1495話・リキの吐露(2)
刹那の章IV・月の姫(13)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「取り敢えず詳しく話を聞かせてくれる?」
そうディーイーに告げられ、リキは後ろめたさを覚えながらも素直に頷いた。
「俺の故郷は東陽省の更に辺境でな、そこは貧しくて毎日食うにも困る村だった。だからそれを俺は何とかしたくて、冒険者や傭兵を始めたんだ」
彼曰く、傭兵としての実績を高め、大きな成功を収める事で村を救おうとしたらしい。
そうしてコツコツと下積みを重ね、10年を掛けて辺境でも著名な傭兵となった。
しかし村を救うまでの富や地位は得られず、潤ったのは己自身の懐と生活だけだった。
そんな折にリキの名声を聞き付け、東陽省の都督が取引を持ち掛けてくる。
それは絶対的な秘匿を前提とし、他者に知られれば故郷を滅ぼすとまで言われた。
だが秘匿し続け取引を成功させれば、故郷の村をリキの小領地として与えると提示したのだ。
「成程……それにリキさんは飛び付いた訳だね?」
ディーイーの問いに、リキは自嘲気味に返した。
「そうだ…もう俺には選べる選択肢が無かった。当時の俺は自分の能力に限界を感じていたからな」
10年をも費やして得た物は、名声と個人が潤う程度の富だけ。
それを頭打ちと感じてしまえば、柔軟な思考が出来なくなるのも仕方が無いかも知れない。
つまり傭兵稼業一辺倒だっただけに、他への視野が開けなかったのだ。
それを考慮すると、ディーイーは他人事ながら何とも切ない気持ちになった。
『士官する方法も有っただろうに…』
叩き上げでも名声が有れば、武官でも相応の地位には就ける。
何より武人としてのリキの実力は相当に高く、それこそ辺境の行政からすれば欲しい手駒に違いないのだから。
『ん…? まてよ……』
ここで1つ疑問が脳裏に浮かぶ。
たかだか1人の傭兵が…それも迷宮を未だに踏破出来ない傭兵が、迷宮の氾濫を起こせるなど到底思えなかった。
「え~と……リキさんが受けた依頼って、この迷宮の迷宮の氾濫でしょ? 踏破じゃなくて」
「ああ…そうだ」
「そんな事が意図的に可能なの?」
リキは少し逡巡した様子を見せた後、溜息をつき答えた。
「はぁ……実はな、東陽省の都督は北の亀国と通じている。その亀国から都督伝えに、俺は迷宮核を暴走させる楔を与えられた。それを迷宮核に打ち込めば制御を失って迷宮の氾濫を引き起こす…らしい」
「らしい…って、そんな曖昧な……」
と思いつつもディーイーは納得もした。
『いや、曖昧だからこそ傭兵に任せたのか』
迷宮の暴走を引き起こす事は、恐らく”絶対”では無い筈。
故に失敗を前提として”失っても良い手駒”である、優秀で著名な傭兵を利用したと考えられた。
『何とも信義に欠ける遣り方だな』
「確かに曖昧にも感じるだろう。だがな実際に小規模な迷宮で実験はされている。それを俺も見たことがあるしな……」
と後ろめたそうにリキは言った。
「そうか……」
『成程な…つまり東陽省と亀国の工作員はズブズブで、それにリキさんも噛んでた訳か』
謎の技術に因る迷宮の暴走…もとい迷宮の氾濫を起こす為の試行や予習は、絶対に必要になる筈だ。
幾らリキが優秀な傭兵だと言っても、ぶつけ本番で楔とやらを打ち込むのは無理があるからだ。
「ここまで聞いて俺を軽蔑しないのか?」
不安そうに尋ねるリキ。
これにディーイーは呆れ顔で答えた。
「な~にを今更言ってるのよ。以前の事をどうのこうの言っても詮無いし、そもそも私は今のリキさんを信用してるの。それにリキさんも私を信用して打ち明けたのでしょ?」
「お、おう……初めは只利用するだけだった。でもな、このままじゃ駄目だと思ったんだ。あんたは止ん事無い身分の人だし…何より強さを目の当たりにして決心した」
「決心…?」
何だか嫌な予感がし、ディーイーは怪訝そうに聞き返した。
「きっとディーイーさんなら、全て解決してしまうんじゃ無いかってよ…。だから俺は秘密を話したんだ」
「え、え~っと……要するに?」
「俺は故郷の村を豊かにしたい。だがな、それで南門省の民を犠牲にしたくも無いんだ。この試練の迷宮を閉じて、尚且つ俺の故郷を救う手助けをして欲しい!」
そう答えたリキは、その場に土下座したのだった。
「え…えぇぇぇ?!」
つい驚きで声を張り上げてしまうディーイー。
『ちょ…それって…』
この迷宮を閉じた後、リキが抱える東陽省との因果を、ディーイーが断ち切る手伝いをする事を指していた。
「つ、都合が良いって事は重々承知している! それでも頼れるのはディーイーさんしか居ないんだ!」
「う~ん……」
『たぶん上手く行こうが行くまいが、リキさんは東陽省の都督に始末される。ひょっとすれば故郷の村も…』
それを潜在的にリキは察していたのかも知れない。
色好い相槌をしないディーイーを、そっとリキは窺った。
「やっぱり…迷惑だよな?」
「いや…良く話してくれた。大惨事にならなくて済んだしね」
「大惨事…?」
「仮に秘密にされたまま最下層まで行って、リキさんは何をするつもりだった? きっと東陽省都督の依頼を遂行する為に、迷宮核に楔とやらを打ち込んだわよね?」
「う、うむ……そうなったら制御を失った魔獣が暴れ出して、確実に迷宮の氾濫が引き起ってただろうな…」
「だよね。その事態になったら流石の私でも収拾をつけれないわ」
リキは顔を上げた。
「じゃ、じゃぁ俺を助けてくれるのか?!」
「フッ…さっき今更って言ったでしょ。それに今ここで私が拒絶したら、リキさんは単独で動くしか方法が無くなる。そして残った選択肢は迷宮が閉じるのを見過ごすか、或いは邪魔をするか……そうなればリキさんはどうなる?」
「前者なら俺は……東陽省にも故郷にも戻れない。後者なら俺はディーイーさんに始末されるだろうな」
「そうね。でも私はどちらも嫌だわ。だから迷宮を閉じて、そしてリキさんも助けてあげるよ。面倒臭いけどね……」
そう告げたディーイーは疲れた様子で溜息をついた。
「ありがとう…ディーイーさん……この恩は絶対に忘れねぇ」
「はいはい、分かったわよ」
ディーイーは立ち上がって椅子を仕舞うと、何故かリキから踵を返した。
「え? ど、どうしたんだ?」
「ん~~今の話を聞かされて余計に眠れなくなった。ちょっと先まで散歩してくるよ」
「そ、そうか…」
リキは安堵した所為か、その場に俯せで崩れてしまった。
『あぁぁ……良かった。これで誰も傷付かなくて済む』
それでも”その負債”をディーイーが肩代わりする事となる。
故に安堵と同等以上に、良心の呵責がリキに重く伸し掛かるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




