1466話・ヤオシュとディーイー(3)
刹那の章IV・月の姫(5)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
つい自分が15歳と漏らしてしまったディーイー。
そして如何に誤魔化そうか慌てている刹那、盛大なクシャミを放ってしまう。
「ぶへ~っくしょん!!!」
「あ……直ぐに掛湯をして湯船に浸かりましょう。風邪をひいては大変です」
今度はヤオシュが慌て始めた。
『うぅぅ……取り敢えず失言は誤魔化せたのか?!』
ヤオシュに掛湯をされて、じょわ~っと温かさがディーイーの体を伝わる。
「さぁ、湯船に浸かって下さい。温まってから体をお洗いしますから」
「え、あ…はい」
勧められるがままに檜の湯船に浸かる。
すると温かさと心地よさで、ディーイーは何もかもが良くなってくる。
『はぁ〜〜〜気持ちいい…』
ヤオシュも直ぐ傍に浸かり、
「で、15歳と言うのは一体どう言う事ですか?」
とディーイーの心の隙を鋭く突いた。
「う…それは……」
ディーイーは答えを窮する羽目に。
『これって…絶対に不味いよね』
身分証の登録には18歳と記した、なのに実際は15歳となると、それは詐称…若しくは公文書偽造となる。
つまり犯罪となるのだ。
「事の次第に因ってはディーイー様を拘禁しなければ為りません。そうなると眠りの森の方々も同等の扱いになるでしょう」
『うぅ…私は最悪いいとして、仲間を巻き込む訳には…』
自分の安易な選択で、このままでは共犯者にしてしまう。
だが詐称したのも事実で、ディーイーは倫理と身内の安全との間で揺れ動いた。
逡巡しているディーイーに、ヤオシュは告げた。
「答えられないのですか? ならば取り調べをするしか無いですね」
わざわざ南門省まで来て傭兵団を結成したディーイー。
そして迷宮の攻略へ乗り出そうとしている矢先に、これは余りにも酷い有様だ。
『こんなの情けな過ぎる…』
ディーイーとしては、このまま拘禁される訳にいかない。
『なら取れる選択肢は…』
ヤオシュを懐柔するか、又は口封じするしか無いだろう。
意を決したディーイーは立ち上がると率直に尋ねた。
「ヤオシュ殿、聞かなかった事に出来ませんか?」
「私は都督の嫡子であり、傭兵ギルドの副長です。見過ごせないのは、ご存知でしょう」
と毅然と返すヤオシュ。
『やっぱり駄目か…』
項垂れそうになるディーイー。
ここで聖女王だと明かす手も有るが、それはそれで面倒な事になる。
今や永劫の帝国は、大陸最大の版図と言っても過言では無い。
そんな国の王がお忍びだと知れれば、必ず勘繰られ警戒される。
そもそも信じて貰えるかも怪しい。
『はぁ……口封じするしか無いのか』
ディーイーは極地に至った身のこなしで、ヤオシュの右手を掴んだ。
「ぐっ…!?」
先程まで冷静だったヤオシュは、目で追えないディーイーの動きに驚愕した。
「私には大事な目的が有るの。だからこんな所で道草を食ってられないわ」
「私を殺す気ですか?」
「さてね…それは貴女次第よ」
『何…この動き?! それに軽く掴まれてても…』
全く右半身を動かせずヤオシュは困惑する。
今まで幾人もの”使い手”を見た来たが、そのどれも逸脱していると思えた。
『その武が極限の高みに在っても、魔術までは容易に防げないでしょう!』
「面白い! 私を制圧出来るなら、少しは考えてあげるわ!」
ヤオシュは空いた左手を掲げ、その手に魔力を収束させた。
”魔力の縄”
無詠唱で発動させた捕縛魔法は、ヤオシュの左手に青白い無数の蛇を顕現させた。
否…それは恰も蛇に見える縄であり、生物の様に蠢く挙動で見る者を震え上がらせる。
それでもディーイーは全く臆する事無く告げた。
「ほほう…魔力の縄使える人間が”此処にも居た”なんてね」
直後、ディーイーを捕縛しようと襲い掛かった魔力の縄は、その全てが一瞬にして霧散する。
これに唖然とするヤオシュ。
『なっ!? 打ち消した?!』
有り得ない……発動した魔法を打ち消すには、その魔法機構を破壊しなければ為らず、魔術師であっても不可能に等しい。
何故なら瞬時に魔法機構を分析して、それに対し対抗魔法を衝突させる必要があるからだ。
しかも魔法機構の核へ”正確に当てる”事が求められる…その様な所業は、もはや人の域を超えていると言えるだろう。
「どうしたの? それで終わり?」
不敵な笑みを浮かべて問うディーイー。
その姿は余りにも美しく、また殺気とは違った異次元の威圧を湛えていた。
『そんな馬鹿な…』
ヤオシュは半ば呆然としかける。
相手が如何な武人であろうと、近接戦闘で一度も負けた事が無かった。
つまり目の前の絶世の美女は”真逆の戦闘様式”でありながら、自分と似通ったような能力者の可能性が有る。
そうでなければ納得がいかない。
「傷付けずに捕縛するつもりだったが、もう手加減はしない!」
『手足の1本や2本は覚悟してもらう!』
ヤオシュは掴まれた右手を媒介にし、相手の神経へ魔力を押し込む方法を選んだ。
これは相対する敵を制圧してきた”最強の一手”の一つ。
人間だろうが魔獣だろうが、或いは魔法生物だろうが、体内の機能を破壊されれば行動不能となる。
そして今回は後遺症が残らない程度の威力を留める…そうでないと”勿体なさすぎる”と思えた。
”魔炎掌”
ヤオシュの右手を掴んだディーイーに、手を伝って何かが流れ込んで来る。
それは酸の如く不快で、熱さと冷たさが同居する不可解さを伴っていた。
『へぇ~~面白い技を使うな。いや…これは技と言うより…』
暗黒魔法と言うべきかも知れない。
何にしろ常人には成し得ないもので、ディーイーの胸中は感心と興味で満たされた。
「え……?!」
驚きの声を漏らすヤオシュ。
「フフッ…残念だけど相手が悪かったわね」
流れ込んで来た闇の魔力を、ディーイーは一瞬で霧散させる。
そうして右手を掴んだまま、空いた左手でヤオシュの鳩尾を軽く小突いた。
「くふっ!??」
凄まじい衝撃が鳩尾から全身を駆け巡り、ヤオシュは気が遠のくのを感じる。
痛さとは違った別の何か……食らった事の無い衝撃だった。
『で、でも……この程度で私は倒れない……』
グッタリと湯船の縁に背中を預けたヤオシュ。
そんな彼女を目の当たりにし、ディーイーは少し驚く羽目に。
『え…?! 今のは気絶させる勢いで打ち込んだのに?!』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




