1473話・サーディクとディーイー
刹那の章IV・月の姫(7)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
ヤオシュに命じられたサーディクは、遠慮無く天蓋幕を開けた。
すると素っ裸のヤオシュとディーイーが目に入る。
「これはこれは…お楽しみだったようで」
揶揄気味に部下から言われ、ヤオシュは苦笑した。
「フフフッ…珍しいわね、嫉妬かしら?」
「……兎に角、指示通りに浴場へお連れします」
素っ気なく返すサーディク。
『うわぁ……ちょっと修羅場?!』
ディーイーは居た堪れなくなった。
ヤオシュは痛め付ける役をサーディクに任せていた。
そうなると、そんな性癖に関する繊細な事を、”上司”と”部下”と言う関係だけで行える訳が無い。
つまり褥を共にする深い仲…恋人同士と考えられた。
そんな二人の間に挟まれて、気不味くならない方が変である。
素っ裸のディーイーに、サーディクはシーツを掛けた。
そして何も言わずに優しく全身を包むと、驚く程の膂力でディーイーを抱え上げる。
「ふぁっ?!」
『おぉぉ?! 凄い力!』
驚いてディーイーは声が漏れた。
女の身で自分を楽々と抱えたのは、最近なら炎龍の加護を得ていたハクメイだ。
それを鑑みると神獣と同等か、それ以上の力を闇の神が持っている事になるだろう。
『実に興味深いわね…』
そうしてボンヤリと思考している内に、サーディクはディーイーを抱えたまま速足で歩きだした。
『おおぅ!? しかも凄い早い!』
何かに躓いて転ばないか心配である。
それよりも上司を放って、先々行って良いのかも心配だ。
「ちょ……ヤオシュは?」
「団長は後から来るかと。もしくは備え付けの浴室で済ませると思いますよ。そんな事より黙っていて下さい、舌を噛みますよ」
『じゃぁ、もっとゆっくりに歩けば良いじゃん!』
と思うが本当に舌を噛みそうなので黙っておく事にした。
そこからサーディクは階段を危な気無く降りたり、また廊下を早足で進み、あっと言うまに例の浴場に着く。
そこでシーツを剥かれたディーイーは、浴場の風呂椅子に座らされた。
「うぅ…さぶい……」
「お待たせしました。直ぐに掛け湯を致しますね」
脱衣所で団員服を脱いだサーディクが、その引き締まった褐色の裸体を晒して姿を見せた。
「は、はい…お願いします」
片やディーイーは芳香油でテカった体を縮こまらせる。
早朝の寒さも然る事乍ら、自身の有様が恥ずかしかったのである。
「失礼します」
そう告げたサーディクが、湯桶でディーイーに優しく掛け湯を始めた。
ある意味で恋敵?の筈なのに、自分を乱暴に扱わないサーディクをディーイーは意外に感じる。
「私の事が目障りなのでは?」
「…? どうしてですか?」
「え…? その副団長殿は、ヤオシュと恋仲なのでは?」
するとサーディクは一瞬だけ目を見開いて、直ぐに苦笑した。
「フフフッ…恋仲なんて、そんな畏れ多い。私が一方的にお慕いしているだけです」
「でも慕っている相手に、ポッと出の女がイチャイチャしていたら腹が立ちませんか?」
「………確かに嫉妬心は湧き起こります。ですがヤオシュ様が為さる事ですし、部下として従うまでです」
そう答えたサーディクは、ディーイーの体を石鹸で洗い始めながら続けた。
「で…随分とヤオシュ様から奉仕されたようですね」
「う……そう思いますか?」
「そうですね、ここまでテカテカですから、さぞかしディーイー様は御満悦でしょう?」
悔しいがヤオシュの奉仕に蕩されたのは否めない。
「は、はい…」
「そうですか…ならヤオシュ様も満足だったのでしょうね」
「満足…?」
「ヤオシュ様が暴力を求めませんでしたか? ディーイー様へ奉仕したのは、その見返りの筈ですよ」
『満足か…なら、』
ヤオシュが闇の神から得る加護も、その満足度に比例するのでは?
信者の強い情動を糧にしているのが暗黒神なのだから。
只、闇の神と称されたとしても、暗黒神とは限らない。
『う〜ん…判断材料が足らないな』
「つかぬ事を伺いますが…闇の神とは一体どんな存在なんですか? 公な神では無いですよね?」
「……他言しないのなら語りますが」
「勿論です」
そうしている間に洗い終わり、ディーイーを抱えたままサーディクは湯船に浸かった。
「何だか申し訳ない…」
「いえ、ヤオシュ様から本気の按摩を受ければ、身体中が緩んで暫く力が入りませんから。お気になさらずに」
「え…副団長殿も油按摩を経験されたんですか?!」
「はい。その…暴力の見返りにして貰いました。それで脱力し過ぎて失禁する程で…ディーイー様は大丈夫でしたか?」
「ふぁ?! 失禁?! いや…流石にそこまでは…」
「成程…ではヤオシュ様が加減をしたのですね」
なとど怖い事を言い出すサーディク。
「ちょっ!? あれで加減してたの?!」
ディーイーは驚愕で声を張り上げてしまう。
実を言うと油按摩で失禁し掛けていて、なんとか我慢していた状態だったのだ。
『くっ…つまり瀬戸際を攻められてた?訳か…』
ある意味で遊ばれていたとも言える。
「さて、話が逸れましたが、私やヤオシュ様が信奉する闇の神はオスクロと呼ばれています。二大柱神とは全く違う起源を持ち、人の記憶から遺失した神になりますね」
「遺失した神…ですか」
益々ディーイーは興味が惹かれた。
"遺失"とは長過ぎる歳月や文明の滅亡、或いは支配形態の変革などて起こる。
仮にそうで無ければ、遺失するよう自ら仕組む他無い。
そして誰も知らないオスクロ神とやらを、ヤオシュとサーディクは信奉している。
神に等しい神獣が支配する北方で、これは余りに不自然だ。
故にディーイーの口から、つい核心に迫る問いが出てしまう。
「オスクロ神は…暗黒神なんですか?」
これにサーディクは少し逡巡して答えた。
「暗黒神とは邪神の類を指すのでしょう? そう言う意味でなら否定できません」
『そう言う意味?』
思わせ振りな返答に、ディーイーの中で更なる疑問が膨らむのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




