1477話・褐色の狂犬
刹那の章IV・月の姫(8)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「これはヤオシュ様が開発された新素材の布なのです」
などと聞いてもいないのに、自信満々で説明するサーディク。
これにディーイーは半ば呆気に取られた。
「新素材って……透け透けのドレスを私の許可なしに着せるなんて」
気付かなかった自分も悪いが、自分の視点からでは普通の布地に見えてしまうのだ。
そもそも分かる訳も無かった。
するとサーディクは落胆気味に返した。
「え……気に入って頂けると思ったのですが」
「私は気に入りましたよ!!」
そしてハクメイは目を輝かせる始末だ。
「はぁ……別に減る訳では無いから良いけど、」
こうなるとディーイーは嫌とは言えなかった。
可愛い義妹が求めるなら、多少の我慢が出来てしまう…なんとも情けない。
正直「誰得?!」と思えるが、恐らくは自分以外が目の保養になるのだろう。
ならば此方の目の保養もしなければ、公平とは言えない。
『何着かヤオシュに頼んで、皆んなに着せてやる!』
「これはどう言った仕組みなのですか?」
ハクメイがディーイーの旗包に触れながら、サーディクに尋ねた。
「その布地は真横からの光を、限りなく透過する仕組みになっているのです。魔法と錬金術の併用により編まれた物なので、金では買えない貴重な品なのですよ」
サーディクの説明に、ハクメイは慌ててディーイーから離れた。
「えっ?! じゃあウッカリ引っ掛けちゃったら大変ですね!」
「フフッ…それはディーイー様に贈られた物なので、何か有った場合の判断はディーイー様次第ですね」
「な、成程…」
少し安心した様子のハクメイだが、それでもディーイーへ不用意に触るのは躊躇われた。
「兎に角、服の話は良いから、今から試練の迷宮に向かう準備をするわよ」
そう告げたディーイーは、仮拠点にしている2階へ上がる。
「あっ…待って下さい、お姉様!」
「戻って早々ですか…」
「そう言われる気がしましたよ」
慌てるハクメイに呆れるティミド、そして見透かした様子のシンがディーイーの後を追った。
それに加え何故かサーディクまで続き、気付いたディーイーが突っ込む。
「何で黒金の副団長も来るのよ?」
「貴女方を支援するよう、ヤオシュ様から指示を受けています。ですから私が同席同行するのは当然です」
「はぁ……勝手にして頂戴」
溜息が出てしまうディーイー。
まるで監視されている気分…と言うか、支援に託けての監視が目的に違い無い。
問題は監視の真意だ。
『まぁあれこれ考えても仕方ないか…』
真意を洞察したとして、支援自体を今更拒否出来る訳も無いのだから。
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「うおっ!? ディーイーさんよ…なんて格好してるんだ!?」
居間のソファーに座っていたリキが、慌てて立ち上がった。
同じく寛いでいたガリーも、慌てると言うより驚いた声を漏らす。
「ぅ…わぁぁ…!?」
そんな2人を見てディーイーはボヤきが出た。
「ちょっと…リキさんの反応は良いとして、ガリーは引いてない?」
「俺は良いのかよ…」
「い、いや…凄く魅力的すぎて驚いたと言うか…」
「フッ…やはりお仲間には大好評のようですね」
「誰だアンタ?」
「え? どちら様?」
ディーイーの背後から現れた褐色の美女に、リキとガリーが僅かに警戒態勢をとった。
「これは失礼しました。私は傭兵団・黒金の蝶副団長サーディクと申します。眠りの森への支援で参上致しました」
とサーディクは告げ、恭しくお辞儀をした。
リキは失念していた様子で、
「あ……そう言えば副団長は褐色の狂犬…」
まで言うと慌てて口をつぐむ。
そして間髪いれずにガリーの肘鉄が、リキの脇腹を小突いた。
「ぐえっ!?」
当然、これをディーイーが聞き逃す筈も無かった。
「褐色の狂犬? ひょっとしてサーディク副団長の事?」
気不味そうにするリキとガリー。
「「……」」
片や妙な二つ名を言われたサーディクは、然して機嫌を損ねた素振りを見せない。
寧ろ逆で、自嘲を含んだ笑みを浮かべた。
「何だか懐かしい呼び名ですね」
狂犬は余り良い意味で使われない言葉だ。
つまり詮索しない方が良いのだが、ディーイーは我慢出来ずに尋ねてしまった。
「狂犬って事は…副団長殿は随分と暴れていた時期があったのかな?」
「そうですね…黒金の蝶に入る前の話です。謂わゆる若気の至りと言ったところですよ」
と恥ずかしそうに答えたサーディクだが、その心情は懐かしさが優っているようだ。
「ふ〜ん…意外ですね。凄く几帳面そうで、力よりも弁が立つ質だと思ってたのですが」
そうディーイーが言うのも当然と言えた。
今のサーディクは舎人か補佐官か…そんな文官然としているのだから。
「フフフッ…以前の私を知る人間は、今でも不思議そうにしていますよ。かく言う私も随分変わったと自覚していますしね」
そう返した後、居合わせた皆を見渡して続けた。
「さて、試練の迷宮に向かうのですよね? 私に構わず準備を進めて下さいませ」
「そ、そうですね……」
頷いたティミドは気不味そうにディーイーへ視線を送る。
別に迷宮に向かうのは良いが、その準備には収納魔導具を使う。
それは詰まる所、聖女王と永劫の騎士の秘匿事項でもあり、おいそれと見せる訳にはいかないのだ。
察していたディーイーは面倒臭そうに告げた。
「サーディク副団長殿…今から私たちがする事は、絶対に他言しないで貰えますか? もし不可能なら支援は結構ですので、ヤオシュの元へ帰って下さい」
「え………」
機先を制され、少し呆気に取られたサーディク。
実はディーイーの素性や実力、また仲間の詳細まで探りを入れるつもりだったのだ。
態とらしくディーイーは首を傾げた。
「ん? まさか協調関係に在る相手の秘密を、安易に漏らすつもりだったのですか?」
「いえいえいえ! とんでもありません!」
「なら黙っていて貰えますよね?」
ディーイーはズイッと迫り、サーディクの胸に自分の胸を押し当てた。
これは威圧するつもりの行為では有るが、身長差とディーイーの豊満な胸の所為で、サーディクの胸が押し上げられる形になる。
要するに全く威圧に為らず、居合わせた面子の目に滑稽に映る始末だ。
またサーディクも皆と同じだったようで、全く威圧を感じずに苦笑する事に。
「フフフッ…分かりました。黙っておきますから、私の事は気にせずに準備を進めて下さいね」
『ほんとに大丈夫かな……』
少し馬鹿にされた気もするが、相手が黙っていると言っているのだから、これ以上ウダウダと話し合っても時間の無駄だ。
「じゃぁ皆、迷宮に持って行く物の確認から始めようか」
こうして部外者の見守る中、ディーイー達は装備品の確認を始めるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




