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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1488話・未制圧の下層

刹那の章IV・月の姫(10)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

サーディクの先導で一階層を簡単に抜けたディーイー達。

リキが言ったように魔獣や魔物の気配は無く、ただ通り抜けただけの結果に終わる。

しかし一階層は広大なので、最短の経路でも2階層へは一時間ほどを要した。




現在、2階層に繋がる中継階段で、ディーイー達は一旦休憩を取っている状況だ。

皆は全く疲れていないのだが、日頃の運動不足が祟ったのか、ディーイーだけが足腰の痛みを訴えたのだ。

それで仕方無く休憩を取っているのだった。



「この迷宮が初めての方も居ますし、大まかな概要を説明しましょうか?」

と手持ち無沙汰なのかサーディクが申し出る。



「あ〜〜そうですね。じゃあ副団長殿、説明を宜しく」

階段の踊り場でティミドに膝枕されるディーイー。

その返す言い様は、もはや他人事のようだ。



『この人…本当に大丈夫なのかな』

サーディクの中で不安が増す。

率先して意気揚々と歩き出した癖に、この為体ていたらくなのだ…既に信用と期待は薄らぎつつあった。


それでも仕事と割り切って説明を始める。

「はい…では現段階で判明している迷宮の構成ですが、凡その制圧が完了している上層、一応の攻略が完了している中層、未攻略の下層に分類されています」



「ほほう…つまり下層までは直ぐに行ける訳だね?」



「一応は…ですが、中層から頻繁に魔獣と出くわす事になります。攻略したとは言え、制圧した訳ではありませんから」



「ふむ…じゃあ中層からは魔獣を蹴散らして進まないとね」



「さ、左様ですね…」

楽観的なディーイーに、落ち込みそうになるサーディク。

蹴散らすなどと、そう簡単に事が運ぶ筈も無いのだ。


上層ならいざ知らず、中層以下は強力な魔獣やアンデットがひしめいている。

そこでほ仲間同士で緻密な連携を取り、被害を最小限に抑えねば為らない。

安易に高を括れば、死人が出るのは明白だ。


『私がしっかりしないと』

大事に至る前に、何としても全員を撤収させるべきだろう。

事態の深刻さを認識してからでは、恐らくは手遅れとなるに違い無いのだから。



「ところで未攻略の下層は全くの手付かずなの?」



ディーイーの問いに、リキが代わりに答えた。

「俺の時から進展が無いようだからな、多分だが"例の場所"で手詰まりなんだろうよ」



「例の場所?」



「通称、嘆きの壁…沢山の傭兵や冒険者の命を奪った場所でな、そこで何十年も足止めだ」

そう答えたリキの表情は、隠し切れない苦渋が滲み出ていた。



「嘆きの壁とは…何とも自虐的な呼び名ね。で、実際は壁では無いんでしょ?」

そもそも壁なら通る為の選択肢にはならない。

つまり比喩的な表現だとディーイーは推測した。



するとリキへ目配せをし、サーディクが説明を始める。

過去の失敗と悲劇を本人に説明させるのは、酷だと思い気を利かせたのだ。

「巨大な回廊が有るのです。そこを住処にする大量の魔獣もですが、それ以上に門番ゲートキーパーが問題なのです」


サーディク曰く、幾度となく討伐隊が投入され、そのことごとくが全滅してしまったらしい。

そうして死者の多さと、"決して超えられない壁"の印象から、嘆きの壁などと呼ばれるようになったとの事だ。



「成程…その回廊には調査隊とかは送ったの?」



「はい、何度も調査隊を送り門番の弱点を探ろうとしました。ですが門番以前に魔獣の層が厚過ぎて、辿り着く事も儘ならないのです」



「それは黒金の蝶でも?」

南門省随一の傭兵団…それが黒金の蝶なのだ。

ディーイーとしては戦力の基準を定めるのに、丁度良い比較対象と言えた。



首を横に振るサーディク。

「いえ…我々は討伐隊も調査隊も投入しておりません」



ここでリキが割って入った。

「確か都督の許可が下りないだったか? 懐刀と言うか、まぁ実娘の傭兵団だしな…気持ちは分からんでも無いよな」



サーディクはムッとする。

「我ら黒金の蝶は万が一の事態に備え、戦力を温存しているのです。その言い様は我らを侮辱しているに等しいかと」



「おっと…すまん。余計な事を言ったな…」

軽く謝罪したリキは、態とらしく片手で口を押さえた。



「おいおい…仲間内で諍いを起こさないでよ」

と一応は釘を刺しておくディーイー。


だが思考は全く別の事へ向いていた。

『成程。黒金の蝶が都督の庇護下にある…それが一般的な認識か』

それも少しは有るかも知れないが、実際はもっと複雑な事情があるに違い無い。


傭兵団と言っても、実態は都督の私兵集団の可能性がある。

そんな戦力を危険と分かっていて、嘆きの壁とやらに投入出来る筈も無いのだ。


『都督の抱える問題は迷宮だけでは無いな。恐らく…』

本国の状況が内戦瀬戸際なのも問題なのだろう。

故にサーディクが言うように、"万が一"に備えるのは当然だと言えた。



「ところで、この迷宮には主が居るのですか? 北方の迷宮事情には詳しくなくて…」

そこまで言ったティミドは、失念していたとばかりに「あっ!」と声を漏らした。



苦笑するサーディク。

「フフフッ…貴女の素性を詮索しようとは思いませんから、そう慌てないで下さい」

ディーイーと似た反応で、つい笑いが出てしまったのだ。



ハクメイも興味が惹かれたのか、一角獣モノケロースと遊んでいた手を止めて尋ねた。

「私も気になります。これだけ大きな迷宮なら、何かしら超常的な存在が根城にしていそうですけど」



これにサーディクは少し深刻そう面持ちを見せる。

「表向きは不明とされていますが、実は迷宮に主人が居るのを我々は把握しています。これは最重要機密なので、他言は無用に願いますね」



「それって居るのは知ってても、何者なのかは分からないって事?」



「……」

ディーイーの問いに、サーディクは気不味そうに黙り込んでしまった。



『やっぱり複雑な事情が有りそうね…』

サーディクの反応で、凡その訳を洞察してしまうディーイー。


恐らく迷宮の主は、都督と何かしらの因果関係があるのだ…しかも密接な関係に。

それをここで掘り下げたり、また追求してもサーディクに答える義務は無い。


『まぁ踏破すれば分かる事か』

「取り敢えず、私も詮索する気は無いから安心して。ただ後々分かる事だろうし、その時は諦めてね」



「ご配慮、痛み入ります…」

そう返したサーディクは胸を撫で下ろしたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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