1498話・不確定の襲撃者
刹那の章IV・月の姫(13)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「あ……お邪魔でしたか?」
いつの間にか広間まで来ていたシンが言った。
何がお邪魔なのかと言うと、ディーイーとガリーが2人きりで抱き付いていたからである。
「シンさんか…」
ホッと胸を撫で下ろすガリー。
「いや、別に邪魔では無いよ。シンさんこそ、こんな時間にどうしたの?」
どう見ても逢引きの最中であり、それを全く憚らないディーイー。
これにシンは苦笑いを禁じ得ない。
「そうですか…実は込み入った話が有りまして」
ディーイーは「お前もか!」と言いそうになるが、グッと堪えて尋ねた。
「え〜と、ガリーには聞かれたくない?」
込み入った相談なら、第三者が居るのは当然に不味い筈である。
「いえ、問題ありません。只、火炎島に関係する事ですので、ガリーさんには面倒な話になるかもしれません」
『うはっ! 巻き込む気満々みたいね…』
一聴して情報共有なように聞こえるが、それ即ち他者を頼る事が見え透いていた。
冷静沈着なだけで無く、図々しいまでの胆力に感心するばかりだ。
「そう? じゃあ話を伺おうかしら」
少し居ずらい様子のガリーを他所に、シンは落ち着いた口調で話し始める。
「神獣を暴走させようとした輩は、ディーイー様の活躍で退けられました。ですが、これを手引きしていた内通者が問題だったのです」
「え〜と…表向きでは筆頭封臣家門のジア・イーリュウが主犯だったのよね? それとは別にって事かな?」
「はい。実はハクメイ様の母君… ベイパン様が内通者だと断定されました。しかもジア・イーリュウを殺害後、行方を眩ませています」
「え……」
半ば呆気に取られるディーイー。
居合わせたガリーも居た堪れず、「聞こえない!」と言わんばかりに手で両耳を塞ぐ。
「まだハクメイ様には伝えていませんが、いずれ知れる事になるなるでしょう。ホウジーレン閣下から"出来る範囲"で行方を探るよう仰せつかいましたから」
「な、成程……」
聞きたい事を先回りして言われ、取り敢えずは納得するしかないディーイー。
「因みにですが、亀国か鳳国かの工作員が関係しているかと。私の推測では亀国の可能性が高いかと思いますが…」
『また亀国か…』
ディーイーは少し辟易して来た。
それだけ亀国の蠢動が活発な証拠であり、このまま放置しては大事になり兼ねないだろう。
何より仲間のシンやハクメイの因果と繋がっている。
彼女達を苦しめる結果になる位なら、面倒でも自分が出張って対処せざるを得ない。
「ディーイー様…?」
急に黙ったディーイーに、シンが顔色を変えずに尋ねた。
「あ…いや、何でも無いよ。つまり亀国の動向に注意した方が良いって事よね」
「左様です。また"私が預かる件"に於いては、今すぐに私達への影響は無い筈かと。ですので取り急ぎ何かをする必要も御座いません」
『つまり一応の報告って事か』
「分かったわ、気に留めておくよ」
仮に亀国が裏で糸を引いていたとしても、その目的が何なのかは、流石のディーイーでも今は分からなかった。
ただ確実に言えるのは、亀国が龍国を利用しようとしている事だ。
『それとなく探りを入れたいが…』
傍には自由に動かせる永劫の騎士が居らず、結局は自分で動くしか術は無い。
着の身着の儘で出て来た所為で、こう言った場合に弊害が出てしまう。
大雑把で計画性の無い自分に呆れるばかりだ。
「ねぇ…ちょっと気になったんだけど、」
ガリーが不安そうな面持ちで言った。
「ん? どうしたの?」
「その…俺は龍国と亀国の暗部に狙われてる筈で、そこに火炎島で暴れたディーイーが居る訳でしょ。それって纏めて処理する好機と捉えるんじゃないかな?」
「…! まさか…ハクメイの母親が出奔したのは、逃げる訳じゃ無くて…」
「うん…俺達の動向を探って、処理する機会を窺ってる可能性が有るよね?」
全くもってガリーの言う通りであり、そこに気付かなかった自分が恥ずかしくなった。
『うぅ…私とした事が…』
「不味いわね…迷宮だけじゃ無く、刺客にも意識を割かないといけないか」
迷宮攻略自体は問題ない。
しかし仲間を守りながらとなると、その難度は何倍にも跳ね上がるに違い無いのだ。
「どうする? 一旦地上に戻って準備し直すのも手だよ?」
「う〜ん……」
ガリーの提案にディーイーは逡巡した。
仲間の安全を考えるならば、当然に戻るべきだろう。
されど今回を躱しても、次にいつ襲ってくるかが分からない以上、同じ不安が常に付き纏う事になる。
そうなる位なら此処で迎撃し、1人2人程度を捕縛して情報を引き出すのも1つの手だ。
上手く行けば今後の襲撃も抑制出来るかも知れないのだから。
「いや…このまま迷宮攻略を続けよう。でも襲撃者を最大限に警戒するのが前提でね」
ディーイーの判断にガリーは頷いた。
「そう団長のディーイーが言うなら、それに俺は従うよ」
特に異を唱えずシンも頷く。
「分かりました。では他の方々にも私から説明しておきましょう」
「うん、じゃあシンさんに任せておくね」
「はい…」
襲撃の可能性を予測出来なかっただけに、シンの胸中は実に複雑な状態だった。
『元暗部と言うのに…』
その時、突如耳障りな金切り音が聞こえた。
ディーイーが張り巡らせた結界に、何者かが侵入した知らせであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




