1493話・試練の迷宮で野営
刹那の章IV・月の姫(12)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
迷宮では有り得ない天幕を設営した傭兵団・眠りの森。
何が有り得ないかと言うと、横幅10mは有る通路の半分を天幕が占めたのだ。
また全長は15mに達し、まるで軍の作戦本部並みの大きさになった。
更に天幕の中は仮設の風呂場、就寝部屋、居間と3つに区切られる。
ここで問題になるのが、唯一の男性であるリキだ。
流石に婦女子に混ざって雑魚寝は出来ないので、1人寂しく天幕外で寝る事になる。
当初ディーイーは「リキさんと一緒に雑魚寝しても構わないよ」と言い出す。
当然だが皆[リキも含む]が大反対をして、結果的にリキは天幕の外へ…となったのであった。
現在、夜の10時半。
一番風呂をハクメイと済ませたディーイーは、居間で遅い夕食を取りながらウトウトしていた。
「お姉様…大丈夫ですか?」
「う、うん…久々に良く歩いたから、ちょっと疲れたかも…」
と今にも寝落ちしそうに答えるディーイー。
因みに、いつでも寝落ちして良いように寝巻き姿だ。
この居間部分には長テーブルが置かれており、それを囲んで皆は遅い夕食の最中である。
そんな中、漸く状況に慣れて来たサーディクが尋ねた。
「いつもこんな野営をしているのですか?」
「いつもと言うか…あんまり野営はしないかなぁ。だから久々でちょっと楽しい」
などとディーイーはウトウトしながら、答えになっていない返答をする。
「いや…そうでは無くて……」
そこまで言ったサーディクは、相手の状況を鑑みて問うのを諦めたのだった。
『やれやれ…まぁ明日にでも聞けば良いか』
何にしろ今日一日で規格外…もとい常識外れなディーイーを知る事が出来た。
そして自分が目の当たりにしたのは、恐らく彼女が持つ能力の一端に過ぎない。
そう思わせる超絶振りをディーイーから感じてしまった。
『本当に迷宮を閉じてしまうんじゃ…』
故に、そんな淡い期待を抱いてしまう。
最後に風呂を済ませたリキが、居間の天幕に入って来た。
「俺も飯を貰おうかな」
これにシンが手早く用意をして、リキへ食事を差し出した。
「どうぞ、お口に合うか分かりませんが」
「がははっ! 毒が入って無くて腹が膨れりゃ、俺は文句なんて言わねえよ。まぁ美味いに越した事は無いがな」
とリキは豪快に言いながら、食事が乗ったトレイを受け取った。
食卓を挟んでディーイーの対面に座るガリーが尋ねた。
「今は中層の入り口だけど明日はどうする? 一気に下層まで行く?」
「んん……そうね…どうしようか…」
殆ど寝落ち状態のディーイー。
「よいしょっ…」
仕方無く隣に座るハクメイが、まさかのディーイーを抱っこして立ち上がったのだった。
「お姉様を寝かせてきますね」
「お、おう…」
「うん…分かったわ」
神獣の加護が届かない本土と言うのに、このハクメイの膂力。
幾らディーイーが小柄で軽いとは言え、女子が女子を軽々と抱えるのは違和感が有り過ぎた。
「ん…? 何ですか?」
寝落ちしたディーイーを抱え、可愛らしく首を傾げるハクメイ。
仕草と実際にやっている行動の差が極端で、見る者の脳を混乱させるばかりだ。
「いや…何でも無い」
「ううん…こっちの事だよ」
「そうですか…では私も先に休ませて貰いますね」
そう返したハクメイは然して危な気も無く、ディーイーを抱えたまま居間の天幕を出たのだった。
ハクメイとディーイーが居なくなった後、サーディクが驚いた様子で2人に尋ねた。
「ハクメイ様は…その何と言うか…凄い力ですよね。何か特別な力でもお持ちなのですか?」
この傭兵団は著名な雷鳴に金剛拳が在籍し、その団長は100体を超える大トカゲを一瞬で処理してしまう。
そんな傭兵団に所属するなら、ハクメイも只者では無いだろう。
それでも15歳の少女が、同じ体格の女子を軽々と抱えるのは違和感が有り過ぎだ。
どう説明すべきか悩む様子を見せるガリー。
「う〜ん………正直なところ、俺も良く知らないんですよ。あの感じは"加護"を得ている様に見えるんですけどね。でも此処は火炎島では無いし…」
そもそも火炎島の神獣は死んだとディーイーから聞いている…勿論、公に口外出来ない事だが。
これを鑑みるとハクメイの膂力は明らかに辻褄が合わない。
「そうですか…」
『団長のディーイー様だけで無く、団員のハクメイ様まで異質だなんて…』
何から何まで規格外…そんな傭兵団・眠りの森に、サーディクは驚かされるばかりだ。
一方ティミドはと言うと、早々に湯浴みと食事を済ませて地図と睨めっこをしていた。
そんな彼女へ、シンが温かいお茶を差し出し尋ねた。
「何か気になる事でも?」
「え…? あ…有難う御座います。その…何て言うか迷宮の構造が異常に思えたんです」
「異常…ですか?」
「ん〜〜言葉で説明すると、増改築を繰り返した屋敷…みたいな感じですかね?」
疑問形で返され苦笑いしてしまうシン。
「成程…では、それが異常な訳ですか。私は迷宮に詳しくないので何とも言えませんが」
ティミドは地図をテーブルに広げて言った。
「先ず上層と言われる部分が異様に広大なんですよ。私の認識では、これだけで並の迷宮に匹敵します」
「ほほう…確かに上層の移動だけでも、随分と時間が掛かりましたものね。その反面、大した魔物や魔獣は現れませんでしたが」
上層は無駄に広いだけで、何の意味が有るのか不思議にシンは思っていた。
そもそも迷宮とは古代文明の地下遺跡などに、魔獣などが住み着いた事が起源とされている。
そこでは独自の生態系が存在し、故に人間の常識が通じない場所でもあった。
それが長い歴史の中で人は犠牲を出しながらも、分析し解明と踏破を繰り返して来たのである。
しかし北方に存在する迷宮は、その大半が神獣に因る勢力争いの結果で生まれた。
つまり意図的に作り上げられた環境なのだ。
だからこそ無意味な上層の存在を、シンは不思議に感じたのだった。
「まぁ肩透かしなのは否めませんよね」
そう告げたティミドは茶を飲み干すと、席を立ち上がって続けた。
「取り敢えずは明日に備えて休みましょうか」
「分かりました。私も片付けを済ませて休みますね」
ティミドの背中を見送ったシンは、彼女も主に負けず劣らず肝が据わっていると思えのであった。
『こんな訳の分からない場所で、いつも通りに眠れるなんてね…』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




