1475話・遜る訳と目的
刹那の章IV・月の姫(8)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「ディーイー様が何を以って権威主義と仰るのか、私は理解に及んでいないのです。宜しければお教え頂けませんか?」
と遜った態度を取るヤオシュ。
これにディーイーは呆気に取られた。
『えぇぇ?! そこまでして私に気に入られたいの?!』
考えるにヤオシュは己の欲求を満たす為、どうしても自分の存在が必要なのだろうが、ここまで固執されるとドン引きである。
呆気に取られているディーイーに、ヤオシュは不安そうに尋ねた。
「あのぅ……ディーイー様? やはり何もかもが御不快なのでしょうか?」
『おいおいおい! どうしてそう飛躍する?! ただドン引きしただけよ!』
と怒鳴りそうになるディーイー。
しかし遜った相手を詰る趣味は無い。
「はぁ……違うわ。私が嫌なのは地位や権力を嵩に、他者を無下に扱う事よ」
「例えばどう言った事なのでしょうか?」
いまいちヤオシュは要領を得ていないようだ。
『まぁ生まれが権威ある家柄なら、理解出来なくても仕方が無いのかな…』
それでもディーイーが知る権威者は誇り高く、身分が下の者を無下にはしなかった。
例を挙げるなら南方の武神ことクシフォスだ。
彼は無礼な者や強者には容赦無いが、弱者や目下の者へは比較的柔和に接する。
それは力ある権威者として、成すべき事を自覚しているからに他ならない。
また"その社会"で地位が高いからと言って、別に偉い訳では無いと知っているのだ。
つまり地位とは権限の幅と強さの基準で、他者を無下に扱って良い権利では無い。
それを生まれ持った優位な環境の所為で、勘違いしている者が多過ぎるのである。
「貴女にとっては細か過ぎる事なのかも知れないし、どうでも良いと思える可能性も有るわ。それでも聞きたい?」
ディーイーに念を押され、ヤオシュは自分が試されていると感じた。
今ここで判断や返答を誤れば、きっとディーイーは離れて行ってしまうだろう。
なら自分に出来る事は、真摯に受け入れる事だけしか無い。
「はい、教えて頂けますか?」
「分かったわ」
ディーイーは権威主義について、自身が持つ概念を端的に説明する。
そしてヤオシュが理解し易いよう、この食事を例に挙げて補足もした。
これにヤオシュは感慨深く聞き入った後、申し訳無さそうに言った。
「権威主義をディーイー様が嫌悪される理由…漸く理解に至りました。貴族の風習や常識を、疑問無く受け入れていた自分を恥ずかしく思います」
「理解してくれて良かったわ。後は貴女が如何に行動するか…それ次第ね」
余り感情の篭らない口調で告げられ、ヤオシュは後が無い察する。
『ここで行動を示さなければ…』
本当に関係は潰えるだろう。
「使用人達の雇用待遇を改善します」
「うん…それが良いかもね。でも私の価値観に同調して、貴女の思想まで変える必要は無いわ…それでは只の盲目でしか無いから。だから貴女は貴女自身の信念に基づいて物事を決めれば良いのよ」
『良かった……私は選択を誤らなかったのね』
ヤオシュの胸中は安心で満たされた。
「はい…今の私の選択は、私自身の信念の元で判断しました。ですからディーイー様は何も危惧される事は有りませんよ」
「ん〜〜別に危惧はしていないけど、何と言うか…目先の事で貴女が思考を曲げていないか、ちょっと不安になったの。私の所為でそうなったら、私自身の寝覚が悪いからね」
「フフッ…大丈夫です、ご心配無く」
『ふむ…柔軟な思考の持ち主なのか、それとも信念なんて持ち合わせていないのか…』
ヤオシュの為人を完全に理解出来てはいない。
それだけにディーイーは一抹の不安を抱いてしまう。
「そう…なら良かったわ」
こうして何とか場の空気が和らぎ、漸く2人は食事を始めた。
傍で控えていたサーディクも気が気でない。
『やれやれ…一時はどうなるかと思ったわ』
そんな副団長など他所に、豪勢な料理を美味しそうに堪能するディーイー。
先程の緊張感は何処へやらだ。
そしてそれを直ぐ右隣に座って、ヤオシュは嬉しそうに眺める。
「お口に合いましたか?」
「うん。本場の北方料理も中々いけるね」
そこまで言ったディーイーは、「あっ!」と小さく声を漏らした。
『し、しまった! これじゃあ外国人って言ってるような物じゃん!』
「ん…?」
と不思議そうに首を傾げるヤオシュ。
『はは…ははは…これは気を使って聞き流してくれたのか』
鈍臭い自分にディーイーは恥ずかしくなる。
「本当に詮索する気が無いのね…」
「フフッ…そう約束しましたでしょ? ところで…私が直すべき箇所は、他に有りますでしょうか?」
などとヤオシュが言い出す。
ここまで来ると、もはや健気としか言い様が無い。
「え? う〜ん……そもそもどうして私に固執するのか分からない。そこまで下手に出てもヤオシュに益が有るの?」
「はい。オスクロ神の加護を最大限に得るには、どうしてもディーイー様の存在が必要なのです」
「それはオスクロ神に差し出す対価が、以前より増して多く必要だと言う事よね」
『被虐心を満たせば良いって…凄い特殊過ぎるわ』
正直、ディーイーはドン引きである。
それでも実害がある訳では無いので、気持ちよりも伝手を優先した。
片やヤオシュは相当に危険な賭けをしている。
闇の神の事もだが、被虐性癖を持っているなど他人に知られては、弱味も良いところだからだ。
「左様です。私には成さねばならない事が有りますから、それまでディーイー様が近くに居て頂ければ幸です」
何処の馬の骨ともしれぬ自分に、ここまで下手に出るのは余程の事だ。
それを鑑みると、ディーイーは彼女が気の毒になってしまう。
されど自分にも目的が有る。
『いつまでも近くに居られる訳じゃ無いし、どうせなら…』
目的地だけでも同じなら、こちらこそ幸だ。
「ねぇ…ヤオシュの目的って、試練の迷宮と関係がある?」
するとヤオシュは「……はい」と思わせ振りに頷いたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




