
だが攻撃せずに会話する意思を見せたなら、こちらとしては好都合だ。
「あぁ…先の広間で大量の大トカゲに襲われた。お前がやったんだろ?」
「そうよ、私が襲わせたわ。でもあんな簡単に処理されるなんて正直驚きだったわね」
「ハハッ! それが分かっててまた襲ってきたのか? こっちには団長が居るんだ、お前なんか簡単にボコッちまうぜ」
それを聞いた女は、少し間を置いてから返した。
「……眠りの森の団長か。あの者は確かに不確定要素が多すぎる」
『こいつは……』
今の反応でディーイーが狙いではないと気付くリキ。
なら襲ってきた意図と狙いは?
兎に角は時間を稼ぎつつ、相手の情報を引き出すのが得策だろう。
「そう言やぁ…名前を聞いていなかったな」
「名前…? フフフッ……私の名はアドウェナ・アウィス。こうして名を聞かれるなど何十年ぶりだろうか……フッ」
と自嘲気味に魔導士風の女は答える。
「アドウェナ・アウィス…?」
その名を聞いてもリキはパッとしない。
しかしガリーは違った。
「え………アドウェナ・アウィス?!」
そう声を漏らして固まってしまった。
するとアドウェナは少しだけ歩み進めると、ニヤリと笑みを2人に見せて告げた。
「フフッ…元聖女の使徒だったなら、私の名を知っていても可笑しくは無いか」
直ぐにリキはガリーへ問うた。
「…? どう言う事だ?」
「アドウェナ・アウィスは魔教副教主の名よ…」
「魔教って……あの何十年も前に滅びた邪道組織の事か?!」
リキも知識では知っていた。
されど北方では何故か語ってはいけない雰囲気があり、その所為で忘れられた歴史となっていたのだった。
「そうよ…その魔教の副教主が目の前に居る。俺達では多分…勝てない……」
そう答えたガリーの表情は、先程にも増して切迫していた。
聖女の使徒とは、言わば北方で最強の武装集団と言っても良い。
その組織に属していたガリーが此処まで警戒する…この現実にリキーは、漸く差し迫った状況だと気付いた。
『不味いな…彼女の言う通りなら、ティミドさんでも危ないかも知れん』
そうするとアドウェナは、軽く片手を払うような仕草をして言った。
「お前達の命には興味が無い。邪魔をせぬなら殺しはせぬ、道を開けよ」
『まさか?!』
目を見開くガリー。
ここに居ない面子と言えばハクメイ、シン、サーディク、それにディーイーだ。
この中で既にディーイーは足止めされている。
そしてサーディクは黒金の蝶の副団長で、迷宮に馴染み深い彼女が今更狙われるのは変だ。
残るはハクメイとシンではあるが、そもそも後者は侍女であり狙われる理由が無い。
『元からハクメイ姫を狙っていた? それとも狙う理由が出来た?!』
どちらにしろ指を咥えて見過ごす訳にはいかない。
仲間が攫われたり殺されでもしたら、きっとディーイーが悲しむに違いないのだから。
故にガリーは絶対に道を開けないと意を決した。
「嫌よ! 通りたかった俺達を倒す事ね!」
「ほほう…面白い。元聖女の使徒…いや雷鳴の二つ名が如何様か見せて貰おう」
そう告げたアドウェナは、微笑みを浮かべながら音も無く歩を進めたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




