1494話・リキの吐露
刹那の章IV・月の姫(12)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
中層に入って直ぐの通路で、規格外の野営を張ったディーイー達。
そのまま特に見張も立てずに夜を過ごした。
これはディーイーが通路全体に仕込んだ結界呪法…警報が有ったからだ。
"本来"のディーイーならば、それさえも必要無い。
しかしながら常時展開していた魔法障壁も無く、更に仲間の安全を担保するとなると話は違ってくる。
故に念には念を入れたのだった。
何故か夜中に目を覚ましてしまったディーイーは、モゾモゾと1人天幕を抜け出した。
「うぅぅ……」
『まだ深夜の2時か…』
睡眠の質が良過ぎたのか?
或いは気が立って眠りが浅かったのか?
どちらにしろ少し損した気分になる。
因みにハクメイは傍に寝ていたが、爆睡している所為か全く起きる気配が無かった。
ある意味で羨ましいばかりである。
ふと灯りに気付くディーイー。
天幕の外で寝ている筈のリキが、起きて灯りの前に座っていた。
「あら…リキさん、どうしたの?」
薄い寝巻き姿のディーイーに、リキは目のやり場に困った様子で返す。
「いや…以前の事を思い出してよ、少し気が立って眠れなくなっちまった。それよか何か羽織ってくれねぇか?」
「え? あぁ〜〜ごめんごめん」
直ぐに就農魔導具から薄い毛布を取り出し、ディーイーは体を隠す様に羽織った。
「起きるには随分と早過ぎるだろ。どうしたんだ?」
「ん〜〜目が覚めちゃってね、久々の迷宮で気が昂ってたのかもね」
そう答えたディーイーは、地面に置かれたランタンの前に屈み込んだ。
その炎はガラス越しに柔らかい灯りを発し、不思議と気分を落ち着かせた。
「火ってのは危ねぇのに、何故だか見惚れちまう。まぁこうして見る分じゃあ安全だがな」
「そうだね…」
「ディーイーさん…相談事があるんだが……」
リキに改まった様子で言われ、ディーイーは苦笑いを浮かべてしまう。
「急にどうしたの? 相談だなんて珍しいわね」
「いや、その…あんまり隠し事はしたくないんだ。それにディーイーさんの実力が有れば、きっと迷宮を閉じるだろう。なら、その後の事を考えるのが当然ってもんだ」
「成程…分かったわ」
ディーイーは収納魔導具から小さな椅子を取り出し、ちょこんと座った。
話が長くなりそうなので、取り敢えずは楽な態勢を…と考えたのである。
「ハハハッ! 本当に収納魔導具は便利だよな。ディーイーさんが居なかったら、今頃は大層な荷物を抱えて上層で野営してただろうよ」
「これに慣れ過ぎるのも良く無いけどね。で、相談事って何?」
「お、おぅ…気付いてたかも知れんが、俺が請け負ってる依頼主は南門省の都督じゃ無いんだ」
「うん…多分そうだと思ってた」
然も大した事の無いように返すディーイー。
「え……気付いてて俺を問い詰めなかったのか? それにいつから気付いてたんだ?!」
「皆で最初に都督と会った時かな。あの時の都督は、リキさんに大した反応を見せなかったでしょ。そもそも依頼主だったら私を含めた”傭兵団・眠りの森”と会う前に、報告なりでリキさんと先に会ってたのでは?」
南門省に着いて都督に会うまで、リキとは別行動をしていない。
ならば都督が依頼主でない可能性は、ディーイーからすれば簡単に推測できたのだった。
「な、成程……流石は一国の王だな。洞察力が凄い…と言うか目聡いよ」
などと言ったリキは、参ったとばかりに苦笑した。
「フフッ…それで依頼主は誰なの? まさか龍王とかじゃないよね?」
「違う違う!! 依頼主は東の外様…東陽省の都督だ」
「依頼内容は?」
少しばかり辛辣な声音で問われ、リキは自分が竦み上がるのを自覚する。
ディーイーは海賊船団を容易に沈める魔術師であり、武力も剣聖を超えるかも知れないのだ…そんな相手を怒らせれば只で済むはずが無い。
『いや…違う』
自分がディーイーに抱く思いは、恐怖でなく”畏敬”だ。
これ程に超絶な人物に尊敬の念が堪えず、故に嫌われたくない、また誠実に対面したいと思ってしまうのだ。
『嘘は絶対に付きたくない…』
だからこそ真摯に答えようと意を決した。
「東陽省の都督は、南門省の併合を狙っている。その為に迷宮の氾濫を画策していてな、俺はその先駆けの工作員として送られたんだ」
「え…? 迷宮の氾濫? それってまさか…」
その言葉面からディーイーは大体の推測は付いたが、それが正解して欲しいとは思えなかった。
仮に推測が正しければ、同じ国民同士での殺し合いを意味するからだ。
「うむ……迷宮の氾濫は古代北方語でホンスウィと言われててな、魔獣が溢れ出て都市を滅ぼす事を指す」
「やっぱりか……」
「軽蔑したか?」とリキは怖々と尋ねた。
これへ如何に答えるべきか逡巡するディーイー。
「……」
それぞれ人には人生が有り、また矜持が有る。
更に相容れぬ価値観や、譲れぬ使命を持ち合わせているかも知れない。
それら事情を無視して、簡単に言い捨てる訳にも行かないのだ。
何より相手は協力すると約束した”仲間”…今更になって断罪する事など出来ない。
なら自分に出来うる事は、詳しく話を聞いて歩み寄るか、或いは別の道を模索させるしか無いだろう。
「今になってツベコベ言いたくない。取り敢えず詳しく話を聞かせてくれる?」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




