1489話・迷宮の定義
刹那の章IV・月の姫(11)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
ひと休憩を済ませたディーイー達は、サーディクに先導され迷宮を5層ほど降りた。
"5層ほど"と曖昧なのは、そもそも層と層の境目が曖昧な為である。
一応、上下の層を繋ぐ本線は有るが、それ自体が階段であったり、また緩やかな坂だったりした。
この所為で明確に下の層へ降りたかと思えば、いつの間にか下の層だったりする。
これらを数十年に因る探索と攻略の末、詳細な地図の作成が完成し"上層"と名付けられるに至る。
そして都督府と傭兵ギルドは、迷宮の上層を完全攻略したと宣言したのだった。
そうしてディーイー達は完全攻略された上層を抜け、現在は中層に降りた直後だ。
「漸く迷宮らしくなってきたな」
と周囲を見渡しながらディーイーは呟いた。
"らしくなってきた"とは、人為的に手が加えられた様相をしていないからだ。
例えるなら自然に出来た洞窟である。
それでも剥き出しの岩肌や足下の土壌は、不自然に削られ整形された跡が見て取れた。
これは迷宮の主が強大な魔術や呪法を駆使したか、或いは"核"に刻まれた機構の所為だろう。
本来の迷宮とは主が存在し、その超絶的な能力により迷宮が形取られる。
つまり意図的に生み出された巨大構造体と言えた。
また迷宮の主は不死王や不死者であり、その殆どが人間だった者達だ。
いずれも人類では歯が立たない存在で、無論のこと列国に脅威認定されている。
しかし迷宮の主は、基本的に迷宮の深層から出てこない。
故に人間への直接的な被害は皆無であり、不用意に干渉しなければ安全と言えた。
だが人間とは愚かで罪な生き物だ。
迷宮の魔物や魔獣から獲れる素材、また迷宮内部の構成物質が希少と知るや、こぞって迷宮へ干渉しだしたのである。
当然、迷宮の主から不興を買い、侵入する者は次々と命を落とす事となった。
それでも懲りない人間は被害と利益を天秤にかけてしまう。
そして出した答えは、「迷宮の主を本気で怒らせない程度に窃取しよう」だ。
この判断の結果は、迷宮の主が如何なる性質かに因って命運が別れた。
神経質で誇り高いな主ならば、些細な干渉も許さないだろう。
逆に大雑把で大らかな主ならば、多少の干渉などお構い無しだ。
こうして前者に当たった人間達は、限定的な範囲ではあるが滅ぼされ、後者は人間と迷宮との妙な共存を維持するに至る。
以上がディーイーの迷宮に対する認識だ。
「何だが陰湿な場所ですね…」
とハクメイが少し嫌そうに言った。
「そう? 私の知る限りでは、随分と綺麗な方だと思うけどね」
などと返したディーイーは躊躇い無く歩き出した。
これを慌てて止めるサーディク。
「お、お待ち下さい! もう夜の9時を回っています。この辺りで野営をして休息を取りましょう」
「う〜ん…私もそれが良いと思うんだけど、この先に大きな空間があるでしょ? そこが少し面倒な事になってるみたいなのよ」
「面倒…ですか?」
要領を得ない説明にサーディクは困惑する。
「あ〜〜説明不足だったね。飽く迄も私の推測なんだけど、迷宮の主…いや、この場合は管理者と言うべきか、それが動いたっぽい。恐らく私達への迎撃だと思うわ」
ディーイーは最初の休憩時に、サーディクから簡易的な中層地図を手渡されていた。
それを元に中層へ索敵魔法を展開し、凡その状況を把握していたのである。
因みに索敵魔法は、事前に魔法付加した指輪を使った。
「え…迎撃?! この少人数をですか?!」
正直、サーディクとしては、とてもでは無いが信じられなかった。
ここは中層の入り口であり、迷宮側が危機を覚えるには早過ぎるのだ。
『確かに上層の魔獣では、大した障害には為らなかったけど…』
遭遇した魔獣はリキやガリーが簡単に処理してしまった…しかも素手でだ。
お陰でディーイーの出番が無く、その実力を見るに至ってはいない。
「迷宮の管理者が何を考えているかは分からない。だけど実際に魔獣が集結しつつあるのよ。放置して先手を取られるなら、先に襲った方が良いわよね?」
然も当然の様に尋ねるディーイーに、サーディクは呆気に取られた。
「……」
それが事実だとしても、この少人数制で襲うのは自殺行為になる。
迷宮側より、そんなディーイーの思考の方が理解出来なかった。
「お〜い、サーディク殿?」
「……え、あ、はい!」
「兎に角、野営は後回しで。先に魔獣の集結を阻止するわ。それから安全地帯を確保して野営をしましょう」
この傭兵団の長はディーイーだ。
そのディーイーが決めた事なら、只の支援者である自分は従う他無い。
「了解しました…」
未だに信じられないサーディクだが、考え様によっては実力を確認する良い機会だ…そう思う事にした。
サーディクの了承を得て、ディーイーは再び歩を進め始める。
その足取りは全く淀みが無く、魔獣に対する恐怖など微塵も無い風に見えた。
そんな先頭のディーイーにハクメイが駆け寄る。
「お姉様、傍で見ていても宜しいですか?」
「構わないわよ。でも私の背後から出ないようにね。それと万が一の場合はモノケロースを盾にするのよ」
「分かりました!」
自身の安全にハクメイは何の疑いも無い様子だ。
『どうかしてるわ…』
2人の様子を見たサーディクは呆れた。
今から魔獣の集結地点へ向かうと言うのに、これでは丸で野遊びにでも行くようだからだ。
加えてリキやガリーやシン、またディーイーの側近らしきティミドまでもが弁えるかの如く、少し距離を取って歩き出したのだ。
『えぇぇ…?!』
戸惑うサーディクに、ティミドが告げた。
「ディーイー様の事は心配有りませんよ。それと副団長殿は、我々より後ろに居た方が良いかと。巻き込まれて怪我をしては大変ですから」
「え?! 巻き込ま…?!」
『一体何に?!』
意味が分からず益々困惑するサーディク。
この後、彼女は現実を目の当たりにし、驚愕する事になるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




