1488話・未制圧の下層
刹那の章IV・月の姫(10)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
サーディクの先導で一階層を簡単に抜けたディーイー達。
リキが言ったように魔獣や魔物の気配は無く、ただ通り抜けただけの結果に終わる。
しかし一階層は広大なので、最短の経路でも2階層へは一時間ほどを要した。
現在、2階層に繋がる中継階段で、ディーイー達は一旦休憩を取っている状況だ。
皆は全く疲れていないのだが、日頃の運動不足が祟ったのか、ディーイーだけが足腰の痛みを訴えたのだ。
それで仕方無く休憩を取っているのだった。
「この迷宮が初めての方も居ますし、大まかな概要を説明しましょうか?」
と手持ち無沙汰なのかサーディクが申し出る。
「あ〜〜そうですね。じゃあ副団長殿、説明を宜しく」
階段の踊り場でティミドに膝枕されるディーイー。
その返す言い様は、もはや他人事のようだ。
『この人…本当に大丈夫なのかな』
サーディクの中で不安が増す。
率先して意気揚々と歩き出した癖に、この為体なのだ…既に信用と期待は薄らぎつつあった。
それでも仕事と割り切って説明を始める。
「はい…では現段階で判明している迷宮の構成ですが、凡その制圧が完了している上層、一応の攻略が完了している中層、未攻略の下層に分類されています」
「ほほう…つまり下層までは直ぐに行ける訳だね?」
「一応は…ですが、中層から頻繁に魔獣と出くわす事になります。攻略したとは言え、制圧した訳ではありませんから」
「ふむ…じゃあ中層からは魔獣を蹴散らして進まないとね」
「さ、左様ですね…」
楽観的なディーイーに、落ち込みそうになるサーディク。
蹴散らすなどと、そう簡単に事が運ぶ筈も無いのだ。
上層ならいざ知らず、中層以下は強力な魔獣やアンデットが犇いている。
そこでほ仲間同士で緻密な連携を取り、被害を最小限に抑えねば為らない。
安易に高を括れば、死人が出るのは明白だ。
『私がしっかりしないと』
大事に至る前に、何としても全員を撤収させるべきだろう。
事態の深刻さを認識してからでは、恐らくは手遅れとなるに違い無いのだから。
「ところで未攻略の下層は全くの手付かずなの?」
ディーイーの問いに、リキが代わりに答えた。
「俺の時から進展が無いようだからな、多分だが"例の場所"で手詰まりなんだろうよ」
「例の場所?」
「通称、嘆きの壁…沢山の傭兵や冒険者の命を奪った場所でな、そこで何十年も足止めだ」
そう答えたリキの表情は、隠し切れない苦渋が滲み出ていた。
「嘆きの壁とは…何とも自虐的な呼び名ね。で、実際は壁では無いんでしょ?」
そもそも壁なら通る為の選択肢にはならない。
つまり比喩的な表現だとディーイーは推測した。
するとリキへ目配せをし、サーディクが説明を始める。
過去の失敗と悲劇を本人に説明させるのは、酷だと思い気を利かせたのだ。
「巨大な回廊が有るのです。そこを住処にする大量の魔獣もですが、それ以上に門番が問題なのです」
サーディク曰く、幾度となく討伐隊が投入され、その尽くが全滅してしまったらしい。
そうして死者の多さと、"決して超えられない壁"の印象から、嘆きの壁などと呼ばれるようになったとの事だ。
「成程…その回廊には調査隊とかは送ったの?」
「はい、何度も調査隊を送り門番の弱点を探ろうとしました。ですが門番以前に魔獣の層が厚過ぎて、辿り着く事も儘ならないのです」
「それは黒金の蝶でも?」
南門省随一の傭兵団…それが黒金の蝶なのだ。
ディーイーとしては戦力の基準を定めるのに、丁度良い比較対象と言えた。
首を横に振るサーディク。
「いえ…我々は討伐隊も調査隊も投入しておりません」
ここでリキが割って入った。
「確か都督の許可が下りないだったか? 懐刀と言うか、まぁ実娘の傭兵団だしな…気持ちは分からんでも無いよな」
サーディクはムッとする。
「我ら黒金の蝶は万が一の事態に備え、戦力を温存しているのです。その言い様は我らを侮辱しているに等しいかと」
「おっと…すまん。余計な事を言ったな…」
軽く謝罪したリキは、態とらしく片手で口を押さえた。
「おいおい…仲間内で諍いを起こさないでよ」
と一応は釘を刺しておくディーイー。
だが思考は全く別の事へ向いていた。
『成程。黒金の蝶が都督の庇護下にある…それが一般的な認識か』
それも少しは有るかも知れないが、実際はもっと複雑な事情があるに違い無い。
傭兵団と言っても、実態は都督の私兵集団の可能性がある。
そんな戦力を危険と分かっていて、嘆きの壁とやらに投入出来る筈も無いのだ。
『都督の抱える問題は迷宮だけでは無いな。恐らく…』
本国の状況が内戦瀬戸際なのも問題なのだろう。
故にサーディクが言うように、"万が一"に備えるのは当然だと言えた。
「ところで、この迷宮には主が居るのですか? 北方の迷宮事情には詳しくなくて…」
そこまで言ったティミドは、失念していたとばかりに「あっ!」と声を漏らした。
苦笑するサーディク。
「フフフッ…貴女の素性を詮索しようとは思いませんから、そう慌てないで下さい」
ディーイーと似た反応で、つい笑いが出てしまったのだ。
ハクメイも興味が惹かれたのか、一角獣と遊んでいた手を止めて尋ねた。
「私も気になります。これだけ大きな迷宮なら、何かしら超常的な存在が根城にしていそうですけど」
これにサーディクは少し深刻そう面持ちを見せる。
「表向きは不明とされていますが、実は迷宮に主人が居るのを我々は把握しています。これは最重要機密なので、他言は無用に願いますね」
「それって居るのは知ってても、何者なのかは分からないって事?」
「……」
ディーイーの問いに、サーディクは気不味そうに黙り込んでしまった。
『やっぱり複雑な事情が有りそうね…』
サーディクの反応で、凡その訳を洞察してしまうディーイー。
恐らく迷宮の主は、都督と何かしらの因果関係があるのだ…しかも密接な関係に。
それをここで掘り下げたり、また追求してもサーディクに答える義務は無い。
『まぁ踏破すれば分かる事か』
「取り敢えず、私も詮索する気は無いから安心して。ただ後々分かる事だろうし、その時は諦めてね」
「ご配慮、痛み入ります…」
そう返したサーディクは胸を撫で下ろしたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




