1478話・傭兵団の中核
刹那の章IV・月の姫(8)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
ディーイーは居間の床にドッカリと胡坐をかき、収納魔導具から片っ端に物を取り出した。
と言っても一応は迷宮で使いそうな物を、ある程度考えながらだ。
当然それらは仲間に持たせる為である。
「ディーイー様……そんなポンポンと物を出されては、収拾が付かなくなってしまいます」
と少し呆れた様子でシンが言った。
次にティミドが苦言を口にする。
「そんな床に胡坐をかいて……端たないですよ」
そしてハクメイはディーイーの背中に抱き着いて、何を取り出すのか興味津々な様子だ。
「わぁ~~何だか見慣れない物もありますね」
そんな3人を見て苦笑いを浮かべるガリーとリキ。
この二人が一番まともかも知れない。
まともと言えば、ここに居合わせた黒金の副団長が一番と言えた。
何もない空間から取り出された物で、居間の床が埋め尽くされつつあり、これへ呆気に取られていたのだ。
「………」
そうして暫くして正気に戻り、少し血相を変えて言った。
「ちょ、ちょっと何事ですか? 何もない空間から物が出てくるなんて! 魔法なのですか?!」
「え? あ~~魔法と言うか、この指輪…収納魔導具から物を取り出してるのよ」
然も当然の様に言うディーイーに、サーディクは驚愕するしかなかった。
「なっ!?? そんな小さな指輪が収納魔導具ですって?!」
ティミドは苦笑いを浮かべた。
「ですよね……そんな反応になりますよね」
半ば呆然と立ちすくむサーディクへ、シンがと止めの言葉を浴びさせる。
「ですからディーイー様が他言無用と言ったのです。因みに私達も等級は下がりますが、同じような収納魔導具を頂きましたよ…”団員として”ね」
それを聞いたサーディクは、驚き過ぎたのかヘナヘナと尻餅をついてしまった。
『これは…ヤオシュ様が言った以上なのでは……』
実は事前にヤオシュから告げられていたのだ…ディーイーが”汎ゆる点”で只者では無いと。
その詳細を見極める為、自分は此処に来たのだが…余りにも規格外過ぎて、これ以上を知るのが怖くなる程だ。
完全に固まってしまったサーディクを他所に、ディーイーから渡される支給品を各々は収納魔導具に収めた。
その品は小型の仮設天幕や湯船など多岐に渡り、慣れているティミドでも驚きを隠せなかった。
「ディーイー様…一体どれだけ収納されているのですか?」
「ん? 日常生活で必要な物が一通り入ってるよ」
「そ、そうですか…」
ここで漸く我に返ったサーディクは、率直にディーイーへ尋ねた。
「貴女は一体何者なのですか?」
「何者かと言われてもねぇ…」
庇う様にティミドが割って入る。
「サーディクさん、仮に知った所でどうするつもりですか?」
「え? あ…その……すみません。詮索しない約束でしたのに…今のは聞かなかった事にして下さい」
『私ったら…』
驚き過ぎて冷静さを失うなど、黒金の蝶の副団長失格だ。
加えて密かに探る使命なのに、これでは本末転倒と言えた。
『暫くは大人しくしておこう…』
こうして30分程度で出発の準備が整う。
小規模とは言え迷宮に潜る傭兵団としては、異例の早さである。
これはディーイーが手当たり次第に収納していた事と、気を利かせて前準備をしていたシンのお陰だ。
皆が居間を出ようとした時、サーディクが怖々と尋ねる。
「あのぅ…一応なのですが、ガリーさんとリキさん以外の実力は如何程なのでしょうか?」
そこまで言って慌てて続けた。
「あ…決して詮索するのでは無くて、戦力を把握しておかないと支援も難しいので」
「ぶはっ」
つい吹いてしまうディーイー。
初顔合わせの際は、随分とツーンッとしていた印象のサーディク。
それが今では借りて来た猫のように萎縮している。
そんな彼女の変化が面白くもあり、可愛らしくも感じたのだ。
「え? 何か変な事を言いましたか?!」
「いやいや、何でも無いよ…フフッ」
答えずに居るディーイーに代わり、ガリーが質問に答えた。
「多分ですが…ティミドさんは俺やリキさんより強いと思いますよ。団長は当然に一番強いですし」
「え……それって…武力の話ですよね?」
頷くガリー。
「勿論です。ここに居る皆が束になっても団長には敵いませんよ。と言うか、この世で勝てる人間が居るのか怪しいですね」
うんうん…と頷くリキ。
これには流石にサーディクも半信半疑である。
「冗談でしょう? こんなに華奢で小さいのに。あっ…申し訳ありません、不敬な言い様でしたね」
理由は武力では無く、統率力や魔術に優れた"支援型"…そう自分は見立ていたのだから。
「私も初めは同じ考えでしたよ。ですが世の中には、"自分の尺度や常識"が通用しない存在が居るのです。私達に同行するなら、一般常識を捨てた方が宜しいかと」
などと辛辣な口調で告げるシン。
何処ぞの補佐官…もとい国務長官も顔負けだ。
正直信じられないが、ここで異を唱えても反感を買うだけだろう。
そう考えたサーディクは、"一番強そう"な相手に標的を絞った。
「……分かりました。ならティミドさんは、どの程度"使う"のですか?」
「え…? 私ですか? え〜と…魔法が少々と、無手での戦闘も可能ですし、一般的な武器は大体何でも使えますよ」
「ほほう…魔法が使える戦士ですか、素晴らしいですね」
『成程、戦闘になれば彼女が中核になりそうね』
そこに雷鳴と金剛拳が加わると、近接戦闘に偏っているように思えた。
つまり小規模傭兵団として考えるなら、残り3人は後衛支援型なのは間違い無いだろう。
『兎に角、御手並拝見といきましょうか』
「大方の話しは済んだでしょ? じゃあ迷宮に向かうよ」
そう告げたディーイーは、サーディクの返事を聞かずに居間を出て行った。
「あ…お待ちを! 迷宮へは皆さんを馬車で案内しますので!」
慌てて言うサーディクに、ゾロゾロと居間を出て行く皆が声をかけた。
「助かります」とシン。
「まぁ気楽に行こうや」とリキ。
「……」と無言で苦笑いのガリー。
そしてハクメイはサーディクなどそっち退けで駆け出す。
「お姉様! 待って下さいよ〜!」
最後に居間から出ようとするティミドは、サーディクへ僅かに振り返って告げた。
「我々が必要なのは迷宮の"概要"です。余り詳しく説明されると、ディーイー様の楽しみが無くなりますから、程々にお願いしますね」
『えぇぇ…?!』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




