1485話・南南東迷宮の関門(2)
刹那の章IV・月の姫(10)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
ディーイーに脅された一角獣は、ブルブルと震えながら小さく頷いた。
一体何が起こったのかと言うと、”出来得る事をして見せろ”とディーイーに言われたからである。
それが出来なければ契約解除の現実が待っている…モノケロースからすれば一大事な状況であった。
「随分と怯えていますね…そんなに契約解除とやらは厳しい事なのですか?」
不思議そうに首を傾げるハクメイ。
「基本的に精霊は物質界へ顕現出来ない。なので契約者との親和性で体を構成して、こうして物質界で体を維持しているんだよ。だから契約を破棄すると体を維持できなくなるの」
ディーイーの説明からは少し要領を得ず、ハクメイは益々首を傾げた。
「んん? 体を維持できないと困るのですか?」
「あ……ごめん、説明不足だったか。精霊全てが物質的な体を欲している訳じゃ無いんだ。殆どが人間には興味が無くてね、こいつだけが例外なんだよ。つまり人間…特に女子が好きで、だから体の維持に拘る訳さ」
「あ~~成程」
漸く納得のいったハクメイは、モノケロースを撫でながら続けた。
「でも私と一緒に居る為には、このままじゃ色々不便ですものね」
「うん。精霊は…特に上級精霊は特別だからね、何かと融通が利く筈なんだけど」
そう返したディーイーは鋭い眼光をモノケロースに向ける。
するとビクッとモノケロースは震え、まるで人間が溜息をつくように息を吐いた。
「え……?!」
直後、目の前で起こった事態に目を見張るハクメイ。
何と3mは有ったモノケロースの体高が、半分…否、6分の1程度まで縮んだのだった。
「やれば出来るじゃないの……あんな体躯じゃ邪魔になるのは分かってた筈なのに」
ぼやくディーイー。
「えぇぇぇ?! 凄く可愛い!! こんなに小さくなっちゃって!」
感極まったハクメイは、そう叫んで小さなモノケロースを抱き締めたのだった。
それを目の当たりにした他の仲間は、皆一同に目が点になる。
「え……あの巨馬が…中型犬並みに……」と半ば唖然に呟くティミド。
「た、確かにこれなら邪魔には為らんが、ある意味で目を引くと言うか……」と困惑するリキ。
「はは……愛玩動物?…として連れ回せる…かな?」と苦笑気味のガリー。
シンとサーディクはと言うと、完全に諦めているのか先に関所へ入ってしまった。
「取り敢えずは首輪をさせておくか。誰かの飼い馬と他人に認識させないとね」
ディーイーは収納魔道具から犬用?の首輪を取り出し、それをハクメイに手渡した。
「嫌がりませんか?」
心配になるハクメイ。
「嫌がるなら送還するまでだ」
これを聞いたモノケロースはブルっと震えた後に、自ら率先して頭を差し出した。
「フフッ…本当に送還されたくないみたいですね。じゃぁ早速っと…」
こうして中型犬のように首輪をされ、尚且つ引き紐を付けられたモノケロース。
上級精霊としての自尊心は粉砕されたが、何とか送還の危機を脱したのであった。
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迷宮関所に入ると、奥に鉄製の門が見えた。
そして門の少し手前の両側に、受付のカウンターが備え付けられていた。
「あの門が迷宮に続く防塞への入口かな?」
ディーイーの問いに、サーディクが頷いた。
「左様です。両側のどちらでも良いので身分証の提示、それと名簿の記入を済ませれば先へ進めます」
「じゃぁ早々に済ませて迷宮に潜ろう」
ディーイーは軽い足取りで受付に向かう。
勿論、仮面を着け忘れない。
ここで自分の顔を直視して硬直されては、無駄に時間を浪費するだけである。
ディーイーが受付に向かうと、傍に居たサーディクに受付の男性が反応した。
「これはこれは黒金の蝶のサーディク様、本日は如何なご用件でしょうか?」
ここに来ると言う事は”迷宮に潜る”のが当然だが、いつもの面子では無いので別件だと思ったようだ。
「今日は傭兵団・眠りの森の支援の為、私が同行する事になりました。こちらが団長のディーイー様です、早々に手続きの方をお願いします」
端的に、又テキパキと用件をサーディクから告げられ、受付の男性は慌てて行動に移った。
「さ、左様ですか! 承知しました…では眠りの森団長のディーイー様、身分証の提示と名簿への記入をお願い致します」
こっそりとサーディクに尋ねるディーイー。
「ひょっとして迷宮関所は傭兵ギルドの出資で成り立ってるの?」
「はい、傭兵ギルドと都督府の出資で運営されています」
『おぉ! 流石は黒金の蝶の副団長だな』
と言うか流石は都督の娘であり、傭兵ギルドの副ギルド長である。
ここまでヤオシュが影響力を持つとなると、ディーイーとしても今後は無下には出来ない。
迷宮から戻ったら色々と奉仕?すべきだろう。
こうして全員分の手続きが終わるが、やはりと言うべきか…中型犬化した一角獣が受付男性の目に留まった。
「え~と……この馬?は迷宮に連れて行くのですか?」
返答に困ったサーディクは、助け舟を求めてディーイーへ視線を向ける。
「え?! あ……こ、これは私が魔術で作ったゴーレムです。試験運用も兼ねて迷宮に連れて行く予定でした」
『うぐぐ……少し苦しいか?!』
すると意外な事に受付男性は、そのまま真に受けて納得してしまった。
「成程、了解しました。それではお気を付けて迷宮の探索へお向かい下さい」
『おおぉ!? 何だか分からないけど大丈夫だった』
ホッと胸を撫で下ろすディーイーであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




