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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章・北方四神伝・II
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1477話・褐色の狂犬

刹那の章IV・月の姫(8)も更新しております。

そちらも宜しくお願いします。

「これはヤオシュ様が開発された新素材の布なのです」

などと聞いてもいないのに、自信満々で説明するサーディク。



これにディーイーは半ば呆気に取られた。

「新素材って……透け透けのドレスを私の許可なしに着せるなんて」

気付かなかった自分も悪いが、自分の視点からでは普通の布地に見えてしまうのだ。

そもそも分かる訳も無かった。



するとサーディクは落胆気味に返した。

「え……気に入って頂けると思ったのですが」



「私は気に入りましたよ!!」

そしてハクメイは目を輝かせる始末だ。



「はぁ……別に減る訳では無いから良いけど、」

こうなるとディーイーは嫌とは言えなかった。


可愛い義妹が求めるなら、多少の我慢が出来てしまう…なんとも情けない。

正直「誰得?!」と思えるが、恐らくは自分以外が目の保養になるのだろう。


ならば此方の目の保養もしなければ、公平とは言えない。

『何着かヤオシュに頼んで、皆んなに着せてやる!』



「これはどう言った仕組みなのですか?」

ハクメイがディーイーの旗包に触れながら、サーディクに尋ねた。



「その布地は真横からの光を、限りなく透過する仕組みになっているのです。魔法と錬金術の併用により編まれた物なので、金では買えない貴重な品なのですよ」



サーディクの説明に、ハクメイは慌ててディーイーから離れた。

「えっ?! じゃあウッカリ引っ掛けちゃったら大変ですね!」



「フフッ…それはディーイー様に贈られた物なので、何か有った場合の判断はディーイー様次第ですね」



「な、成程…」

少し安心した様子のハクメイだが、それでもディーイーへ不用意に触るのは躊躇われた。



「兎に角、服の話は良いから、今から試練の迷宮に向かう準備をするわよ」

そう告げたディーイーは、仮拠点にしている2階へ上がる。



「あっ…待って下さい、お姉様!」

「戻って早々ですか…」

「そう言われる気がしましたよ」

慌てるハクメイに呆れるティミド、そして見透かした様子のシンがディーイーの後を追った。



それに加え何故かサーディクまで続き、気付いたディーイーが突っ込む。

「何で黒金の副団長も来るのよ?」



「貴女方を支援するよう、ヤオシュ様から指示を受けています。ですから私が同席同行するのは当然です」



「はぁ……勝手にして頂戴」

溜息が出てしまうディーイー。

まるで監視されている気分…と言うか、支援にかこつけての監視が目的に違い無い。


問題は監視の真意だ。

『まぁあれこれ考えても仕方ないか…』

真意を洞察したとして、支援自体を今更拒否出来る訳も無いのだから。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






「うおっ!? ディーイーさんよ…なんて格好してるんだ!?」

居間のソファーに座っていたリキが、慌てて立ち上がった。


同じく寛いでいたガリーも、慌てると言うより驚いた声を漏らす。

「ぅ…わぁぁ…!?」



そんな2人を見てディーイーはボヤきが出た。

「ちょっと…リキさんの反応は良いとして、ガリーは引いてない?」



「俺は良いのかよ…」

「い、いや…凄く魅力的すぎて驚いたと言うか…」



「フッ…やはりお仲間には大好評のようですね」



「誰だアンタ?」

「え? どちら様?」

ディーイーの背後から現れた褐色の美女に、リキとガリーが僅かに警戒態勢をとった。



「これは失礼しました。私は傭兵団・黒金の蝶副団長サーディクと申します。眠りの森への支援で参上致しました」

とサーディクは告げ、恭しくお辞儀をした。



リキは失念していた様子で、

「あ……そう言えば副団長は褐色の狂犬…」

まで言うと慌てて口をつぐむ。

そして間髪いれずにガリーの肘鉄が、リキの脇腹を小突いた。

「ぐえっ!?」



当然、これをディーイーが聞き逃す筈も無かった。

「褐色の狂犬? ひょっとしてサーディク副団長の事?」



気不味そうにするリキとガリー。

「「……」」



片や妙な二つ名を言われたサーディクは、然して機嫌を損ねた素振りを見せない。

寧ろ逆で、自嘲を含んだ笑みを浮かべた。

「何だか懐かしい呼び名ですね」



狂犬は余り良い意味で使われない言葉だ。

つまり詮索しない方が良いのだが、ディーイーは我慢出来ずに尋ねてしまった。

「狂犬って事は…副団長殿は随分と暴れていた時期があったのかな?」



「そうですね…黒金の蝶に入る前の話です。謂わゆる若気の至りと言ったところですよ」

と恥ずかしそうに答えたサーディクだが、その心情は懐かしさが優っているようだ。



「ふ〜ん…意外ですね。凄く几帳面そうで、力よりも弁が立つ質だと思ってたのですが」

そうディーイーが言うのも当然と言えた。

今のサーディクは舎人か補佐官か…そんな文官然としているのだから。



「フフフッ…以前の私を知る人間は、今でも不思議そうにしていますよ。かく言う私も随分変わったと自覚していますしね」

そう返した後、居合わせた皆を見渡して続けた。

「さて、試練の迷宮に向かうのですよね? 私に構わず準備を進めて下さいませ」



「そ、そうですね……」

頷いたティミドは気不味そうにディーイーへ視線を送る。

別に迷宮に向かうのは良いが、その準備には収納魔導具を使う。

それは詰まる所、聖女王と永劫の騎士(アイオーン・エクェス)の秘匿事項でもあり、おいそれと見せる訳にはいかないのだ。



察していたディーイーは面倒臭そうに告げた。

「サーディク副団長殿…今から私たちがする事は、絶対に他言しないで貰えますか? もし不可能なら支援は結構ですので、ヤオシュの元へ帰って下さい」



「え………」

機先を制され、少し呆気に取られたサーディク。

実はディーイーの素性や実力、また仲間の詳細まで探りを入れるつもりだったのだ。



態とらしくディーイーは首を傾げた。

「ん? まさか協調関係に在る相手の秘密を、安易に漏らすつもりだったのですか?」



「いえいえいえ! とんでもありません!」



「なら黙っていて貰えますよね?」

ディーイーはズイッと迫り、サーディクの胸に自分の胸を押し当てた。


これは威圧するつもりの行為では有るが、身長差とディーイーの豊満な胸の所為で、サーディクの胸が押し上げられる形になる。

要するに全く威圧に為らず、居合わせた面子の目に滑稽に映る始末だ。



またサーディクも皆と同じだったようで、全く威圧を感じずに苦笑する事に。

「フフフッ…分かりました。黙っておきますから、私の事は気にせずに準備を進めて下さいね」



『ほんとに大丈夫かな……』

少し馬鹿にされた気もするが、相手が黙っていると言っているのだから、これ以上ウダウダと話し合っても時間の無駄だ。

「じゃぁ皆、迷宮に持って行く物の確認から始めようか」



こうして部外者サーディクの見守る中、ディーイー達は装備品の確認を始めるのであった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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