1476話・ヤオシュの目的と透け透け
刹那の章IV・月の姫(8)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「はい…私の目的は試練の迷宮にあります」
ディーイーの問いに、ヤオシュは思わせ振りに頷いて答えた。
『ん…?』
だが、この返答にディーイーは違和感を覚える。
それは皆が同じ目標とする、試練の迷宮を"閉じる"と言わなかったからだ。
「つまり…言葉通りに"迷宮の中"に、ヤオシュの目的が"在る"のね?」
「はい。今ここで明確には答えられませんが、私の目的完遂には迷宮踏破は関係ありません。只、南門省の事を鑑みるならば、それに越した事が無いのも事実です」
「成程…」
誰にでも秘密は有る…故にディーイーは追求しなかった。
それでも凡その推測は可能だ。
『特定の階層に有る秘宝が必要か、或いは倒さなければ為らない何かが居るのか…』
どちらにせよ、今あれこれ詮索するのは無粋だろう。
ヤオシュが意外そうに言った。
「…問い質さないのですね」
「まぁね…貴女が私の事を詮索しないから、そのお返しかな」
これにヤオシュは何故か申し訳無さそうに呟く。
「左様ですか…」
『う〜ん…これは何か面倒事に巻き込まれたかな?』
飽く迄も勘だが、ヤオシュが抱える問題は随分と"ややこしい"ように思えた。
兎に角、このままでは気不味いので話題を変えるディーイー。
「所で早々に試練の迷宮へ潜りたいんだけど、どうすれば良いのかな?」
「え…あ、はい。潜るだけなら身分証を迷宮の関門で提示して、名簿に記入するだけで問題有りません。でも私からの支援も付けますので、余り急がれても…」
遠回しに準備が出来ていない…そうヤオシュは言っているようだ。
「ん〜〜なら、先に眠りの森だけで潜らせて貰うわ。こちらには迷宮に詳しい雷鳴と金剛拳が居るし」
少しばかり慌てるヤオシュ。
「ひょっとして本日から潜られるつもりですか?!」
「え? 何か不味いの?」
すると控えていた副団長が、我慢できなかったのか話に割って入って来た。
「ディーイー様、本来でしたら十二分に準備を整えて迷宮へ潜ります。安易に挑まれますと、お仲間の命が幾つ有っても足りませんよ」
それを聞いたディーイーは、久方ぶりに胸が躍る高揚を感じる。
「ほほう…そんなに凄いんだ? 骨が有りそうで楽しみね」
以前の世界では多種多様な迷宮を踏破してきた。
どれも甲乙付け難い良さが有ったが、この世界では1つしか経験していない。
その所為か刺激が足りない状態なのだった。
「迷宮が楽しみって…初めて聞きましたよ」
サーディクが呆れた様子で頭を抱えた。
一方ヤオシュはと言うと、僅かに憂いを帯びた表情を浮かべる。
例えるなら名残惜しい、又は寂しい…そんな情動が伝わって来そうだ。
「なに? もっと私と一緒に居たいの? それだと副団長が嫉妬してムクれるんじゃない?」
ディーイーに揶揄われたヤオシュは、苦笑しながらも柔らかく返した。
「フフッ…そうですね。では情報交換"など"を含めて合間合間でお会いしましょう」
片やサーディクは図星なのか、本当にムクれてしまった。
「……」
『ははは…副団長はヤオシュにゾッコンみたいね』
揶揄い過ぎて嫌われては、今後の活動に支障をきたしそうだ。
なのでディーイーは再び話題を変えた。
「さてさて、思い立ったら吉日だと言うし、私は仮拠点に戻って迷宮に潜る準備をするよ」
そうして立ち上がった後、ヤオシュへ悪戯顔を向けて続ける。
「ちゃんと"など"も忘れてないから」
対して少し恥ずかしそうに返すヤオシュ。
「分かりました。次の機会を楽しみにしていますね」
こうしてディーイーは浴衣のまま帰ろうとして、2人に止められてしまうのだった。
「お、お待ちを! その格好は流石に…」
「ちょっ?! そのまま帰る気ですか!?」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
仮拠点…満腹亭に戻って来たディーイー。
時刻は午前9時半に差し掛かる頃だ。
一階の食堂フロアで待っていたハクメイが、「え……」と声を漏らして唖然とする。
「ただいま〜〜って、どうしたの?」
片やディーイーはハクメイの様子に首を傾げた。
「………どうしたじゃ有りませんよ! 朝帰りですよ! それにその格好は何なのですか?!」
我に返ったハクメイは怒りと"相反する情動"とで、妙な語調になってしまう。
「えぇぇ…?! な、何? 怒るか嬉しがるか、どっちかにしてよ…」
そんな突っ込みなど無視して、ハクメイはディーイーの周りを回って舐める様に眺めた。
「むむむ……これは…」
『素晴らしいわ!』
「だから一体何なのよ?!」
ハクメイの振る舞いが不気味過ぎて、流石のディーイーも問い質さずには居られない。
すると店の入り口に控えていたサーディクが、
「これはヤオシュ団長からディーイー様に贈られた衣装です。気に入って頂けると自負しております」
などと聞いてもいないのに言い出す。
「はいっ! 気に入りました! って…どちら様ですか?」
「私は傭兵団・黒金の蝶の副団長サーディクと申します」
「これはこれは御丁寧に、私はロン・ハクメイです」
「貴女が火炎島の……龍国随一の美姫とは納得がいきました」
「まぁお上手ですね」
ディーイーを他所に、勝手に盛り上がるハクメイとサーディク。
社交辞令な会話だが、妙に意気投合している感がある。
そうこうしていると、二階からティミドとシンが降りて来た。
「え……ディーイー様、そのお召し物は…」
「これは中々に…」
「え…? 何? 二人とも?」
妙な反応が理解出来ず、ディーイーは首を傾げた。
『んん? そんなに変な格好か? 普通の旗包風ドレスなのに…』
怪訝そうなディーイーの腕に、ハクメイが抱き着いて言った。
「お姉様、このドレスは凄い透け透けなんですよ。下着なんか丸見えですし、私としては身内以外に見せて欲しくない恰好ですね」
「へ…? 透け透け?! 何処が?」
幾ら自分の恰好を客観的に見ても、”ディーイーの視点”からは普通の黒の布なのだ。
そして着替えた時の事を思い出した。
『そういえば…姿見を見せられなかったわね』
即座に収納魔道具から姿見を取り出し、ディーイーは自分の前に置く。
そうして姿見に映った姿に驚いてしまう。
「ちょっ! 透け透けじゃないの!!」
体の線どころか胸の形や、割れた腹筋が薄っすらと見える程に透け透け。
ちゃんと下着を付けているのが不幸中の幸いと言えた。
「フフフッ…これはヤオシュ様が開発された新素材の布なのです。如何です? お気に召したでしょう?」
そう告げたサーディクは自信満々の笑みを浮かべたのであった。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。
続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。
また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。
なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。
〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




