1458話・都督との会食(4) ※挿絵あり
南門省の首都である四方京には、都市の中央に都督府が存在した。
位置的に言えば中央街に当たる中町だ。
ここは南門省でも地位の高い人間が暮らし、また行政機関である都督府に従事する役人も暮らしている。
つまり上級民と言われる人々が生活する地域と言えた。
また外部から中町に入るには関所を通過せねば為らない。
関所では南門省民である人間でも、身分証の提示を義務付けられて、更には中町への出入りを記録される仕組みにもなっていた。
これは万が一に起こった犯罪を、いち早く処理するための機構だ。
このような事細かな仕組みにより、外部から入った人間が起こす犯罪率は、ほぼ皆無な状況にあった。
しかしながら人とは愚かな生き物だ。
”中町の住人”に因る中町での犯罪は、残念ながら皆無にするには至っていない。
それでも他の町に比べれば犯罪発生率は100分の1で、非常に治安の良い地域と言えるのだった。
そんな中町の大通りを、ディーイー達は乗合馬車を貸し切りにして都督府へ向かっていた。
「ふ~ん…何と言うか、凄いキッチリカッチリした街並みね」
辺りを見渡しながらディーイーは呟いた。
「お姉様…楽しそうでは無いですね?」
と首を傾げるハクメイ。
「え? あぁ~~この街に人間臭さが無い感じがしてね、整然としてて凄いけど面白みに欠けるわね」
ハクメイは苦笑いを浮かべる。
「左様ですか……」
この街並みは代々の都督が苦労して築いた物だ。
なのに面白味が無いと酷評されては、可哀そうだと思えたのである。
「はははッ…まぁ、その気持ち分らんでもない。ここに住むのは上級民だけで鼻に付くしな」
などと言って同調するリキ。
そんな2人を注意するティミド。
「都督府に入ったら、そんな素振りは見せないで下さいね。権威者相手では、ちょっとした事で問題になったりしますから」
「分かってる分かってる」
「おうよ」
ディーイーとリキは生返事で返す。
『はぁ……本当に大丈夫かしら…』
ティミドとしては心配でならない。
自分の主君ながら”問題製造機”と思わずには居られないからだ。
そもそも直ぐに要らぬ事へ首を突っ込むし、変にお節介をしたりもする。
今までの素行から心配は当然であり、今回は何も起きない事を願うばかりである。
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都督府前には広大な馬車の駐車場が広がっていた。
しかし広大な割には然して馬車も停まっておらず、ディーイーは首を傾げた。
「んん? 何だか無駄に広い敷地だね」
「都督府で働く人間の殆どは、裏の奥に在る駐車場を使うようです。ですので表側の敷地は、都督府に用事が有る領民専用の駐車場ですね」
と間髪入れずにシンが説明してくれる。
「なるほどね〜〜」
領民と役人の両方に配慮している事へ、感心するディーイー。
普通の領主ならば、そこまで考えたりはしたいだろう。
『まぁしかし自前の馬車が有るって事は、裕福な人間だけだしな…』
つまり中町に住む"上級民や役人"にのみ手厚いと考えれば、リキが言っていたように鼻に付くと言うのも確かだ。
貸し切った乗合馬車を帰し、ディーイー達は巨大な都督府の府舎を見上げた。
正面から見た外観は、門口を中心に両側へ50mは棟が伸びており横長だ。
また基礎部や柱などの骨格となる部分が石造りで、8階建てとなっている。
故に一見して抱くであろう印象は、誰もが"要塞"と言うに違い無い佇まいだった。
「大きいですね…何だか緊張して来ました」
と小声で呟くハクメイ。
先程までの元気は何処へやらだ。
「何言ってるのよ…ハクメイが住んでいた火炎島の居城の方が大きいでしょ」
ディーイーに突っ込まれ、ハクメイは苦笑いを浮かべた。
「そ、そうですね。でも他の権威者の象徴に来るなんて初めてなので…」
「フフッ、権威者の象徴か…上手い事言うね。でもこんな所でビビってたら、都督や憧れの黒金に会うまで持たないわよ」
「はい……って、私はお姉様一筋です!!」
「はいはい。分かったから中に入ろう」
ハクメイの手を優しく引き、ディーイーは都督府の門口へ向かう。
『確かに立派な建物ね。傭兵ギルドより大きいんじやないかしら』
行政関連の建物が立派なのは、それ相応の意味が有る。
その最たるものが有事の防衛力だ。
侵略や反乱が起こった場合、行政の中心である建物が狙われるからである。
加えて災害時の避難場所とも成り得るので、巨大で頑強な建物は定石と言えるのだ。
そして政治的な意味合いでも、巨大な建造物は古来より意味が有った。
それは国内外に示す権威だ。
国や行政関連の建築物が巨大で、或いは華美であればある程に、その財政力の高さが窺える為だ。
『果たして此処の都督は権威に溺れる愚者か、それとも遣り手の統治者か…会うのが楽しみだな』
などとディーイーは思いながら、府舎の入り口へ足を踏み入れた。
入って直ぐには扉は無く、門口から真っ直ぐ先に通路が10mほと伸びている。
通路内は頑強な石造りで、明らかに虎口的な役目が窺えた。
首を傾げるディーイー。
『ん〜〜こんなに防衛力へ重点を置くのは変だな』
此処は謂わゆる役場であり、万が一を想定するには余りに過剰に思える。
そうして突き当たりに来ると衛士が2人立っており、身分証の提示と都督府へ来た理由を聞かれる。
シンが直ぐに対応した。
「都督閣下の晩餐に招待された傭兵団・眠りの森です。傭兵ギルドの方で此方へ来るよう指定されたのですが」
これを聞いた衛士は居住いを正す。
「前もって話は伺っております。では一応の確認をさせて頂きますか?」
貴賓である火炎島領督の嫡子と、所属する傭兵団の団長が身分を証明せよと言っているのだ。
察したディーイーが前に出て、自分の身分証を衛士へ提示する。
すると怪訝そうに衛士がディーイーを見つめた。
「……」
「あ……これは失礼」
失念していたとばかりに、目元が隠れる仮面を取ったディーイー。
『こんなの毎回しないといけないのかな……』
これでは面倒な上、わざわざ仮面で隠している意味が無くなってしまう。
すると予定調和な事態に発展する。
そう…絶世の美貌を持つディーイーを直視し、衛士が2人揃って固まる事態に至ったのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




