1482話・銀冠の女王ノクス
刹那の章IV・月の姫(9)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
急遽、埠頭倉庫地区に来ることになったサーディク。
その理由は「人目を避けれる場所」…などとディーイーが指定したからである。
使われていない貸し倉庫の前に来ると、サーディクは馬車を止めさせてディーイーに告げた。
「ここは黒金の蝶の所有倉庫です。今は誰も居ないので人目は気にしなくて大丈夫ですよ」
「うん、ありがとう。じゃあ皆んなは馬車から降りて離れてね。それと御者さんも馬を外して、直ぐに帰って貰って」
「承知しました…」
未だに訳が分からないが、取り敢えずサーディクは言われた通りにする事にした。
こうして全員が馬車から10mほど離れると、ディーイーは皆へ少し振り返って問う。
「この世には魔力に比肩する超常の力が幾つか有る。それは何だと思う?」
これにハクメイが透かさず答えた。
「仙術の根幹になる仙力です! かの剣聖が極めたと聞いた事が有ります」
「フフッ…ハクメイは良く知ってるね。じゃあ他には何が有るかな?」
「え〜と………分かりません。特に他には聞いた事が無いですね」
するとハクメイに代わって答えるサーディク。
「魔術に匹敵するなら、やはり治療魔法などの神聖魔術ですので…神聖力ですか」
『ヤオシュの腹心だけに、そこに直ぐ着眼したか』
「うん、それも正しい。でもね、もっと汎用性の高い力がある…聞いた事が無いかな?」
サーディクは首を傾げた。
魔力、仙力、神聖力、そこへ加わる第四の力…もう膂力程度しか思い付かない。
「いえ…思い当たる物がないですね」
「答えは精霊力だよ。これは精霊との親和性が強さに影響する。今の私には打って付けの力かな」
「精霊…ですか? あの御伽話で出てくる?」
「ほほう、御伽話か。なら精霊自体が一般的では無いのだね」
サーディクの反応に合点がいったディーイー。
この世界では魔術も然して一般化していない。
そうなると更に難度が高い精霊魔術は、無名であるのは当然だろう。
「ディーイー様…打って付けと言いましたよね。その精霊の力?で何をするのですか?」
興味津々そうにハクメイは尋ねた。
「今の私は魔力が使えないからね、その代替えに精霊力を行使する訳さ。で、差し当たって使うのは…」
ディーイーは右手を掲げ、パチンッと指を鳴らし静かに続ける。
「出ておいで…銀冠の女王ノクス」
「…?! え…何?!」
表現し難い恐怖に似た何か…それを感じたハクメイは声を漏らした。
他に居合わせた者達も同じだった。
まるで原始に人間の精神へ刻まれ、そして受け継がれた畏怖。
それが全員の恐怖を掻き立てたのだ。
「何なんだ…あれは?!」
思わず誰にとも無く尋ねるリキ。
ガリーはディーイーの傍に現れた何かに、背筋が凍り後退りそうになる。
「……?!」
シンは強大な神獣を知っている。
それは決して人間では抗えない、正に神に近しい存在だった。
だがこれは異質で、ある意味で凌駕している風に思えた。
「これが…精霊?!」
ディーイーの力を知るティミドでさえ、驚愕で言葉を失う。
「……」
『まだこれ程の御力を隠されていたとは…』
サーディクはと言うと、その異形の存在に腰を抜かし掛けていた。
何故ならボンヤリと人を模した形をしており、全てが闇色の何がだったからだ。
例えるなら漆黒の煙…それが凝縮して出来たような存在に見えたのである。
「皆んな大丈だから、そんなに警戒しないで。只、あんまり直視すると意識を抜かれるから、そこだけは注意してね」
そう皆に告げたディーイーは、馬車を指してノクスへ告げた。
「あの馬車を君の領域へ仮置きして欲しい。私の収納魔導具では大き過ぎて入らないんだ」
すりとノクスは恭しく首を垂れた。
直後、馬車を漆黒の球体が覆い、一瞬で消失させてしまう。
そうしてノクスはディーイーに何か"小さな物"を差し出すと、霧散する様に消え失せたのだった。
ディーイーへ駆け寄るハクメイ。
「い、今のは何なのですか?!?」
「精霊の王を呼び出したんだよ。銀冠の女王ノクス…闇、無、空間、次元を司る存在だね」
然も大した事の無いように答えるディーイーに、サーディクが透かさず突っ込んだ。
「精霊の王ですって!? どう見ても危険な存在でしょう! 本当に大丈夫なのですか?!?」
「え…別に危なくないよ? ちゃんと私が契約して使役している精霊だからね。あ……馬車の事が心配なのか! それも大丈夫よ、大き過ぎるから彼女の支配空間に仮置きさせて貰ったの」
「いや…そうでは無くてですね。はぁ……もう良いです」
あれ程の超絶した人外の存在を、何の犠牲と対価無しに使役出来る訳が無い…それをサーディクは心配したのだ。
しかしながらディーイーの様子を見るに、それさえも大した事が無いと思えた。
『心配するだけ無駄のようね…』
「お姉様、そのノクス?から何か渡されてませんでしたか?」
「うん? あぁ〜〜良く見てたねハクメイ。これはね彼女の領域と繋げる鍵だよ。これが有れば態々ノクスを呼び出さなくても、馬車の出し入れが可能になるの」
そう答えたディーイーの掌には、黒水晶で誂えたような指輪が乗っていた。
「ほぇ〜〜ビックリしてオシッコちびりそうになりましたが、次からは大丈夫そうですね」
「おいおい…妙齢の淑女が言う事じゃないよ?」
『う〜ん…初見で目にするには刺激が強すぎたかな…』
「あぅ…御免なさい」
楽しそうに話す2人を見て、一同は唖然とする。
"あれ"を呼び出したディーイーが平気なのは当然だろう。
されどハクメイも自分達と同じ常人の筈…それを考慮すると順応力が高過ぎると言えた。
『やっぱり火炎島領督の娘だからなの?』
などとサーディクは思わざるを得ない。
かの地には人を超越した存在…神獣がいるのだ。
また同時に不安と疑問が胸中を覆う。
神獣に匹敵するかも知れない精霊の王を、人間が使役するなど本当に可能なのか?…と。
『いや…止めよう』
サーディクは思い悩むだけ無駄だと感じた。
例え答えが出たところで、自分には何も出来ないのだから。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




