1484話・南南東迷宮の関門
刹那の章IV・月の姫(9)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
南南東迷宮に潜る為には、その入り口を囲う防塞を越えなければ為らない。
またそれ以前に迷宮関所で、名簿の記入を行う必要がある。
これは迷宮での犯罪や事故の防止、更にはそれらが起こった場合の足取りを調べ易くする為だ。
この手続きをする目的で、現在ディーイー達は迷宮関所の前にやって来ていた。
しかしながら周囲の視線が非常に痛い…何故ならディーイー一行の一人が、”余りに異質な状態”だったからである。
その異質と言うのは、何を隠そう火炎島領督の娘ハクメイだ……では無く、彼女が跨る黒馬?に原因が有った。
その馬は何と体高3m近くあり、鋭く長い角が額から生えていたのだ。
この様な馬を誰も見たことが無く、行きかう人々や擦れ違う傭兵らが、唖然として立ち尽くす程だった。
「だ、大丈夫でしょうか……」
不安そうにティミドがディーイーに尋ねた。
「ん? あ~~どうだろうね。一応は馬に見えるし暴れてる訳じゃ無いから、邏卒に通報されないとは思うけど」
などと楽観的な返事を返すディーイー。
そして当事者と言えるハクメイは、高すぎる馬の背に跨り非常にご満悦そうだ。
放っておいたら、いつまでも乗って居そうである。
そうしている内に迷宮関所前に到着する。
建物の大きさは二階建てで、横の広さは傭兵ギルドの3分の1にも満たない。
だが石造りの頑強な外観をしており、万が一の状況なら立て篭もる事も可能そうだ。
また周囲には建物は存在せず、在るのは露店や屋台ばかり。
腰を据えた建築物は、関所の後方に在る迷宮防塞のみだ。
「何だかだだっ広い青空市場みたいだね」
ディーイーの素朴な感想に、サーディクが端的に説明を返した。
「魔獣が出た場合を想定して、迷宮周辺には住めない決まりなのです」
「あぁ〜〜成程。都督も色々と考えてるんだね」
「都民や領民を守るのが、都督の仕事ですから」
「ふむ…」
『名君と言うやつか…』
ディーイーは少し感心した。
権力を手にした者は、民よりも自身の利益を追求する傾向にある。
そんな一般的な権力者とは、やはりイェシン・チャンシーは隔絶しているようだ。
されど得てして名君ほど、その道は険しい。
何故なら他者への配慮ばかりで、自分自身をお座なりにしがちだからだ。
何より"利用しようとする悪人"も後を絶たない筈で、ディーイーからすれば都督の気苦労も想像に容易かった。
『差し当たって私が出来る事は、迷宮を閉じるのに協力してやるくらいかな…』
所詮は他人の人生である。
利害が一致した以上に手を貸すのは只のお節介で、無用に因果を複雑にするだけである。
「中で手続きをしたい所ですが、このままでは不味いですよね」
どうしたものかとサーディクが言った。
当然、彼女の視線の先はハクメイが跨る一角獣だ。
『確かに…これだけ大きいと関所には連れて行けないか』
かと言ってモノケロースだけを外で待たせては、魔獣と勘違いされ兼ねない。
今更だが、ディーイーはモノケロースを呼び出した事に後悔する。
「え〜と…元の場所には戻せないのですか?」
危なげなくモノケロースから降りたハクメイは、心配そうにディーイーへ尋ねた。
「う〜ん…送還は出来るけど、一旦還すと呼び出すのに時間がかかるんだよ」
「え…? 何か制約が有るとかですか?」
「うん…精霊と言うのは基本的に精霊界に存在するの。そこから物質界に顕現する場合、膨大な動力を消費するからね」
その逆も然り…ディーイーは可能な限り分かり易く、また端的に説明した。
「なるほど…だから銀冠の女王は、お姉様に指輪を渡したのですね」
「そう言う事。いちいち馬車を出すのに銀冠の女王を呼び出してたら、効率が悪いからね。だから彼女の力の一部を指輪として借りてるのよ」
ここでハクメイの中で1つ疑問が生まれた。
「あれ? それでしたら銀冠の女王を戻さなくても良かったのでは?」
「いやいやいやいや! あんなヤバそうなのは尚更連れて歩けないだろ!」
透さずリキが突っ込んだ。
「フフッ…まぁ、そう言う訳だよ。最上級の精霊は存在するだけで、良くも悪くも大きく影響を及ぼすの。だから直ぐに還したんだよ」
漸く合点がいったハクメイは、傍に立つモノケロースを見上げた。
「そうなると、この子は随分と大人しい部類に入るのでしょうね」
「ちょっと癖は強いけど、人間には危害を加えないからね。でもこう大きいと邪魔だしなぁ…」
そこまで言ってディーイーは暫く思案した。
「お姉様…?」
「あ…そうだ。親和性を抑えて弱体化させれば良いのよ」
このディーイーの言葉を聞き、モノケロースは丸で「イヤイヤ」をするように首を横に振った。
その振り方と来たら凄まじく、鬣が大きく乱れ、更には口から涎が飛び散る始末だ。
「うわっ!? 汚い!! や、やめい!!」
慌てて飛び退くディーイー。
モノケロースの頭より後ろに居たので、ハクメイは何とか事なきを得る。
「うわぁ…豪快ですね」
「良い加減にしろ! この駄馬が!!」
涎の合間を縫ったディーイーの踵落としが、見事にモノケロースの脳天に炸裂した。
手加減したとは言え超絶者の踵落としである…モノケロースはビターンっと地面に倒れ伏す羽目に。
「うわぁ……お姉様も豪快ですね…」
巨馬を一撃で制圧したのも然る事乍ら、ディーイーの振り上げた片足に目が行ってしまうハクメイ。
しかも裾が捲り上がり下着も丸見えなのだから、誰でも釘付けだろう。
うつ伏せのモノケロースへ、ディーイーは鷹揚に言い放った。
「余り調子に乗っていると契約を解除するぞ。それが嫌なら貴様が出来得る事をして見せろ」
これにモノケロースは立ち上がると、ブルブル震えながら小さく頷いたのであった。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。
続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。
また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。
なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。
〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




