1496話・更にガリーの吐露
刹那の章IV・月の姫(13)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
リキの告解にも似た吐露を聞かされ、ディーイーは妙な疲れを覚えていた。
「はぁ………どうしてこうなった…」
何でも首を突っ込んでお節介を焼く質…そんな自分が悪いのは自覚している。
それでも此処まで事態がややこしくなるのは、とても自分の所為だとは思えない。
『いや…違うか。ややこしい状況に飛び込んだゆえの今か…』
などと自己完結してしまう、正にいつもの事であった。
「…!」
いつの間にか通路が終わり、”例の”大空間に出ていた。
『ほほう…やはり迷宮の機構が働いているのか』
百体を超える大トカゲの死骸が有った筈。
否…自分が殺したのだから当然目の前に有って然り。
しかし実際は跡形も無く、綺麗に死骸が消え去っていたのだった。
これは詰まり迷宮の管理機構が働いた所為だ。
迷宮の管理機構とは内部施設の破損などを、元の形に修復するのが主な役目となる。
これは経年劣化した通路や広間の内壁、或いは傭兵などに破壊された罠の復元も含まれるのだ。
更には迷宮内で生息する魔獣や傭兵等の死体も、この管理機構に因って綺麗に片付けられる。
これに使用される手段はゴーレムなどが一般的だが、稀に生体機構を駆使したスライムに因る浄化も確認されていた。
そして今、ディーイーの眼前に在る大広間では、ゴーレムらしき活動の痕跡は見当たらない。
恐らくスライムに因る死骸の浄化が、ディーイー等が野営をしている間に行われたのだろう。
「時間にして2、3時間…いや、4時間くらいか。中々に迅速な管理機構だな」
と呟きながらディーイーは1人で感心してしまう。
何せ100体を超える大トカゲの死骸なのだ。
あんな物を数時間で全て片付けるなど、普通なら絶対に不可能である。
人力だったなら数日は要していたに違い無い。
「何が迅速なの?」
背後から声が聞こえ、ディーイーは苦笑いしながら振り返った。
「おいおい…気配を消して近付くのはやめてよね」
「フフッ…気付いていた癖に」
と微笑みながら返した声の主は、仲間のガリーであった。
「何? ガリーも眠れないの?」
「うん…久々の迷宮だからかな。何だか気が昂っちゃってね」
「そっか…なら私も一緒だよ」
「そう言えばリキさんは? 起きてた筈だけど…」
ディーイーの問いに、ガリーは苦笑しながら答えた。
「凄い爆睡してたよ。図太い神経と言うか、流石はリキさんだよね」
「ふ〜む…」
『私に打ち明けて気持ちが楽になったのかね。こっちは前途多難でイライラしてるのに…』
仲間の精神状態が安定しているのは良い事だ。
しかし団長である自分の気苦労が増えるのは、ディーイーとしても納得のいかない処である。
「何だか機嫌が悪そうね?」
心配そうに問うたガリーは、ソッとディーイーの右手を握った。
その手は武人らしからぬ柔らかさがあり、やはり女性なのだとディーイーは自覚させられる。
また同時に優しい感触と人肌の温かみが、苛立っていた気持ちを柔和に導くのだった。
「大丈夫、ガリーと同じで寝付けなくてイライラしてただけよ」
「なら良いのだけど…」
「ガリーこそ何だかソワソワしてない? 何か有ったの?」
「あ……え〜と、流石にディーイーは鋭いね」
「フフッ…まぁ寝食を共にした仲だし、些細な変化で漠然だけど分かっちゃうよ。で、何か話があるんでしょ?」
因みに寝食の"寝"は体の関係も含む。
そこまで行くと本当に細かな変化でも、敏感に察してしまうものなのだ。
「実はね…カリド王国から貨物旅船に乗った時、海賊団に襲われたでしょ。あれは確実に俺を狙った襲撃なの…」
「あ〜〜だろうね。そもそも無名な私が狙われる理由が無いし、多分そうだと思ってたよ。それでガリーを狙ったのは"元使徒"だからかな?」
ガリーは申し訳無さそうに頷いた。
「うん…きっと龍王派の刺客だと思う。俺は反体勢派で自由に動ける数少ない1人だから…」
「ふむ…でもガリー1人に海賊船団って規模が大き過ぎない?」
「それは…俺もそう思う。でも龍王派の謀軍ぽい奴が居たから、十中八九は間違いないよ」
「謀軍?」
聞き慣れない言葉にディーイーは首を傾げた。
「え〜と…王直下の近衛軍が禁軍でしょ。それで対外的な活動をしてるのが謀軍なの、これは本来聖女が統括している軍ね」
「ほほぅ…そんな名称なのか。謀軍とは言い得て妙だな」
対外的…つまり工作員などの暗部を含む組織なのだろう。
表立った侵略が不可能な北方四国だけに、そう言った名称になるのも必然と思えた。
「それで…多分なんだけど……」
と言い難そうにするガリー。
「ん…何? 私とガリーの仲で、今更話し難い事なんて無いでしょ?」
「うん…その、俺の足取りは把握されてる筈なんだ。きっと目立たない場所で仕掛けてくると思うの」
つまり刺客が来ると言っているのだろう。
「ガリーを目障りに考えるなら、迷宮の中なんて格好の場所よね」
揶揄うようなディーイーの言い様に、ガリーは冗談半分で憤慨して見せた。
「もうっ!! 本当に危険なんだってば! 相手は暗部だし絶対に搦手で来るよ」
「はいはい、そんなの分かってるわよ。だからこうして警報結界を張って、不意打ちを未然に防ごうとしてるんでしょ」
「でも……」
妙に引き下がらないガリー。
『んん? 私の実力を知っているのに、ここまで心配するなんて…』
「因みになんだけど、謀軍と言うか…その追手は暗部だけなの?」
「実は…」
ガリーが言い淀みながらも言及した内容は、ディーイーが驚かされる物だった。
何と龍国の暗部は、亀国の暗部と繋がっていると言うのだ。
「えぇぇ…何それ?! 敵国同士が繋がってるって…」
「う〜ん…表向きでは北方四国は敵国同士じゃないんだよ。そもそも中央麟国の傘下で、帝に代わって四方を治めてるから…要するに大総督みたいな感じかな」
そん事を言われても、ディーイーからすれば「だから何だ?」となってしまう。
結局のところ色んな利害が複雑に絡み合って、今の状況に至るのは分かる。
しかし"その面倒事"の渦中に自分が居るのは、正直納得がいかない。
加えてリキと同じく、裏で亀国が糸を引いている。
こんな偶然が有るだろうか?
『何か変だ…偶然にしては出来すぎだわ』
黙り込んだディーイーを前に、ガリーの不安ばかりが募った。
その結果、しゅん…と落ち込んでしまう。
「ごめんね…面倒な事に巻き込んじゃって」
「え? あ…いや、大丈夫、大丈夫。ちょっと考え事をしてたの。取り敢えずは情報を整理して、今後の方針を決めておこう」
などと慌ててガリーの機嫌を取るディーイーであった。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。
続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。
また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。
なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。
〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




