1464話・ヤオシュとディーイー
刹那の章IV・月の姫(5)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
サーディクにエスコートされ、ディーイーは外に停まる豪華な馬車へ乗り込んだ。
すると内部は薄暗く、右奥の座席に人影を見て取れた。
「こんばんは、ヤオシュ団長」
ディーイーに挨拶されたヤオシュは、頭を下げて告げた。
「夜更けに申し訳ありません。ご迷惑でしたか?」
「ん〜〜どうでしょうね。貴女が訪ねて来た内容に因るのでは?」
少し皮肉気味に返され、ヤオシュは苦笑いを浮かべた。
「そうですね…実は色々と話がしたくて、我慢出来ずに押しかけてしまいました」
『うへ…これって大した用事じゃ無さそう』
ディーイーは今までの経験上、無意識に他者を魅了してしまう自覚が有った。
故にヤオシュの雰囲気と言動から、今回も例に漏れないと考えに至る。
反応が無いまま向かいの席に着いたディーイー。
これにヤオシュの自責の念が極限に達するが、同時に欲望が競り勝つ事態に。
「やはり…ご迷惑でしたね」
あからさまに落胆して見せたのだ。
ディーイーは困惑した。
『ちょっ!? これじゃあ私が悪いみたいじゃないの!?』
助け舟を求めて副団長のサーディクを探すが、彼女は乗って来ず、バタンッと扉を閉めてしまった。
『えぇぇ?!』
そしてディーイーは悟る…元より2人きりにするのが目的だったのだと。
徐にヤオシュは立ち上がると、ディーイーの隣に腰掛けた。
当然にディーイーは戸惑う。
「え…?! どうして真横に?!」
そんな戸惑う相手など気にせず、ヤオシュは肩や太腿を密着させて来る。
「怯えないで下さい…ディーイー様」
「待って! 一体何が目的なの?! 私と話がしたいのは嘘だったの?」
女性相手に力尽くで跳ね除ける訳にもいかず、ディーイーは言葉だけて抵抗した。
何よりヤオシュは妖艶な麗人で、面食いなディーイーからすれば尚更に強行は無理なのだった。
「……ですから話がし易いよう、傍に来ただけですが?」
この期に及んで惚けるヤオシュ。
『この女!』
流石に苛立ったディーイーは、座席にヤオシュを押し倒そうたした。
その刹那に馬車が動き出し、ディーイーの体勢が崩れてしまう。
「ぅわっ?!」
それでも魔法障壁を展開しているので、転倒した程度では大して痛くも無い…筈だった。
『あ……そう言えば展開してない…』
殆ど常時展開だった魔法障壁。
実は魔力核の異常の為に、魔法の一切を禁止していたのだ。
つまり今は展開しておらず、転べば相応な痛い目に遭う訳である。
ディーイーが転倒した直後、ゴチンッ!…と鈍い音がした。
同時に「ぐえっ!」と蛙のような声がして、そのままディーイーは動かなくなる。
「え……!! ディ、ディーイー様!?」
まさかの事態に、ヤオシュは卒倒し掛ける呪いであった。
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「うぅん……」
薄暗い空間で覚醒したディーイーは、直ぐに自分の記憶を辿った。
『確か……馬車の中でステ〜ンっと転んで…』
恐らく気絶したのだ。
全くもって鈍臭い…恥ずかし過ぎる。
そして柔らかなベッドに横たわってる事から、ヤオシュに迷惑をかけたのは疑い様が無かった。
『変わったベッドだな。確か…』
架子牀と呼ばれる北方様式のベッドで、天蓋が付いている所為か箱の中に居る気分だ。
「ディーイー様…気が付かれましたか、」
と心配するヤオシュの声が聞こえた。
「あ……何だかご迷惑をかけたようで、申し訳ないです」
ディーイーは上半身を起こして、ベッドの傍に座っていたヤオシュへ謝罪する。
するとヤオシュは苦笑いを浮かべ、ディーイー以上に済まなそうな声音で告げた。
「いえ…連れ出した上に、変に迫った私が悪いのです。こちらこそ申し訳ありませんでした」
「え〜と…どれだけ気絶していましたか?」
「2時間程です。一応、医者にも診て貰いまして…軽い脳震盪だそうです。直ぐに目覚めなかったのは、疲れが溜まっていたのではと医者が申しておりました」
「そうですか…」
疲れが溜まる心当たりが有ったディーイー。
ギルドでの登録や、それが済めば都督との会食…確かに一息つく暇も無かった。
この虚弱な体では少し酷だったかも知れない。
「何かお飲みになりますか?」
「それでしたら水を一杯頂けますか?」
「承知しました」
こうしてヤオシュは、何故か甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
不慮の事故とは言え、起因となった自責の念が影響しているのだろう。
少し落ち着いたディーイーに、ヤオシュは言った。
「何でもお申し付けつけ下さいね。傍に控えておりますから」
「え…でも深夜ですし、ヤオシュ殿もお休み下さい」
流石のディーイーでも恐縮してしまう。
また他人に不寝番などされては、逆に休めないと言うものだ。
「私が傍に居てはご迷惑ですか?」
しゅん…と俯き加減で尋ねるヤオシュ。
黒金と呼ばれる傑物は何処へやらだ…。
困惑するディーイー。
『えぇぇ…?! 一目惚れでもされたか?!』
「い、いえ…別に迷惑では無いですけど…」
正直なところ迷惑だが、そんな事を正面切って言える訳も無い。
「それなら良かったです」
ホッとした様子でヤオシュは傍の椅子に腰掛けた。
その姿は相変わらず妖艶だった。
晩餐の際とは異なり楽な浴衣姿なのだが、薄い絹のようで透け透けだ。
ディーイーとしては役得…と言うか目のやり場に困る。
『まぁ下着をつけているのが幸いだな…』
しかしながら、やはり他人の人目があると安心して眠れない。
と言うか気絶から目覚めた所為で、深夜ながらも今から眠れそうになかった。
「どうかされましたか?」
心配そうに尋ねるヤオシュ。
「え〜と…眠れなくって」
そうするとヤオシュは少し考えてから告げた。
「湯浴みでもされますか? 疲れているのに眠れないのは、気が昂っているからでしょう。湯に浸かって寛げば、きっと眠り易くなると思いますよ」
『ふむ…確かに一理あるな。それにまだ済ませてなかったし、丁度いいか、』
「では、お願いしても良いですか?」
「承知しました」
と返したヤオシュは、優しげな表情でディーイーに片手を差し出した。
「え…1人で立てますし、歩けますよ」
「フフッ…念の為です。また転んでしまっては大変ですから」
「そ、そうですね…」
再び無様に転んだ事を思い出し、恥ずかしくなってしまうディーイーであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




