1474話・サーディクとディーイー(2)
刹那の章IV・月の姫(7)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
邪神と暗黒神は、一聴して似た類に聞こえる。
しかし実際は異なり、邪神は正道から外れ人智を超えた存在を指す。
片や暗黒神はと言うと、その存在の起源が闇に関連する神を指すのだ。
つまり邪神は起源や属性に関係無く、人類にとって危険な存在と言え、暗黒神はその限りでは無い。
と言うのがディーイーの中での見識だ。
そしてオスクロ神とやらを、サーディクは暗黒神だと肯定した。
しかも"邪神の類を指すなら"と前提にしてである。
これはディーイーの見識に照らすなら、矛盾していると言わざるを得ない。
「んん? 邪神と暗黒神は別物ですよ? それともこの世界では、そう言うものなのですか?」
「え…? この世界?」
怪訝そうに反応するサーディク。
『あっ…しまった余計な事を言っちゃった』
これでは自分が別の世界から来た"異邦人"だと言っているに等しい。
「……やはりヤオシュ様の考う通り、貴女は只の人間では無いようですね」
気不味くなり、ディーイーは可能な限りそっぽを向いた。
「……」
『うぅ…身内しか知らない事を話せる訳が無いし、どうしよう』
そもそも話した所で恐らくは信じて貰えない。
自分の腕の中で気不味そうにしているディーイーに、サーディクは笑顔で告げる。
「心配されずとも大丈夫ですよ。ヤオシュ様から詮索せぬように仰せつかっていますから」
「そ、そうなんだ…」
ディーイーは胸を撫で下ろした。
「話の続きですが…オスクロ神は魔教が信奉する主神だったのです。今では魔教の敗退で遺失してしまいましたが…」
「…!」
まさか魔教の話が出てくるとは思わず、少しばかり驚くディーイー。
『魔教って…ジズオが教主だった北方の闇勢力か』
「なら公には口に出来ない神なのよね?」
「そうなります。ただ魔教も存在した記録自体が遺失しているので、オスクロの名を出した所で大した騒ぎには為らないかも知れません」
「う〜ん…でも口に出さない方が無難そうか」
「左様ですね」
「もう一つ訊いてもいい?」
「はい、答えられる範囲の物なら」
ディーイーは怖々と尋ねる。
「その…副団長殿がオスクロ神から加護を得るには、信仰以上に対価を差し出していますよね? それって何なのですか?」
これは個人的で繊細な情報だ…故に後ろめたさを覚えた。
それでも尋ねたのは、好奇心が強過ぎるディーイーならではと言えるだろう。
「フフッ…そんな事を聞かれたのはディーイー様だけですよ。それに加護の事を良くご存知ですね」
「え…あ、うん…知り合いに暗黒神と契約した者が居て、色々と教えて貰いました」
「ほほう…それは興味深いですね」
サーディクは不気味な笑みを浮かべ、ディーイーに迫った。
「た、多分、貴女が知っている事しか、私は知らないと思いますよ?」
「慌てないで下さい…別に取って食ったりしませんし、詮索しないと言いましたでしょ」
「そうでしたね…」
ホッとするディーイー。
今は抱えられたままな上、体に力が入らない。
ある意味で無防備であり、"何か"されたら抵抗は難しいのだから。
ディーイーを抱えたまま、サーディクは湯船から立ち上がった。
「逆上せる前に出ましょうか」
「はい…」
『あ〜〜これは答えたく無いのか』
相手が嫌がるのに答えさせたいとは、流石のディーイーでも思わない。
またサーディクで無くとも、折を見てヤオシュに聞く手もある。
こうして浴室から脱衣所に来ると、浴衣姿のヤオシュが待っていた。
「ご苦労様、サーディク。後は私が代わるわ」
「承知しました」
そう端的に返したサーディクは、抱えていたディーイーを椅子に座らせ、そのまま自分の着替えを始めたのだった。
『な、何?! この微妙な空気は…?』
またもや2人の間に挟まれた感じがして、ディーイーは居た堪れなくなる。
惚れたの腫れたのは勝手にやれば良いが、巻き込まれるのは迷惑甚だしいところだ。
「ディーイー様、この後は朝食をご一緒しませんか? 既に準備が出来ていますので」
ディーイーの体をタオルで拭いながら、ヤオシュは柔らかな口調で尋ねた。
「うん…じゃあ御相伴にあずかろうかな」
ディーイーは即答する。
下手に断って気を悪くせては、更に気不味くなるに違い無いからだ。
そうして浴衣を着せられたディーイーは、"ゆっくり"とヤオシュに手を引かれて脱衣所を出た。
ゆっくりなのは、完全な脱力から何とか歩ける程度に力が戻った為だ。
正に恐るべし油按摩であった。
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ヤオシュと夜を過ごした最上階に戻り、ディーイーは朝から豪勢な食事を前にしていた。
「これは…ちょっと多過ぎない?」
席に着きながらディーイーはドン引きする。
テーブルに並べられた料理は豪勢なだけで無く、量も半端無かったからだ。
とてもでは無いが2.、3人では食べきれない。
「ご心配無く。残った料理は下女が食べますので」
とヤオシュは笑顔で答えた。
一般的に貴族の食事は、朝昼晩関係無く大量に作られる傾向にある。
何故なら家門の内外に財力を示す為、敢えてそうするのだ。
また使用人に割かれる予算が少なく、結果的に使用人の食費が削られたりもする。
それを補う目的で貴族の料理を、初めから多く作り余らすのが常識となっていた。
「……」
『やれやれ…嫌な風習だな』
うんざりするディーイー。
使用人の予算を多く組めば済むのに、そうしないのは貴族の権威主義ゆえだろう。
反応が無いディーイーを見て、ヤオシュが何か察したようだ。
「何かお気に障りましたか?」
怖々と様子を窺う風に尋ねたのである。
「余り権威主義が好きでは無いの。まぁ貴女が気にする事では無いよ」
ついディーイーは素っ気なく返してしまった。
これに何故か慌てるヤオシュ。
「も、申し訳ありません。ディーイー様が何を以って権威主義と仰るのか、私は理解に及んでいないのです。宜しければお教え頂けませんか?」
『えぇぇ!? そこまで遜る理由が有る?!』
ヤオシュの腰の低さに、ディーイーは呆気に取られるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




