1479話・大型馬車と馬
刹那の章IV・月の姫(8)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
だだいまディーイーは、傭兵団・黒金の蝶専用の馬車に乗っていた。
この馬車は何と四頭立ての大型馬車で、ディーイー等6人とサーディクが乗っても余裕があった。
「これは凄い馬車ですね。椅子のクッションもフカフカだし内装も豪華で…こんなの初めて乗りました」
と興味津々に内装を見回すハクメイ。
そうしていても、ちゃっかりとディーイーの左隣に座るのは彼女らしい。
ハクメイの左隣に座るシンも、これに同調する。
「素晴らしい馬車ですね。機能性も兼ねているようですし、やはり傭兵団の人員運搬用でしょうか」
馬車の内装は通常の物と違い、長側面に座席が誂えてあり、片側だけでも6人は優に座れる広さだ。
つまり荷を含めた人員を、可能な限り多く運ぶ想定をしていると言える。
一番前に座るサーディクが頷いた。
「はい、シンさんの仰る通りです。我が黒金の蝶は大所帯なので、この様な馬車が他に10台ほど存在します」
またディーイーの右隣に座るティミドは、内装を見据えながら1人呟く。
「ふむ…専用の馬車も中々良いわね。只、馬が必要になるし……」
「何? うちでも馬車が欲しいの?」
ディーイーに悪戯顔で尋ねられ、少し慌てるティミド。
「い、いえ…そう言う訳では」
そしてディーイーの耳元へ小声で続けた。
「馬は生き物ですから、収納魔導具に入れられません。ここを解決出来れば、本国での活用も色々と広がるかと」
「あ〜〜成程ね」
合点がいったディーイー。
ティミドは今の事を言っているのでは無く、先を見通して"利用"を考えたのだ。
『確かに南方では、こんなに大きな馬車は無いわ』
4人程度が乗れる豪華な馬車は、リヒトゲーニウス王国やセルウスレーグヌム王国にも存在する。
だが、それより小型の馬車は有っても、大型の馬車は運用されていない。
有るとすれば荷馬車だが、御者席以外が荷台になっているだけで、極端に長く設計はされていないのだ。
これは駐車場の広さなどに依存しており、極端に大きな馬車は管理出来ないからだろう。
加えて大き過ぎると今乗る馬車の様に、4頭立てや下手をすれば6頭立てになる。
馬車一台に4〜6頭は、費用対効果が低いと言わざるを得ない。
つまり金に物を言わせた貴族の道楽…もとい見栄なのは明白だ。
「要するにティミドが言いたいのは、馬に代わる動力の問題よね。でもそれが解決出来たら、もはや馬車じゃ無くなるんじゃない?」
「左様ですね…フフフッ」
傍で聞いていたハクメイが首を傾げた。
「何の話ですか?」
「ん? あ〜〜こんな馬車が有れば便利よねって話。でも馬の管理が大変だからね」
「そうですね。確かに良いなぁ〜とは思いますけど、馬車を運用するのには馬と御者、それに厩舎と馬丁が必要ですからね。あ…駐車場もか、」
と染み染みと同調するハクメイ。
「おや? ハクメイはお馬さんが好きなのかな? 飼いたいとか?」
今度はハクメイに悪戯顔を向けるディーイー。
「え…? そうですね、馬は賢くて美しいですから。でも個人で飼うには手間が掛かり過ぎますし、たまに見かけるのを愛でるのが丁度いいかと」
そう答えたハクメイは、妙に切なそうに苦笑いを浮かべた。
「そっか…」
『おやおや、これは実家で馬を持っていたのかな』
ハクメイは火炎島領督の嫡子なのだ。
馬の1頭や2頭を個人的に所有していても、何らおかしくは無い。
それよりもディーイーはハクメイの表情が気になった。
恐らく馬に大切な思い入れが有るのかも知れない。
「じゃあ全く手間が掛からなければ、馬を飼いたいと思う?」
妙な質問をされ戸惑うハクメイ。
「え〜と…はい。でも本当に手間が掛かりますから、"全く"は有り得ないかと…」
「フフッ…普通はね。まぁ護衛も兼ねて丁度良いから、期待してて」
「…??」
ディーイーの言葉の真意が理解できず、ハクメイは釈然しない。
しかし敬愛する"お姉様"が、意味の無い事を言う筈も無いのだ。
「では期待しておきます!」
そんな遣り取りを聞いていたサーディクが興味深そうに尋ねた。
「馬が御入用なのですか? それとも馬車?」
「あ、いや…馬は要らないですよ。どちらかと言えば、この型の馬車が欲しいかなぁ」
などと思わせ振りに言ってみるディーイー。
貰えるとは思えないが、言うのは只である。
「ふむ…小規模傭兵団なら、この馬車一台で事足りますからね」
そう告げたサーディクは、こちらも思わせ振りな口調で続けた。
「収納には全く困っていないようですし、」
暗に指輪の"収納魔導具"を言っているのである。
「まぁね。ヤオシュに言うくらいなら目を瞑るけど、それ以外は他言無用ですよ」
「…! ヤオシュ様に報告しても宜しいのですか?」
「うん。副団長殿も主人に黙ったままだと、気持ち的に後ろめたいでしょ」
『フッ…優しい方ね…』
世間知らず故の優しさなら、それは只の甘ちゃんである。
されど強者だからこその余裕なら、本当に警戒しなければ為らないのは、この絶世の美女だ。
「ご配慮有難う御座います。では私から何か差し出すべきでしょうね」
「ん? 別に催促するつもりは無いよ?」
「いえいえ。取り敢えずは馬車を…この型と同じ物をご用意しますね」
瓢箪から駒と言うべきか…冗談のつもりが貰えるとは、正に幸運である。
「何だか悪いねぇ」
「ですが、馬は大丈夫なのですか? それに駐車しておく場所も必要ですよ」
「あ〜〜それなら心配無いよ。何とかなるから」
「左様ですか…」
高価な物を譲渡して、それが無駄になっては意味が無い。
故に馬車を贈るとは言ったものの、心配で為らないサーディクであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




