1486話・頑強過ぎる防塞
刹那の章IV・月の姫(10)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
ディーイー達が関所の鉄門を潜ると、石材と金属で構成された通路に出た。
明らかに頑強過ぎる作りで、迷宮から魔獣が出てしまった場合の危機管理は十分だと思えた。
そうして20m程の通路の先に、更に鉄の門が設置されているのが目に取れる。
恐らく防塞自体に設置された鉄門で、ここは関所と防塞を繋ぐ連絡通路なのだろう。
「本当に厳重だね…」
過剰すぎるのでは…と思ってしまうディーイー。
すると傍を歩いていたサーディクが言った。
「四方京の周辺では起こっていませんが、各地では割と魔獣が迷宮から出てしまっているのです。なので人的被害を無くすため、現都督閣下の代で防塞等の改修工事が為されました」
「そっか…都督閣下は随分と慎重なんだね」
「四方京は他の辺境に比べても、かなり人口が多く密集していますから、魔獣などでの被害が大きくなる可能性が有ります。当然の措置かと」
淡々とサーディクに返され、ディーイーは苦笑いを浮かべた。
「そ、そうね…御尤もだわ」
『う~ん…それでも過剰に思えるのは何故だろ?』
妙な違和感が胸中を満たした。
防塞の鉄門には都督府所属の衛兵が4人詰めており、速やかに門を開けて通されるディーイー達。
門を抜けて振り返ると、防塞内部にも衛兵が2人立っていた。
サーディクに聞くと、迷宮から戻って来た冒険者を此処に留まらせ、異常が無いか検査する役目を担っているらしい。
万が一が有れば最も危険で、一番大変な役目と言えた。
「って…想像していたより狭い……」
ついディーイーは率直な感想が漏れる。
この防塞の外観は相当に巨大な三角錐だが、迷宮に降りる為の空間は意外と狭い。
それでも20m四方の敷地面積と、天井の高さは5mは有る。
狭いと言っても、飽く迄も外観に比べての話だ。
そして迷宮の入口は、空間の中央にポッカリと口を開けていた。
「こちらが迷宮の入口です。階段自体が急ですので気を付けて下さい」
サーディクが入口を指し示して告げた。
地面に5m四方の石で組まれた下り階段以外は、土や岩が剝き出しの状態だ。
見てくれは実に悪いが、予算や費用対効果を鑑みるなら妥当な施工である。
「さて、ここは灯りが有るが…」
迷宮に降りれば人口的な灯りは期待出来ない。
しかしながら魔法使用を控えているディーイーは、当然だが下位である照明魔法も使うべきでは無いだろう。
それを察したティミドが階段まで進むと、直ぐさま照明魔法を発動させた。
「ディーイー様、こう言った事は私にお任せ下さい」
「フフッ、ティミドは相変わらず気が利くね。じゃあ基本的な魔法関連は任せるね」
「承知致しました」
2人の遣り取りを見ていたサーディクは、その関係に違和感を覚えた。
『やっぱりディーイー様は止ん事無い身分のようね』
只の冒険者や傭兵が、これ程の気品と鷹揚さを持ち合わせている筈も無い。
またティミドの振る舞いからも、それらが間接的に垣間見えるのだ。
同時に主の洞察力にも驚くばかりである。
如何にして只者では無いと看破したのか、正直気になる所だ。
こうしてフワフワ浮かぶ照明魔法を先頭に、ディーイー達は迷宮へ続く階段を降りた。
「確かに急な階段だね。それに長い…」
まだ迷宮に降りてもいないが、既に足腰が疲れてきたディーイー。
それもその筈、200段は降りたのだが、まだ迷宮の最上層に到着していないのだ。
「この階段を降りるのも久しぶりだ…何だか感慨深いぜ」
などと後ろからリキの声が聞こえた。
「俺も何故か懐かしく感じるわ」
とガリーの声が続く。
2人は著名な傭兵であり冒険者でもある。
そしてこの試練の迷宮に挑んだ過去を持ち、ここに只ならぬ因縁も持つ。
また抱えた使命や妄執に縛られ、何としても迷宮を踏破しなければ為らない。
勿論ディーイーは約束通り、迷宮踏破へ2人を導くつもりだ。
されど防塞で感じた違和感…それがどうしても気になっていた。
『迷宮自体の攻略は問題無いと思うが…何かキナ臭いのよね』
そうしている内に階段が終わる。
迷宮の最上層に降りて直ぐ、ディーイーは少し意外に感じた。
「ん? ひょっとして舗装されてる? あ、いや…壁と天井もか」
「はい。最上層はギルドや都督府の出資で、ほぼ全体が施工済みです」
サーディク曰く最上層より下も、部分的ではあるが石材等で補強が為されているらしい。
特に階層を繋ぐ中継箇所は安全地帯と成り得るので、最優先で工事が進められたとの事だ。
「凄いな…」
これには迷宮に詳しいディーイーでも驚かされた。
逆に言えば、"ここまでしておいて"迷宮を閉じれていないのが不思議だ。
「一階層は確か…殆ど魔獣も魔物も居なかった筈だ。たまに下位のアンデットが徘徊してたぐらいだったか」
リキの大まか過ぎる説明に、ディーイーは苦笑した。
「フフフッ…殆ど制圧してる感じなんだね。なら直ぐに次の階層に降りよう」
「良いのかい? ディーイーさんは迷宮に興味津々だったんじゃねえか? 一日二日は此処を調べても俺は構わないぞ」
確かに興味は有った。
だが探索し尽くされた場所を調べても、"人間側"の技術が知れるだけである。
『どうせなら制圧されてない所が良いけど…』
しかし自分の都合を仲間に押し付けるのは、ディーイー的には躊躇われた。
「いや、出来るだけ早く先へ進もう。多分だが私とティミドだけで、大体は事足りると思うし」
「え…?! まさか本当に迷宮を閉じるつもりですか?!」
つい声を張り上げてしまったサーディク。
「んん? 副団長殿は変な事を訊くわね。迷宮を閉じる以外に、他の目的なんて有る?」
逆にディーイーから問い返され、サーディクは唖然とした。
『本気だったんだ…』
実際、雷鳴のガリーと金剛拳のリキを団員に加えているのだから、その物理的な戦力は相当なものになる。
だからと言って南門省最大の迷宮が、”この少数”で踏破出来るとは思えなかった。
「今回は様子見で潜られて、次の機会で本格的に踏破に臨まれては?」
「已む無く撤収するなら、それでも構わない。でも何もないのに一度帰還して、また潜るなんて面倒臭いよ」
そう返した後、ディーイーはサーディクの手を引いて続ける。
「それよりも副団長殿が支援してくれるのでしょ? 取り敢えず下に降りる場所まで案内してくれるかな?」
色々と不安では有るが、傭兵団として支援を約束した手前、この申し出を無下には出来ない。
そうして仕方なくサーディクは、一向の先頭を歩く羽目になるのであった。
「え? あ……わ、分かりました」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




